33両目〈紅紫の日向 ①〉
ルーク=バースに襲った危機に、タッカを除いた陽光隊隊員達は騒然となっていた。
ルーク=バースは倒れる間際で、陽光隊隊員に指示を促すが、誰一人動くことをしなかった。
第二、第三の。いや、眠らされるではすまない事態に陥るのもあり得る。
ルーク=バースが茶の混入物に気付かなかった。それほど何かが蠢いていると、隊員達は動くことを躊躇った。
「濃い茶で、混入物の独特な匂いと味が掻き消されていたのだ。だから、アニキは飲みきってから気付いた」
バンドはザンルから受け取った、茶瓶に残る茶葉の匂いを嗅いだ。
「茶に混ざっていた葉は、どこから持ち込まれたのでしょうか」
「〈此所〉で栽培されている、或いは自生しているのを摘み取ってだろう。しかし、こいつは加工されいる」
タクト=ハインが茶瓶の中を覗くと、バンドは蓋を閉めた。
「ロウス。あた、寝なっせ」
「洒落にならない」
ロウスが疲労困憊状態だと、ハケンラットは気遣ったつもりで促したが、ロウスにしてみれば傍迷惑な一言だと受け止めてしまった。
「あくまで、混入物の経路を辿ろうとしていただけだよね。でも、誰が茶に混ぜたかはさすがに……。」
「今すぐ決め付けるは、あまりにも酷だ。マシュが口を濁すにオレだって同感だ」
マシュとニケメズロは、目を合わせて頷いた。
「俺たちでの“犯人捜し”は、潰し合いになる。そのやり方は隊長が一番に嫌がると、お前達だってわかっている筈だ」
「大将、アルマちゃんには内緒にしといてと、言っていたワ。アルマちゃんがこの情況を知ったら、ワタシたち絶対にアルマちゃんからぶっ飛ばされると、大将は感じていたからかもしれない」
タイマンは溜息を大きく吐いて、ザンルはぶるぶると、震えていた。
「バースさん、目を覚まさないですね」
タクト=ハインは、深く眠り込んでいるルーク=バースに羽織っていたジャケットを掛けたーー。
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【国】は【サンレッド】より先に、しかも境界線が引かれており、誰もが自由に行き交うは不可能だった。
「ミリィ、出直すぞ」
「残念ですだぁ。準備万端で此所に来たのにですになぁ、ソールさん」
一組の男女が、境界線で足止めをしていた。
“なんでも屋”
どんな依頼でも引き受ける。ただし、法に触れる内容は断る。それがふたりの生業だ。
しかし、それは表向き。
ふたりの、特に男には裏稼業の“情報屋”という、顔があった。
人知れずに情報を収集して、駿足に解決にと導く。
まさに、男の本領発揮とも言うべき……。とは、いかない情況に、ふたりは遭遇してしまったのであった。
「此所から【国】に行ける。そこまではよかったが、情報が不足していたようだ」
ライト・グレイの髪、紫の瞳。ソールは見えない壁を掌で押して溜息を吐いた。
「ソールさんは、女の人から『お母さん』を捜して欲しいと、依頼を受けられた。草の根を掻き分けるように手掛かりを探され、今いる場所の先に依頼者のお母さまがいると、突き止められたのでしたぁ」
金糸雀色で巻き毛のお下げ髪に、レンズが分厚い黒の丸渕眼鏡。瞳の色は紅紫のミリィは、中身が詰まって膨れているリュックサックを背負っていた。
「もうひとつの依頼も偶然なのか【国】絡みだ。そっちの依頼主は元《団体》幹部。内容は《団体》の実状を証明して欲しい、だ」
「まだまだあるですだぁ。元大学准教授の方まで《団体》がどうのとか【国】でなんとかなど、わたしには難しく聞こえてた依頼を、ソールさんはまとめて引き受けられたのでしただぁ~っ!」
ミリィはじたばたと腕を振り上げ、どしどしと、足踏みをしながら叫んでいた。
「……。随分と、荒れているな。ミリィ」
「当たり前ですだぁ~っ! 依頼をみっつまとめて。しかも同時進行では、頭の中がこんがらかってしまいますだぁ~っ!!」
「明日の食い分……。もとい、どの依頼内容も火急で取り次ぐをしなければならないと、俺は判断した」
「生活費を得る為に……。違った、情報収集にと、わたしは花屋さんにアルバイトで勤めたのでした、だぁ~っ!」
「“変装装置”で素性を隠して、だったな」
