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16両目

【暁の柱】

 其所は【ヒノサククニ】へ目指す為の道標。

 空へと聳える柱、武勇を象る造形が【国】へと導くかのように、ゆったりと落ち着いているさまで存在していたーー。


 ======


 見えるのは、屋根がないプラットホーム。

 紅い列車は加速を緩やかにさせて、停車をした。


 列車の乗降口が開く。

 最初にプラットホームの足場を踏みしめたのはーー。


「みんなっ! ごめんね」

 カナコは涙ぐみながら、待つ仲間たちへと駆けて行った。


「泣かないで、カナコ。私たちはこの通りぴんぴんしているの」

「ずっと声が聴こえていた。落ち着いていて、優しくて……。だから、恐くなかった。此所で待っていたら絶対にカナコに会えると、希望が強く持てた」


 シャーウットとホルン=ピアラは、泣きじゃくるカナコを包み込んでいた。


 胸の奥がじんと、する。

 タクト=ハインは溢れそうな情緒を堪えながらカナコたちに穏やかな眼差しを向けていた。


「先生、僕たちは本当に【国】に向かっているのですね」

「そうだよ、ナルバス。僕は一度だけ【国】を見たことがある。キミと丁度同じ歳の頃、僕はこの列車に乗って【国】を見た」


「先生も!? 僕たちと同じ〈プロジェクト〉メンバーとしてですか?」

 ナルバスは目を丸くさせて、タクトに訊いた。


「今、僕が着てる服。それが『その頃』の僕の証だ。キミたちを護る為に駆けつけてくれた、僕の同志も同じくだよ」


「あの……。」

 ナルバスは、恐る恐るタクトの顔を見た。


「ちゃんと、紹介をする。ロウスさんがご馳走を沢山用意している。ハケンラットさんはキミたちの体調を心配している。僕の仲間が『あの頃』と同じく、キミたちを見守っていると伝える。さあ、みんなと列車に乗って」


