67両目
動乱の時の刻み、熱を帯びる吹き荒ぶ風が大地を焼き尽くす。
大海原に照らす陽の光は、血の色ーー。
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当時の【国】の発展は、王族が中心となって執り行っていた。
“輝力”が長けている女王は【国】の民の暮らしを“力”で保っていた。
気象異常、他国からの奇襲。女王は次々と先の時の刻みを“感知”して【国】の民に回避の助言を表した。
ただし、女王が直にではなく、女王に仕えていた側近の男が“感知”を言葉にして伝えていた。
ある日【国】で動乱が起きた。
女王が“感知”した先の時の刻みは外れたと、民は暴動を起こした。
手を出してはならない“戦”と、女王は“感知”した。
他国の領土を手にいれて【国】の領土を拡大させる機会を失うことを恐れた側近の男は、女王が“感知”した先の時の刻みを伏せて民に“戦”を仕掛けるようにと促した。
戦乱は激しく、状況は【国】側が不利へと追い込まれた。
“戦”によって、膨大な犠牲が生じた。
民の怒りの矛先は、女王に向けられた。
民の暴走を止める為に、女王は自らの命を絶つで責任を負った。
“天”との間に生まれたとされている王女を王族に仕えていた女性に託し、女王は夕陽が沈む海深くに身を捧げる。
【国】の統治は側近だった男に引き継がれ、疎ましい存在の王女を【国】から追放するのを執り行った。
王女の追放に同行したのは、崩御した女王の身の回りの世話役だった女性。
女性はたったひとつの朱色に染まる麻袋を下げて、王女の手を引き【サンレッド】に辿り着く。
女性も“輝力”が長けていた。悍ましい“真実”が蔓延る【ヒノサククニ】を封じる。
役目は“女王”から託されていた。王女と共に託されたのは【国】を封じる為の“輝力”が詰められていた朱色の麻袋。
王女。娘にはまだ使いこなせない“力”だと“女王”は女性の掌に麻袋を握らせた。
以後、わたしはヒメカ。わたしはあなたの友に戻り、あなたは娘のいく末を見守って欲しい。
女王は、ヒメカの“輝力”は失われていない。
動乱の引き金になったのは、側近の男の邪な感情。民の不協和音を払拭させるには、多く下に打消しを伴う。
“真実”は胸の内に。
異国の地【サンレッド】から【国】へと続く路を“境界線”を引くことで封鎖した。
同時に【国】に“結界”を張る。
他国から【国】は見えない。行くことも、許さない。
【国】を閉ざす“輝力”の効果は一定の期間で失われる。
ヒメカの娘は、まだ“輝力”を使いこなすほど成長していたない。ヒメカの娘に重荷を背負わせまいと、女性は“封印”の更新を年単位で繰り返していた。
役目は“血”を繋いでも果たす。
意志を示すヒメカの娘に見守られながら、女性は息を引き取った。
女性は“輝力”を解放続けたことによって身体が衰弱してまい、命を落とした。
女性が最期に託した、母の“輝力”が詰まっていた空の麻袋。
母の形見でもあり、女性の形見でもある。
時は巡り、朱色の麻袋は【国】の女王の“血”を受け継いでいた母から息子へと託された。
タクト=ハインは、亡き母が“更新”で携えてた“道具”を肌見離さずで所持していたーー。
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【国】を解放させてはいけなかった。母の命が短くなったのは我の所為だ。
起源を知っても“真実”は消えない。
【国】を巡って、蠢く陰謀。打破する為に立ち上がった、かつての仲間。
絆も巻き込んだ。
すべては、この身体に流れる“血”の為にーー。
「タクト、貴様が腑抜けになってどうする」
掠れた声での叱咤だった。
タクト=ハインは、顔を僅かにしかめる。
「僕の今は無様。タッカさん、あなたは笑い飛ばすことを何故、されないのですか」
「なんだと」と、タッカはタクト=ハインの胸座を掴んだ。
「この、大馬鹿どもめっ! 潰し合いをするのはどんな状況下に措かれても許さないと、俺が言ったことを忘れたのかっ!!」
タクト=ハインとタッカの険悪な情況に、ルーク=バースが割って入り込む。
「黙れっ! バース。そもそも、貴様がタクトを甘ったれた性分にさせたのだっ!!」
タッカは、ルーク=バースに手首を掴まれた。
拳をタクト=ハインに翳す為に、タッカはルーク=バースの掌を振りきろうと抵抗を示していた。
