27両目
タクト=ハインが身をもって繋げた“蒼の路”は【国】へと続いている。
陽光隊一同は、タクト=ハインを失った現実を受け止めて“前を見る”を選んだ。
〈プロジェクト〉メンバーは、何の為に集われ何処に行くを志したと確認して、気持ちをひとつにしたのであった。
彼らは【ヒノサククニ】を目指すーー。
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“蒼の路”を〈一行〉は踏みしめて、前へ前へと進んでいた。
「隊長。乗り物がないからとはいえ、この移動方法はあまりにも原始的過ぎると、思いますけど?」
ルーク=バースは顔を強張らせた。
娘の自分への呼び方が白々しいと、バースは思ったことを顔に出していた。
「文句を言うのではない」
バースの頬をつねるアルマが言った。
「俺、何も言ってないけれど」
「顔がおもいっきりだった。言い出しっぺのおまえがいきなり命令違反とは、何事だっ!」
「はい、ごめんなさい」
バースは頬をさすりながら、アルマに何度も頭を下げた。
“蒼の路”へと踏み出す前だった。
ルーク=バースはアルマとカナコ、そしてビートを集めて『家族会議』を開いた。
“家族”の情は、これから先は“彼ら”に見せてはならない。我々の情で、陽光隊隊員と〈プロジェクト〉メンバーとの溝が招じるのは、断じてならぬ。今から赴く【場所】は“彼ら”も同じ志を抱いていて、立ち向かうを決めている。
親と子ではなく、陽光隊と〈プロジェクト〉メンバー。
夫婦ではなく、隊長と隊員。
ーー私は構わない。だが、我が子達にまで、その役割をさせるのは酷ではないのか。
ーー命令だ、ただちに“実行”しろ。
バースは、妻と我が子達の前で“夫と父親”を脱ぎ捨てたーー。
確かに、カナコが言うことは本当だった。
“蒼の路”は、大地を一直線にして繋がっている。しかし、移動手段は脚しかない。歩けど歩けど、それらしき目印にさえ見当たらない。
「あー、キミたち。疲れているかな?」
せめて、声は掛けなければ。と、バースは作り笑いをしながら後ろで歩く〈プロジェクト〉メンバーへと振り向いた。
「隊長、顔が変」
カナコが「ふっ」と、吹き出し笑いをした。
いっちいち、こいつは。
完全にカナコの目論みだと、こっちの意思がどれだけ強いのかを、わざと確かめているのに違いない。
「そこの娘、悪戯も大概にしろ」
アルマがじろりと、カナコを睨み付けていた。
「アルマさん。わたし、悪戯なんて致してません」
カナコは、アルマにきっぱりとした口を突いた。
「生意気を言うなっ!」
アルマのわっと、した罵声に、誰もが注目をした。
「お、おい」
「黙れ、バース。貴様の気の緩みが原因なのだ。貴様が見せる態度で、この娘に舐められたのは当然なのだっ!」
「みんな、先に行こう」
カナコはつんっと、アルマから視線をそらすと〈プロジェクト〉メンバーを手招きして、駆けていった。
ビートを始め、ナルバスとシャーウット。そして、ホルン=ピアラがカナコを追っていく。
「行くのだ」と、言うアルマの傍に、ハビトがいた。
「ハイン先生は、あなた達の仲間とボク達〈メンバー〉の橋渡しをされていた。ボクなら解る、その役目はとても重かった。かつての仲間かボク達か、あなた達がやり遂げようとしている目的とボク達を護る使命のどちらを優先にすればいいのだろうと、あの人は最期の最後まで板挟みになっていた」
「私たちが“鬼”だと。おまえには、我ら陽光隊が“鬼”として、目に映っているのだな」
「深読みし過ぎです。ただ、これだけはお伝えします」
「勿体ぶらず、さっさと言うのだ」
アルマは一呼吸をしているハビトに、感情を剥き出した。
「【国】に入れば、ボク達はボク達の目的がある。ボク達が何で選ばれて、何を決められているのか。ハイン先生がいなくなっても、あなた達はボク達について何ひとつ、関心を示していない」
「おい、待て」
アルマは駆け出そうとしているハビトを呼び止めた。
「『行け』と、仰ったのは、あなたです」
ハビトは振り返るをしなかった。
しくじった。と、アルマは思った。
追い掛けて口を開いても“弁解”だと、奴が受け止めるのは確実だ。
「アルマさん。私からが何ですが、あなた達が実行されている“任務”はかなり無理があると思います」
「ロウスか? 余計だ、出しゃばるな」
アルマは癪だった。
奴も我々と同じ経験があった。忘れていた訳ではないが、奴は『あの頃』と今の我々を被らせた。
「今の情況は『あの頃』と違います。気付いてください、アルマさん。あなたが今回バースに付いてきたのは、何の為にだったのですか」
「要らぬ世話だ、踏み込むな」
「彼らは、今回の〈プロジェクト〉メンバーはあなた達について、とっくに知っております」
「露骨だったからな。特にカナコはそうだった」
「解っていられた。ならば、尚更ーー」
ロウスは口を綴じてしまった。
アルマが掌を硬く握っていた、口の裏側を強く噛んでいた。
ロウスは全身から“容赦なし”と、アルマが示す態度に堪らずぞくっと、身震いをした。
「ロウス、おまえはタクトの代わりを務めろ」
ロウスが振り返る先に、バースがいた。
「御意」
バースに敬礼を手向け終えたロウスは、先に先にと走り続けている6人の子ども達を追った。
「何だ、貴様ら」と、バースは足止めをしている隊員達を睨み付けた。
「だんな、ロウスは“力”がいっちょしかなかと。なんかあったら、ロウスだけじゃなんもでけん」
「ハケンラット、おまえも行ってこい」
「はいよっ!」
膨らむリュックサックを背負うハケンラットは大きく返事をして、ロウスに追い付いた。
「アニキ。子どもの相手は、心得ている」
「えーいっ! バンドもだっ!!」
「アラ? 大将、ワタシは仲間外れなのかしら」
「モタモタするなっ! ザンル」
「バース、あの娘は将来とびっきりの美女になる。俺がエスコート。もとい、変な虫が付かぬようにガードが必要だ」
「タッカ。おまえが指した娘は、誰だ?」
「あのう、ボク達も……。」
「ぼやぼやするなっ! ニケメズロ、マシュ。おまえ達はセットで、あいつらにくっついとけっ!!」
「息継ぎする暇など、なかったな」
凜と、澄みきる声とともに、バースの背中にこつり、と、拳の感触がした。
「どいつもこいつも」
「バース、助かった」
今度は額の感触がすると、バースは深呼吸をした。
「なあ、アルマ」
「却下だ」
「まだ、何も言ってない」
「つい、条件反射をしてしまった」
アルマはバースから離れると、翻してまっすぐと歩き始めたが「何をしておる?」と、すぐにバースへと振り向いた。
「“命令”は、撤回だ」
バースは笑みを湛えていた。アルマを追い抜き、陽光隊隊員達をすり抜けるバースは、子ども達の先頭で走るカナコと手を繋ぐ。
「隊長、速すぎるっ!」
「バカちん“お父さん”だろっ!!」
カナコはバースに手を引かれながら、走っていた。
ぐいぐいと引っ張られ、バースの駆け足に付いていくがさすがに息があがってしまい、とうとう走るを止めた。
「意気地無し」
ぜいぜいと、カナコは何度も息を吐く最中で、傍にいるバースに口を突いたーー。




