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41両目

 ジオこと、ジュー=ギョイン。

 〈プロジェクト〉メンバーもタクト=ハインから“育成”についての授業を受けると期待していた。しかし、教壇に立っていたのは見知らぬ男で、お世辞にも温厚な性分とは言えない雰囲気が受け入れられなかった。


 カナコはメンバーより真っ先にジオが気に入らないと態度で示すと、ジオもカナコに反応をしたかのような様子だった。


 姉、カナコの厳つい顔。姉の破目外しを止める役目を何度もしているビートは、凍りついた顔つきのジオと目を合わせて身震いをしていた。


 ジオが姉に容赦なしの態度に変わると確信したビートは「お姉ちゃん、駄目だよ」と、カナコの腕を震える指先で突いた。


「ビート。お姉さんと違い、賢い選択をした」

 ジオは鼻で笑い、右手に握っていた教鞭の先端で頭皮を掻く。


「ビートの馬鹿」

「だって、先生だよ」


 ジオへと感情を膨らませいたカナコは、ビートに止められた怒りをむきだした。


「はい、ミーティングは終わり。これより授業を始める。テキストの一頁目を、読んで貰う」

 ジオは教鞭の先端を頭皮から離すと、カナコに向けた。


「名前を呼んで、指してくれませんか?」

「さっき、呼んださ」


 また、険悪な情況になった。他のメンバーはどう思っているのかと気になったビートは、始めにハビトの顔色をうかがった。


「前を向いてろ」と、ハビトに促されてしまい、渋々とテキストの頁を捲った。



 ======



 一方、タクト=ハインは〈プロジェクト〉メンバーとは違う場所へと向かっていた。


 スキンヘッドとサングラス。口髭でがたいが大きい黒のスーツ姿の男が、案内役としてタクトに付き添っていた。


 〔関係者以外、立ち入り禁止〕


 辿り着いた場所の扉に掲げられているプラカードの意味を知りたくないと、タクトは目を綴じて首を横に振った。


 扉を開く為、錠として設置されている機具を男が操作していた。

 男がパスワードを打ち込んでいるだろうの指先の動きは素早く、目で追っていたタクトは目眩を覚えた。


『ショウゴウ、カンリョウ。ニュウジョウヲ、キョカシマス』


 機具のスピーカーから機械仕掛けのような人の声に似た音が流れ、男の右手が扉のドアノブに添えられた。


 タクトは男の無言の促しで、中へと入った。

 冷たく、薄暗い路。かつかつと、靴が鳴る音が反響する。方向感覚はなく、男を見失うでもするならば此所で一生を終えると錯覚してしまいそうだと、タクトは男の速い歩調に合わせた。


 男が立ち止まった。タクトが目を動かさないで見ることのできる範に入ったのは、男がスーツの懐に手を差す仕草。


 まばたきをした、次に見えたのはーー。


 男の姿はなく、黄金色の大輪の花を象らせた扉。


 此所でも、か。


 タクトは呆れたさまで銀色の光を放つ珠の取っ手を掴む。感触は束の間でぼろっと、扉が粉微塵に砕け、宙に舞い散った光の粉がさらさらと、タクトの足元へと降り積もった。

 さくさくと、タクトは足形を付ける。砂の感触がするとわかると、踏みしめる度にきゅっ、と、鳴らせる。


 タクトの心は静かだった。目の前に広がる蒼の空間にぽわっと、宝石を彷彿させ漂う数多の、さまざまな型の小さな固体。

 目が眩むほどの輝きを放つ球体にタクトは指先で触れ、硝子のように砕けそうだと掌の加減をしながら包み込んだ。


 ーータクト、みんなと一緒に帰りましょう……。


 目蓋の裏に映るリレーナが微笑んでいる。


「ごめん、リレーナ。どうやら、約束を守れそうにないよ」


 飴細工のように、タクトの身体は変わる。そして、解き放つ“蒼の光”を交らせて溶ける。


 ふわり、ゆったりと、水を弾く油を彷彿させる蒼の液体が空間で漂っていた。



 ーー“燃料”の回収に成功した。HRGの稼働準備の進捗状況を報告されたし。


 ーー万全に調っている。


 ーー了解、直ちに〈ゲンヴァー〉へと向かう。


 かつん、こつん。かつん、こつん。


 中身が詰まったボストンバッグを抱える男が、漆黒で染まる空間の通路に靴を鳴らしたーー。



 ======



 ジオは鬼だ。


 比べるをするつもりはないが、タクトの方が凄く甘い奴と思えるほどだーー。


「はい、ハズレ」

 にたにたと、ジオはカナコに笑みを湛えた。


 しくじりを待っていたようなジオの顔つきに、カナコは怒りを膨らませていた。

 授業の最中、ジオが突きつけた問題を解いたカナコは、たった一文字が間違っているという理由で“宿題”を押し付けられてしまった。


 ◎ 施設のまわりに生える雑草抜き。

 ◎ 窓拭き。

 ◎ 腕立て伏せと膝の屈伸運動、470セット。


 一枚のメモ用紙に記載された、ジオから渡された“宿題”だった。用紙を握りしめるカナコの掌は、わなわなと震えていた。


「特に、3番目の“項目”は、致しませんっ!」

 カナコは、多目的ルームの隅に設置されているデスクの表面に拳を叩きつけた。


「はい、正解」

 椅子に腰かけるジオが拍手をした。


「試したのね、馬鹿にしないでよっ!」


「どんな解釈をしたのかは、どうでもいい。無理は無理と伝えるをするのは、危険を回避する為の知恵」


 ジオは椅子から腰をあげると、鼻息を噴くカナコを退かして室内から出ていった。


「どっちにしろ、むかつく」


 カナコは閉じられた扉に向けて「べ」と、舌を出したーー。

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