第21話 九つの命
首を切り飛ばされたナキリだが、自らの生首をぶら下げて立ち上がると、言うに事欠いて、
「よくも、俺を殺してくれたな?」
と宣った。帽子でもかぶるように生首をあるべき場所へ戻す。血の跡は隠しようもないが、その首は自然とつながった。喉をさすりながらいう。
「化猫には九つの命があるのさ。よくもやってくれた。これで俺の命もあと八つだ。ちくしょうめ」
そう吠えるナキリの旗袍は、血にまみれて体に張り付き、少女らしい体つきを露わにしていた。警戒して構えを取るチヨを見やっていう。
「悪いが、俺はもうやらないぜ。その鋏とは相性が悪いらしい。こんなところで二度も三度も殺されちゃたまらんからな。
それより、おまえの恋人を喰らってやろう。鬼と化したと言っていたが、なかなか希少なことなんだ。道士らの使う禁術で、人を鬼に変えるものがある。半神半鬼の法と言ったかな。
元々は、不老不死を求めての副産物。魂を失う代わりに不死の体を得るとか。どうだ? そんな体を奪い取ったら、ずいぶんと楽しそうじゃないか」
ふふふ、と笑う。血まみれの姿は凄惨かつ蠱惑的だ。そこへ、覚悟を決めたかのように、しっかりと前へ出てトウショウがいう。
「化猫よ、ナキリよ、その姿で、その声で、話をするのはもう止せ。父さんも母さんも殺されたと理解した。ナキリがナキリでなくなったことも理解した。おまえを殺さなくてはならないことも理解した」
言うと同時に、チヨから鋏を奪い取って、ナキリに向かって行った。鋏を振り回すが、いっこうに当たらず、鋏も鋏としての姿しか見せない。
軽くあしらわれ、血に染まった旗袍から伸びる白い足で引っ掛けられた。派手に転げる様を見て、ナキリが楽しげに笑う。




