第19話 最上の快楽と最悪の苦痛
華奢な少女が、腹の上にちょこんと座っている。その見た目も声もナキリそのものだ。潤んだ瞳でトウショウを見つめ、もう一度、深く口付けをした。
「最上の快楽をくれてやろう」
「ナキリ、やめろ。冗談なんだろ?」
「いーや、冗談なんかじゃあない。ほら、そこで死んでいるのは誰だ? それを殺したのは誰だ? そして……」
と、トウショウの下腹に手を伸ばす。
「この感触は、夢でも幻でもないだろう? ふふ、ふふふ、いいね。こんな状況で押っ立てやがって。悲しいねぇ。人間は悲しい。心と体はひとつじゃない」
ナキリが下腹を跨いで座り直した。互いの体が求めあっていることがわかる。
「娘っ子も、おまえのことが好きだったんだな。可哀想に。病の弟に呪われなければ、この俺に出会わなければ、幸せになれていたかもしれないのに。
よしよし、俺が半分だけ、体だけ幸せにしてやろう。娘の体で、ナキリの体で抱きながら死なせてやる。最上の快楽と最悪の苦痛の中で、この世界を呪いながら死ね!」
動けないトウショウの体を弄り、口付けながら妖しい笑みを浮かべる。身をずらせて導こうとしたナキリが、腹の上から弾き飛ばされた。
空中で体勢を整えて、すとんと床に降り立つと、自分を蹴り飛ばした侵入者を睨みつける。
「誰だ!」
「問われて名乗るもおこがましいが、愛し愛され、みなの恋人、チヨさんの登場さ」