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第1話 死なずの人


 夏の盛りに旅などするものではない。


 祖父は、ぶつくさ言いながら歩いていた。道も整えられんようでは、もう清朝も終わりじゃ、などとうそぶいて。


 異国では遠くまで鉄の道が続き、庶民も乗物で旅をするというけれど、この地には土の道しかなく、私たち貧乏道士の一家は自分の足で旅をするしかなかった。


 あの日、私は祖父と兄様の後を追って荒れ果てた街道を歩いていた。カラカラに乾いた心を映して、雲ひとつない真夏の空を見上げながら。


 不意に、強烈な力で足首を掴まれた。


 何が起きたのかわからなかった。さっきまで空を見ていたはずなのに、目の前に地面がある。


 右足が動かせない。万力のような力で締め上げられ、足首がへし折れそうだった。


 最初は、転んだものと思って笑っていた兄様の表情が凍り付いた。七星剣を抜き取って走り寄ってくる。


 私は、自分の足を掴むモノを見た。


 それは人の腕だった。


 道の両脇に並ぶ無数の土饅頭、土で盛った墓の群れ、その下から突き出た一本の腕が、私の足をギリギリと掴んでいた。


 兄様、兄様と助けを求める私に応じて七星剣が振り上げられたが、振り下ろされることはなかった。


 止めたのは祖父だった。


 妖異の類ではない、まだ生きておる、と。


 幼く純朴だった私は、足首の痛みに顔をしかめながらも、なんとか助けてあげてほしいと祖父に懇願した。


 でも、あの時、本当は見殺しにするべきだった。そうすれば祖父も兄様も……




……昔を思い出しながら歩いていた私に、兄様が声をかけてくれた。


「足元に気をつけろよ」


「ええ、ありがとう。兄様」


 と応じつつも、私は空を見上げた。カラカラに乾いた真夏の空。


 あの時と違うのは祖父がいないことと、薄い昼間の月が浮かんでいること。月の位置と模様は、あまり良いものとは言えない。


 遠方より、招かれざる客の来訪あり。


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