「モウッ! アナタたち。喧嘩は……。イヤ、タクトくんはダメよ、ダメダメーッ!!」
ザンルの阻止も虚しく、タクト=ハインの頬にルーク=バースの拳が命中したーー。
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「すまねえ、タクト」
「いえ、バースさんは悪くありません」
頬を氷嚢で冷やすタクト=ハインの視線の先は、タッカを捉えていた。
燻ってやがる。
タッカはタクト=ハインの目付きがそうだと、怒りを静かに膨らませていた。
「大将、これからどうするのォ?」
「ああ、わかってるわい」
ルーク=バースはザンルの促しに相槌をした。
「カナコさんが連れて行かれた場所は、決まっております。カナコさんを助けるお手伝いを、私も致します」
「淑女。その言葉は嬉しいが、俺的には受け入れられない。そう見せかけといて、俺達を陥れる。これまでの経緯から推測すれば、そっちが濃厚だ」
タッカの異論に“女”は「びくっ」と、肩を竦ませた。
「そうなったらなったで、俺が止める。タッカ、おまえの臆測なんて、しったことじゃねぇよ」
ルーク=バースはタッカに向けて「けっ」と、舌打ちをした。
「タクト」
「リレーナ。僕達は、キミに頼るしか方法がない。キミは《奴ら》の内部事情も知っている筈だ。当然、施設の仕組みも同じく」
“女”からもう、名を呼ばれることはないと思っていた。しかし、向こうから開口されてしまった。
“女”が名を呼ぶことで、タクト=ハインは受け答えをした。
「タクト。あなたに身も心も捧げていたのは、既に過去の事。償うには相応しくないけれど、あなた達のお役に立つ為に私は精一杯尽くす。その役目を、是非させて」
期待はしていなかったが、改まっての“精算”に成す術はない。
「頼む、リレーナ」
タクト=ハインは、頬から外した氷嚢をテーブルの上に乗せたーー。
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蒼がこんなにも不感な色だと思ったのは初めてだ。
立ち位置は全くわからない。見えるのは、どこまでも続いている蒼の広がり。
解るのはタクトとまた離れてしまった。カナコは、そっと涙を溢していた。
「落ち着いたか?」
不利な状況下であったが、幸運は尽きていなかった。
「まさかハビトがいるとは思わなかった。もう少しで、諦めるところだったの」
「そう思われても仕方がないか」
ハビトは「ふっ」と、笑みを湛えた。
「相変わらず、変な性分」
つい、嫌味を口で突く。
カナコも笑みを溢すのであった。
「ビート」
「うん、ハビト。大体の経緯は、ボクでもなんとなく解っている」
カナコの笑みは止まった。弟、ビートも同じ空間にいた。
此処に、揃って放り込まれた。
顔を合わせた瞬間、カナコは堪らず涙を溢れさせた。
カナコが泣き止むのを、ビートを挟んでのハビトは黙って見守っていた。
「それにしても、この輪っか。何とかならないかしらっ!」
「無理だ。そいつの解除は、填めた奴でないと出来ない仕組みになっている」
カナコは「ぜいぜい」と、息を切らせていた。
左手首に巻き付く、金属製のリストバンドを外したく右の指先を隙間に入れるがびくともしないと、半ば憔悴したさまとなっていた。
「ああ、頭にくる。なんであいつが……。」
「ハイン先生がやられるほど、やつは悍ましい“力”を身に付けていた。カナコ、やつに真っ正面から立ち向かうは、絶対にするな」
「嫌よっ! 今度こそ『ぎゃふん』と、言わせるっ!!」
カナコは眉を吊り上げて「ぐっ」と、拳を握りしめた。
「ボクの中にいた“音波のうなり”が、お父さん達が来るまで大人しくしとけだって」
「あいつか。全然姿が見えないと思っていたら、おまえとは“同調”していたのか」
「ビートはお父さんの“芯”だ。ボクはお父さんの“芯”を仕舞っていた。でも、切り離された」
「あいつが仕掛けた“嫌がらせ”を解く為にだったよね? あれがお父さんの……。え?」
「“器”はルークさん。おまえ達の中に流れている“血”は“音波のうなり”の元々の身体から与えられた。つまり、ビートもーー」
「ビート、どうする?」
「今さら気付いてもボクは嫌だよ。あ、こんなときにかぎってーー」
ーー『父上』と呼べ、我が子達。
“音波のうなり”が、ビートの至近距離で勝ち誇る顔を剥けていたーー。