 ナルバスは、恍惚となっていた。緩む頬と震える脚を掌で叩くで抑えようと、懸命になった。


「タクト、ちょっとこいっ!」


 タクトは襟首を掴まれた。と、思うもずるずると引き摺られ、列車内に放り込まれた。


「アルマさん、きついですよ」

 タクトの息は上がっていた。


「カナコのことで訊きたいのだ。勿論、バースも同席をさせてだ」


 厳つい顔のアルマ。

 タクトは堪らず苦笑いをした。


「先ずは、子ども達を乗車させないとーー」

「とっくに乗ったっ! 乗務員室にさっさとこいっ!」


 まるで、突風のような人だ。

 いつの間にか、列車が走っている。

 たて続けての情況に付いていけないと思いつつ足取りをしっかりとさせて、乗務員室へと向かうタクトだった。



 〔乗務員室〕


 扉に吊るされるプラカードは鉄製。

 列車が走行する振動の為に、振り子のように揺れては扉に擦る金属音を鳴らしていた。


「僕の部屋では?」

 乗務員室は狭く、ひとりでもやっと座れる間取りをしていた。其所に、3人の大人がすし詰め状態でいたのであった。


「俺たちがこの列車に勝手に乗ってるのだ。くつろいでいると思われるのも癪だからだ」

「あんまりくっつくなっ! タクトに刺激を与えるだけだぞ」


 バースはアルマに押し退けられ、反動でタクトがバースと壁の間で押し潰されていた。


 タクトは複雑だった。

 言おうか言いまいかと、悩んだ。


「あの、あなた達がどこでいちゃつこうがいちゃつくところを見せようが、僕はどうってことありませんので……。」


「おい、タクト」

 アルマは顔を火照らせた。


「そりゃそうだろう。アルマ、タクトはとっくに“大人”になってるのだ。いつまでも“お子さま”感覚は、タクトに失礼だ。な、そうだろう? タクト」

 バースはにやりと、愛想笑いをする。


「もうっ! おふたりとも、いい加減に僕を弄くるのはよしてくださいっ!! こうして集まったのは何かが、あやふやになるではありませんかっ!!!!」

 タクトは感情を膨らませた。

 そして、バースを掌で押し退けると今度はアルマがバースと壁の間に挟まった状態となった。


「怒り方も強くなっていた」

「止すのだ、バース。火に油を注ぐだけだぞ」

「やっぱり、場所を変えましょうっ! こんなに狭いところでは色々と苦しいですので」


 バースが渋々となり、乗務員室の扉がアルマの手によって開かれたーー。



 ======



 帰ってください。と、言える情況ではなかった。

 先程直面した『事態』がまだ、生々しい記憶として残っている。

 〈プロジェクト〉の引率者で列車に乗っているが子ども達が身の危険に措かれた。対応はとてもひとりでは無理だと、タクトは教訓を心に刻み込ませていた。


 申し訳ない。

 タクトは自責の念をいっぱいにしていた。


「先ずは。いや、遅れてしまいましたがおふたりにお詫びを申し上げます」


 結局、3人はタクトの個室に移動した。

 カーペットが敷かれる床に腰を下ろしているバースとアルマに、タクトは正座をして深々と頭を下げた。


「おいおい、何だよ?」

 当然、バースは戸惑った。


「おふたりのお子さんを、カナコとビートを護る立場なのに、僕は怠ってしまった。同じく他所のお子さん達もです。本当に、ごめんなさい」

 タクトは涙声をしていた。悔いが溢れて堪らないと、床につける手を震えさせていた。


「おまえは、その為に部屋を変えたのか?」

 アルマは呆然となっていた。


「はあ」と、バースは溜息を吐いた。


「バース、どうするつもりだ」

 肩の関節を回すバースに、アルマは焦っていた。


「肩がこっただけだ。いっちいち、飛び付くように反応をするなよ」

 バースはむすっと、ふて腐れた。


「そうだ。私たちはおまえに懲罰を与える意は全くない。だが、是非聞いてほしいと願って、おまえを呼んだ」


「え?」と、タクトは鼻の頭を赤くさせて、顔をアルマに向けた。


「ああ、カナコのことについてだ。話せる範囲で構わないから、俺たちに教えてほしい」

「症状は軽かったが、反動病に冒されるほど“力”を発動させた。カナコの状況を直接見ていたおまえなら、理由を知っていると思った。心苦しい思いをさせるが、うち明かしてほしい」


「それだけではない。カナコの中で何かが起きた。引き金は“力”だろう」

「バース、それは……。」

「カナコに訊いたところで追い詰めさせるのが関の山だ。かといって、何も知らないでやり過ごすは、我々にとってはどうなのだ?」


 室内がしんと、静まり返る。


「……。カナコが吐露した『自分の中にいるのは誰だ』と、いう意味が気になる」

「確かめるにも、今は出来ない」


 バースはアルマを腕の中に寄せていた。


「そうでしたか……。」

 タクトは寂しげな顔をして前髪をくしゃりと、握りしめた。


「タクト」と、バースが振り向いた。


「ええ、僕はずっとあなた達に内緒にしていました。何故ならば“本人”にも止められていたからです」

「『時効』だ」

「バースさん。貴方らしい、解釈です」

「“そいつ”もずっと胸の奥を詰まらせてた筈だ」


「“カナコ”それが、カナコの中にいる彼女の名前。覚えていますか? バースさん」

「【国】絡み。何もかも、はっきりと覚えているさ。タクト」


 列車の速度が落ちてると、タクトは窓の外を見た。


【国】はまだ活きている。タクトは窓の外の緩やかな景色を見ながら思った。



 一方、別の車両では……。


 ーーもう少し、寝ていたかった。


「仕方ないでしょう? どっちみち、目を覚ますになっていたのだからね」


 ーーごめんなさい。


「謝ることじゃないよ。あなたはお家に帰るを、わたしの中で願った」


 ーーだから、なの。わたしはどうしてあなたの中で願ってしまったのかと、とても苦しくて……。


「“お父さんとお母さんに逢いたい”と、ずっと想っていた。ではないの? ()()()


 ーーお互い同じ名前。くすぐったいですね、カナコ。


「また、あとでね」

 仲間が呼んでいると、カナコは会話を止めたーー。




『まもなく【ヒノサククニ、入口】に到着致します。なお、お降りの際にはお忘れ物がないよう、ご注意をお願いします』


 車内放送が聞こえる最中、バースたち陽光隊は列車の通信室に集っていた。


「我々陽光隊の目的は【国】の現状を調査することだ。しかも《団体》の目を眩ませての遂行となる。そして《団体》によって集われた〈プロジェクト〉メンバーの護衛もやり遂げれなければならない。彼らには帰る場所がある、彼らを無事に帰る場所に送り届ける。気を抜くは、絶対にするな」


 ーー了解っ!


 陽光隊隊員はバースに敬礼をすると、通信室から次々と駆け足で出ていった。


「バースさん」

「何を湿気た面をしている」


「痛っ!」と、バースに鼻の頭を摘まめられたタクトは悲鳴をあげた。


「もたもたと、するな。行くぞっ!」

 アルマは笑みを湛えながらふたりを促した。


「また、始まるのですね?」

「ああ、そうさ」


「母さん、僕は来たよ……。」


 枯れ果てた、樹木。

 流れを止めて濁る川の水面。

 足元をとられるように、地面から剥き出す岩肌。


【ヒノサククニ】の入口。


 紅い列車は、とうとう辿り着く。

 まだ【国】は見えない場所に、彼らは降り立ったーー。

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