6両目
カナコは〈プロジェクト〉メンバーと〔娯楽、学習室〕にいた。
机に向かって学習向上心を高めている。ならばよいだろうが、タクトが(細かい理由は割愛)いないことをいいことに、彼らが熱心に立ち向かっていたのはーー。
「駄目、駄目っ! カナコ、それでは途中で止まってしまう」
「馬鹿っ! ナルバスの所為で折角並べたのに倒れてしまったじゃないっ!!」
「わぁっ! 綺麗。ね、シャーウット」
「ピアラ、喜ばないでよ」
「ぱたぱたと倒すなっ! ハビト」
「怒って言うな、ナルバス。どうせ、最初から並べるしかないだろう?」
「あーっ! ビートッ!! 来ないでっ!!!」
「タクト先生がお姉ちゃんを食堂車両に呼んでこいと、言われたけれど?」
かたかた、ことこと。と、床に机の上に窓の冊子にと、室内の隅々までに並べられた小さな板が、音を発てながらなぎ倒されていったーー。
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車両の通路を歩くカナコは足取りを重くしていた。
カナコはタクトから説教をされるのではないかと、想像をしていた。
ーーカナコ。お父さんに冷たいのは、あんまりだよ。
タクトが絶対に言うだろうの説教を、カナコは想像をした。
ーーカナコ。俺が今着てる服だと、猫と犬が付いてくる。だよな?
父が一緒にいると思うと、また拍子抜けるはしたくないのもあったので、自然と足取りが重くなっていた。
ーーにゃあ、わん。にあわん、似合わない……。
「もうっ! わたしを悩まさないでよっ!!」
想像が馬鹿げてると、怒りを膨らましたカナコは食堂車両で目を合わせたバースに激昂した。
「俺、何かした?」
バースは〈ブブナッツ〉を口の中に入れそびながら、哀しそうな顔をカナコに剥けた。
「カナコ、お父さんが可哀想だよ」
「ロウスおじさん!?」と、カナコは振り向き、顔を真っ赤にさせた。
「何だ? タクト。文句あるのか」
「バースさん、僕に当たり散らさないでください」
バースはテーブル席の通路側に座っている、隣のタクトを睨んで、タクトもバースに険相をした。
「ロウスおじさんが来たから、タクトはわたしを呼んだ。顔を見たから、もうーー」
カナコは頬を膨らませると、食堂車両の扉へと振り返って、右足を一歩前に出した。
「待て、カナコ。ビートにおまえを呼んでこいと言ったのは、俺だぞ。何で『タクトが呼んでいる』になってるのだよ?」
「バースさんだと反応が薄いからでは?」
「……。だから、何で『タクト』だよ」
「僕に訊かれても知りませんよ」
喧々諤々。と、バースとタクトの言い合いが止まらない。
「おじさん、みっともないからふたりを止めてよ」
「いや、よしとく。たまには羽目を外すも、いいのだよ」
「どう見ても、子供の喧嘩。特にお父さんなんて、そうにしか見えない」
ロウスはオレンジジュースが注がれたグラスをカナコに差し出した。カナコは受けとると、ストローに口をつけて啜るをした。
「カナコは、知らないのかい?」
ロウスの言うことに、カナコは「何に?」と、訊ねた。
「その様子だと、バースから聞かされていなかったのだな? おい、バース。それにタクトも止せっ!」
「ほら、ロウスさんに怒られたではありませんかっ!」
「俺の所為かよ?」
「どっちも、黙ってっ!!」
カナコの激昂で、バースとタクトはぴたりと、口を閉ざして背筋を伸ばしたーー。
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カナコはタクトとバース、そしてロウスと共に通信室へと、いる場所を変えた。
「隊長。あんたの息子、オレの弟子にしてくれだとよ」
カナコ達が入室をすると、グレーの長髪を首の後でひとつ縛りにして頬骨が浮いている男が、通信室に設置されている電子機器を操作していた。
「ははは。ビート、タイマンにいきなり弟子志願か?」
「お父さん、直ぐじゃないよ。ぼくが大きくなったら、だよ」
バースは笑みを湛え、ビートの頭をそっと撫でた。
「“電脳の力”を使いこなしたい、だとよ。しかし、身体に負荷が掛かる。成長期の隊長の息子には、オレがしっかりと言い聞かせた」
タイマンは電子機器から離れると、右肩の関節を前へ後ろへと回した。
「この人も、お父さんの?」
カナコはタクトに肘を突き、訊いた。
「そうだよ。タイマンさんは『あの頃』でも“電脳の力”の一番の使い手。だから、キミのお父さんはタイマンさんを呼んだ」
ーー《陽光隊》再結成ですね……。
先程、タクトが父に言ったことをカナコは思い出す。
ーー聞かされてなかったのだな?
同じく、ロウスが言ったこともだ。
どっちも、意味合いがある言い方をしていた。
父の『仕事』の関係者。或いは、かつての『仲間』なのは解るが、さらに深い部分である“何か”が見えてこない。
訊きたい。
しかし、カナコは尋ねるを躊躇った。たとえ尋ねても父のことだから、巧みに話の焦点をずらすだろう。
だから、待つ。
父が自分から語ってくれることを待つと、カナコは決めていた。
タクトからでもロウスからでもなく、父の言葉での『何か』を知りたいと、カナコは思った。
「隊長、列車の走行システムが破壊されている。復旧させるには、新たにプログラムを入力するしかない」
「焦るな。列車を走行させるには“あれ”を取っ払う作業もいる。タイマン、おまえは“そっち”におもいきり集中しとけっ!」
列車のシステム異常と原因に於て、タイマンが対処法をバースに報告をする。そして、受けたバースはタイマンへ指示をした。