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37両目

 電子機器を操作して【国】の情報収拾に中っていたタイマンは、ディスプレイに表示されていた項目に目を見張った。


 《マグネット天地団》は《グランスカイエンタープライズ》に名称を変えた。

 企業の宣伝は大々的に誇示されており、更なる社会貢献の約束するを全面に出していた。


「アラ、ティガプレオンだワ」

 広告画像を見たザンルは、声を弾ませた。


「そうみたいだな。銀幕のスターを広告塔にするとは、宣伝に相当金を掛けているということだ」

 タイマンは閲覧した内容を複写した用紙をプリンターから引き抜いた。


 《ムラ》にあった機具が【国】の外部の情報を受信している。タイマンは其処が腑に落ちなかった。


 わかるのは【国】はいまだに《奴ら》の支配下。だが、隊長はまだ我々の足を止めている。


 隊長からの指示を待つしかない。


 ザンルが拡大複写された画像に写る俳優に興奮をしているのを横目に、タイマンは電子機器の電源を落としたーー。



 ======



【国】といっても大規模な面積でなく、例えるならば都市の街区画に相当している。


【此所】には、太古の《国の民》によっての営みの証が至るところに残っている。

 現在一行が待機場所にする〈悠凜(ゆうりん)のムラ〉より北の方角の中間位置にある〈美里(みさと)のムラ〉が一般的な居住区。


 〈倉と市〉は交易の中心地。


【国】を治めていた王たちの住まいが建つ〈和水(なごみ)の内郭〉は現在地より北の方角。そして【国】では最も神聖な場所である〈不二(ふじ)の内郭〉は〈美里のムラ〉の東に位置している。


 ここまでは《奴ら》の活動拠点を突き止めるに於いての【国】の地域を把握したにすぎなかった。


 陽光隊は《奴ら》の陥落に向けての議論を重ねていた。


【此所】で《奴ら》が展開させている事業の実態を押さえるに於いて、タイマンが作成した地域の内外を調査した内容の資料冊子に隊員達は目を通した。


 ルーク=バースの顔は険しかった。


 《奴ら》が商号を変更した。


 我々が【此所】に踏み込んだ矢先で《奴ら》は何故これを実施したのかと、ルーク=バースは疑う感情を膨らませた。


「〈育成プロジェクト〉に於いては、中止になっていませんね。あくまで《奴ら》の宣伝活動の一貫でしょう」


 タクト=ハインの意見に、ルーク=バースは、はっと、顔色を変えた。


「そういえば、おまえは〈育成プロジェクト〉メンバーの引率者だったな」

「ははは。あなたに言われるまで、すっかり忘れていました」


 和やかな雰囲気になれなかった。

 タクト=ハインの笑いに、タッカが冷たい顔つきを剥けていると、ルーク=バースは気付くのであった。


 相変わらず、堅物な奴だ。

 特にタクトのことになると、仇のような態度を示す。


「今我々が待機している〈悠凜のムラ〉から北西の方角に〈宇城うきの大野〉があるが、其所では地質調査が実施されているのであったな?」

 バースはタイマンへと視線の向きを変えた。


 タイマンは「ああ」と、頷いた。


 〈宇城の大野〉での地質を調べるのは《奴ら》の調査チーム。だが、これに関しては外部からの嘱託となっている。

 因みに〈プロジェクト〉メンバーの護送列車は我が軍が所有しており、その件も《奴ら》が依頼した。


 何かの共通がある。漠然とした臆測ではあったが、必ず証明となるのが隠されている。


 ルーク=バースは建屋の窓越しから茜雲を見上げたーー。



 ======



 満天の星が瞬く頃だった。

【国】の大地に点々と、朱の朧が列を成していた。


 この光の正体は。と、バンドは物見櫓の見晴台から双眼鏡を覗いて見渡した。


『アニキ、光は〈不二の内郭〉へと集まっている』


 バンドからの、小型通信機を通しての報告にルーク=バースは「ご苦労だった。バンド、櫓から降りて休息をしろ」と、応答した。


「バース……。」

 通信を終えるバースの傍で、不安げな目をしているアルマがいた。


「太古の【国】では、今の時期に祭を興じてた。おそらく【此所】を仕切っている《奴ら》がなぞって、やってのけているのだろう」

 小型通信機が振動していると、バースは腰に着けるホルダーに収める手を止めた。


「どうした? バンド」

『光のひとつが、此方に向かっている』


「了解。ところで、おまえはまだ其所にいるのか?」


『ああ、勿論だ。どうする? アニキ』

「すまないが、見張りを続けてくれ」

 バースは今一度、小型通信機をホルダーに収めた。


「バース、私はこれより〈プロジェクト〉メンバーの守護を致す」

「読みがいいな。頼むぞ、アルマ」


「御意」

 アルマはバースに敬礼をすると〈プロジェクト〉メンバーが待機している建屋へと向かった。


 さて、どうやって()()をしよう。


 バースはタッカとザンルを〈ムラ〉の正門に集合をさせ、光が近付くのを待ち伏せした。


『アニキ達の現在位置より北北東の方角、距離10㎞のサンデマル68地で、此方に向かっているだろうの光が迷走している』


 バンドからの情報伝達に、バースは堪らず苦笑いをした。


「警戒態勢を解除する。タッカとザンルは()()()()の“保護”をしろ」


 バースは肩の関節を鳴らして〈ムラ〉の集会所へと戻ったーー。



 ======



 聞けば聞くほど、こそばゆい。


 一時は緊迫した事態であったが、危害を企てるはまったくないと判断したルーク=バースは、タクト=ハインを集会所に呼びつけた。


「タクト。くれぐれも、場を(わきま)えろよ」

 バースはタクトに笑みを湛えると、鼻唄混じりで集会所を出た。


「くすっ」と、吹き出し笑いを聞くタクト=ハインの顔が真っ赤になった。


「笑わないでよ。キミの無茶ぶりの為に、僕の大切な人たちがあわてふためいたのだよ」

「でも、あなたが特に大切にしている人は、わたしの話しを真剣に聞いてくれた。わたしがいうことは嘘じゃないと、わかってくれたの」


「一歩間違ったら、キミそのものが危なかった。どうして、そこまでして【此所】に来たかったのかと、僕にわかるように話しをして」


「待つのに、疲れたから」

「気が変わった。わざわざ此所に来ることをしてまで、それを僕に伝えたかったのだね」


「逆よ」

「……。お願いだから、キミからはっきりとした言葉を聞かせて」


 ーータクトの中で呼吸をしたい……。わたしは、あなたを待つのが辛かったーー。


 震える声、溢れる涙。

 聞くと見えるものは、純と澄。


 ーーリレーナ、僕にキミの風を吹き込んで……。


 建屋の灯が消え、愛しき日々を今一度の音がしたーー。

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