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第11話 猫と少女と平手打ち


 清朝にも列国にも属さない宙ぶらりんの城砦都市が、トウショウの住む街だ。災害や戦争で流民となった人々がひしめき合うように暮らしている。最初に出会った顔なじみは、


「ナキリ! 元気そうで良かった。戻ったよ」


「あ、トウショウ! やっと戻ってきたのね。おばさんが、すごく心配してたよ。手紙も寄越さないで!」


 怒ったように言う少女は、年の頃は十七かそこら、短く伸ばした黒髪と、真っ黒な瞳が白い肌に映えている。右手に小さな黒猫を抱いて、左手は幼い男の子の手を握り、背中には赤子を負ぶっている。決して住み良いわけもない流民街で、垢と埃にまみれながら、まっすぐな瞳には力強い光が溢れていた。


 ナキリの視線にたじたじになりながら、手紙を書く暇がなかったと言い訳をする。まだ不満そうなナキリの顔を見上げて、その手を握っていた男の子が不思議そうにいう。


「なんで怒ってるの? やっとトウショウが帰ってきたのに。毎日、城門まで見にいってさ。今日も見にいってきたところなんだよ。この猫もその時に見つけたんだ。まだかな、まだかなって、おばさんよりもお姉ちゃんの方が……んぐぐ」


 黒猫を下ろしたナキリが、弟の口を手で塞ぐ。


「おばさんに頼まれたの。なかなか帰ってこないから心配だって。それより、その女の人は?」


「ああ、この人は……」


 と言いかけたトウショウに被せて、


「あたしは、チヨ。東の海の向こうからやって来たのさ。あんたがトウショウの……」


と言葉を切って、わざとらしく問いかける。


「……なんだっけ?」


「幼馴染だ、幼馴染!」


「はぁん? それだけだっけな」


 これ以上はごめんだとばかりに、じゃれついて来た黒猫を見て、トウショウが話を変えた。


「この猫、城門のところにいたのか?」


「敷居の手前で、ずっとにゃあにゃあ鳴いていたの。抱き上げて連れて来たんだ」


「黒猫は福猫だし、なんか良いことがあるかもな」


「うん。もうあった」


 だって、あんたが帰って来たものと心で続けながら、ナキリは、もう一度チヨを見た。


「あたしのことが気になるかい? たまたま港で知り合ってね。トウショウには世話になったよ。一緒の宿に泊まってさ」


「い、一緒って……!」


「一緒の部屋だよ」


 言いながら、トウショウの首に手を回してみせた。わなわなと手を震わすナキリの様子を楽しむと、駄目押しとばかりにいう。


「抱いてやるってのに、相手してくれなくてね。あたしよりもナキリが抱きたいんだとさ」


 戸惑ったように、次には耳まで顔を赤くさせて、つかつかとトウショウに近付くと、ナキリが小気味よくその横面を叩いた。

 足早に歩き去る背中を、トウショウが追いかける。さらに、その後を黒猫が追いかけていく。途中で、ふと振り返ってチヨを見つめる黒猫は、お前は追いかけないのかと聞いているかのようだった。しかし、チヨの返答は、


「しっし、猫は嫌いなんだ。さっさと行きな!」


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