「店長が《団体》のセレモニーでの、会場の飾り付けで行かれて、わたしひとりで店番していた時でしただぁ。あの時のお客さん、わたしがこさえた花束をほめてくれたのでしたぁ~」
心を踊らせているミリィに、ソールは愛想笑いをした。
まるで日向だ。
凍りつきそうな情況でも、ミリィは明るく振る舞う。どんなに救われたのだろうかと、ソールは何時もミリィの存在に感謝をしていた。
「しまっただぁ~っ! その時のお客さんに、お釣りを1ルク渡しそびれていただぁ~っ!!」
ミリィの叫びに、ソールは日陰に入ったようだった。
「客だって、忘れている筈だ。気付いていたら、その場で催促していただろう」
「駄目ですだぁ~っ! ソールさん、お金はお金ですぅうう。 あ~、そうだぁ。ソールさん、あの時のお客さんを捜してください~っ!!」
「はあ?」と、ソールは呆れ顔をした。
「特徴はしっかりと覚えておりますだぁ。七三分けにしたベージュ色の髪と瞳で、銀縁の眼鏡を掛けておりましただぁ。服装は蒼のワイシャツとグレーのスラックスでーー」
ミリィはソールが首に巻く翠のストールの端を握りしめ、引っ張りあげる。
「落ち着け、ミリィ。先ずは、俺たちが現在事務所を構えている【ルクハビレス】に戻って、おまえがその時の客を捜す。その間に俺は依頼の手掛かりを今一度洗い直す。で、いいだろうっ!」
ミリィの掌が離れ、ソールは噎せるをした。
「ソールさん、いいこというですなぁ。そうですだぁ、わたしがお客さんを捜せばいいのですだぁ」
ミリィは吊り下げズボンのポケットから取り出した硬貨を、夕暮れの空にと翳した。
が、ぽろりと、地面に落としてしまった。
「うわぁああ~っ! お釣りが逃げていくぅうう~っ!!」
「待て、ミリィッ! やみくもに、しかも日暮れでの中でちょろちょろと動くのは止せっ!!」
ミリィはころころと転がっている硬貨を追い掛けていた。ソールはミリィに追い付こうと、駆け足をするのであった。
「待つだ、お釣り」と、ミリィは転がるのを止めた硬貨に靴底で押し潰した。
ソールの顔が強張った。ミリィが硬貨とともに踏みしめているのが気になった。
薄暗くてはっきりと見えないが、明らかに何かを象っていると、ソールは目を凝らしていた。
「ミリィ、じっとしていろ」
ソールはミリィの背後へと、ゆっくりとした歩調で近付いた。
「足の裏がごつごつして痛いですだぁ」と、ミリィは踏み締めていた右足を離した。
次の瞬間だった。
ミリィの足元より、紅紫の光の柱が空へと伸びて、曲線を描いた。
「わわわ~っ! ソールさぁああんっ!!」
「狼狽えるな、ミリィ。そして、大手柄だっ!」
「何のことだか、わたしにはさっぱりですだぁ~っ!」
「ミリィ、おまえが客に渡しそびれた釣り銭が【国】に行くための“扉”の錠を外したのだ」
ソールはミリィの腕を掴み、紅紫の光の先を見つめていた。
「驚いただぁ~っ! わたしがお釣りごと踏んづけた『マンホール』がソールさんが言う【国】に行くためのスイッチだったとはなぁ~」
「せめて『石盤』と、言ってくれ……。」
偶然ではない、巡り合わせ。
すべては【ヒノサククニ】にと、繋がっていた。
ソールはまだ煌々と紅紫の光を放つ、太陽を象る石盤を地面から持ち上げるをした。
「ソールさん、お釣りが食い込んだままですだぁ」
「抜くのではないっ!」
ソールは、ミリィが石盤から硬貨を取り除くのを阻止した。
「お釣り……。」
「がっかりするな。俺が『本人』に、釣り銭を渡す」
「ソールさん?」と、ミリィはきょとんと、していた。
「ミリィ、おまえが捜している“客”は【国】にいる……。」
ソールは、笑みを湛えてミリィと目を合わせた。
一方で【ヒノサククニ】の〈悠凜のムラ〉にいる陽光隊隊員の様子といえばーー。
「はっくしょんっ!」
「タッカさん、駄目ですよ。いくら起きないからといって、バースさんに向けてくしゃみをされるのはーー」
「夜風に当たりっぱなしだったから、たぶん風邪をひきはじめ……。」
「わざと、ばいた」
タッカのくしゃみで困り果てるタクト=ハインに、ハケンラットがぼそっと、告げたーー。
何時もお世話になっております『サザンの嵐・シリーズ』の著者トト様のご協力のもと、今回はソールさんとミリィさんが特別出演されております。
トト様、ありがとうございます。




