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第20話 宝具


 蹴り飛ばされたナキリは素早く体勢を整えると、怒りに燃える目でチヨを睨みつけた。


「貴様、ただの人間じゃないな?」


「ふふん、あたしは何の変哲もない人間様さ。あんたこそ、ナキリじゃないんだね?」


 一張羅の着物に天狐の面、こちらこそが化物のよう。手を組んで仁王立ちのチヨである。


 ギリギリと歯を鳴らし、鋭い爪を剥き出しにしたナキリが飛びかかる。だが、流れるような動きのチヨを捉えられず、かえって飛びかかった勢いそのまま壁に叩きつけられた。


 瞬時に跳ね起き、さらに飛びかかるその手がチヨの懐に当たったかと思うと、火花を散らして弾かれた。チヨが懐から取り出したのは、ソウにもらった小さなはさみだ。ちりちりと光を発している。


「なぜ、そんなものを持っている?」


「なぜと問われて答えるに。こいつは、ただの貰い物。旅の道士からもらったんだ。美しき乙女には艱難辛苦かんなんしんくが降りかかるといってね」


 その言葉を聞きながら、いまだ体の動かぬトウショウは、美しき乙女にはなんて言ってなかったぞと言いたくて仕方がなかった。


 それはさておき。


 どうやらこの鋏、化物に効き目がありそうである。チヨは鋏を目線の高さに持ち上げて、チャキチャキと刃を合わせてみせた。それを睨みつけながら、ナキリが唸るようにいう。


「そんなもので俺に勝てると思うなよ。持ち手を殺せば、それで終わりだ!」


 高く跳び上がり、天井を蹴って襲いかかる。鋭い牙で喉元に喰らいつこうとしたナキリだが、


 ザン!


と首を斬り飛ばされた。驚愕の表情で、ゴロゴロと床を転がっていく。


「気休めどころか、大した鋏だ。危ないところだったね、トウショウ。それとも、もう少し遅い方が良かったかい?」


 その軽口に、今回ばかりは応じる余裕もないが、首を失ったナキリの体が倒れると同時にトウショウの呪縛もとけた。

 寝台を降り、父母の息を確かめる。二人とも首の骨を折られて事切れていたが、まだ悲しみは訪れてこない。さらに、もう一人の大事な人のこと、認めたくないナキリのことに気持ちを向けた。


 切り飛ばされた首が落ちた場所を探るが、あるべき場所にそれがない。


 と、傍らでチヨが息を呑むのがわかった。


 視線の先で、首のないナキリが立ち上がっていた。その手には、黒髪を乱暴に掴まれて、ナキリの生首がぶら下がっていた。苦悶と怒りの表情をみせる生首が、血を吐きながら唸る。


「よくも、俺を殺してくれたな?」


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