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15両目

 紅い列車の通信室内で、タイマンは列車外部が映し出されている画像を確認していた。

 視ていたのは、列車の進行方向を塞ぐ“蜂の巣トラップ”だった。


「なんということだ」

 タイマンは感嘆を表した。


「どうした?」

 ロウスは座席の背もたれを倒して身体を休めていた。隣にいるタイマンの驚愕な様子に、ロウスは訊ねたのであった。


「ーーーー。」

「悪い、もう少し大きな声で言ってくれ」

 列車内で傍受した“力の波”の衝撃の為に耳を痛めたロウスは、タイマンが言っていることをよく聞き取れなかった。


 タイマンは「ふ」と苦笑いをすると、モニター画へと指を差して見せた。


 ロウスは身体を起こして、タイマンが指差す画面を視る。


「おお……。」

 ロウスは画像をじっと、見つめていた。


「隊長、いい話だ」

 タイマンは、小型通信機を握りしめていたーー。



 ======



「タクトくん、見てごらん」

「はい、見えてますよ」


 列車内での出来事と同じ頃、ビルドとの対峙を終わらせたタクト達にもロウス達が見た光景が見えていた。


「たぶん、大将(バース)たちも大喜びをしているワ」

「列車に戻ったら、急いで再出発の支度ですよ」

「うんうん、そうよネ。でも……。」

「ああ、たんま。先ずは、落ち着きましょう」


 タクト達が今いる場所は草木が何処に生えているのさえわからないほど、岩だらけの荒れた大地だった。


「カナコちゃん、ちっとも起きないネ」

「ザンルさんは、そっちを気にしていたのですか?」

「タクトくん、タッカの所為で“力”を使えないでしょ? ワタシは翔ぶ“力”を持っていないしで、どうやって列車に戻るかと考えたら……。」


「歩いて戻るしかないでしょう?」


 カナコはタクトの膝枕で寝ていた。

 ザンルは起きないカナコに業を煮やし、タクトは落ち着かない様子のザンルを宥めていた。


「交替では?」

「大丈夫です。抱えるよりは、こっちがいいですので」


 タクトはカナコを背負った。

 一歩、一歩と列車へと戻る為の足取りのタクトにザンルはおろおろと、していた。

 降り注ぐ陽光がタクトに照らされ、肌を熱らす。汗ばむことによって手は湿り、背負うカナコを何度も滑り落としそうになる。


「タクトくん、どうしたの?」

 ザンルは笑みを湛えるタクトに訊いた。


「いえ、ちょっと思いだしたので」

「はあ?」

「おんぶで、ですよ。バースさんが僕をおんぶした。その時でのことで、つい……。」


 懐かしい思い出だった。

 とある場所で列車は停まり、短い期間だったが滞在した。


 其所は人工で創られた自然地帯だった。そして、ひとりの男が管理者として暮らしていた。


 男の名はシムズ。

 男は住み処を調査に来た3名の陽光隊員の内、タクトを拘束した。

 同行していたのは、ルーク=バースとタイマン。

 男は武器を突きつけて、ふたりを威嚇した。しかし、バースは見抜いた。男は武器を扱ったことがなかった。双方が深く対峙するはなかったが、男から語られた事実は衝撃的だった。


 《団体》によっての極秘な実験が実施され、大地の一部が消滅をした。


 場所は、人工自然地帯の近くにあった。

 此所は、実験期間中の《団体》の滞在地でもあったと、男はバース達に明かした。


 バースと男が話し合いの最中、解放されたタクトは寝たふりをして聞き耳を立てていた。


 男との別れ。バースはタクトを背負って同志の元に帰還した。バースの帰りを待っていたアルマと押し問答の末、バースはタクトを背負ったままで森林の中へと逃げ込んだ。


『あの頃』と事情は違うが、バースの娘を背負って同志の元に帰る。


 タクトは、優しい思い出に心を擽らせていた。

 一方、あの男が語ったことは恐ろしい『事実』だった。


 《団体》はどこまで、何を手中にしようとしているのか。

 タクトの中で、疑念が膨らんでいたーー。


 ======



 “蜂の巣トラップ”が消滅した。


 胸を撫で下ろす一方、ご丁寧に原因を掴もうと躍起なる陽光隊隊員がいた。


「いっちいち。おまえは、結構面倒くさい性格だったとはな」

「貴様のいい加減な性分の所為で、振り回されたのが何人いるのかと、少しは考えるのだっ!」

「ロウスの美味い飯。食わないのか?」

「くれてやるっ! だから“罠”が解除した原因を調べさせろっ!」


「イヤだ」

「ああっ! 本当に食うなっ!!」


 食堂車両で、ロウスが振る舞った軽食を咀嚼するバースと、正面に座るタッカの険悪な一幕だった。


「相変わらず、不仲ですね?」

「逆だ。まわりにはそう、思わせるのが奴らなんだよ」


 タクトはロウスが淹れた紅茶を啜っていた。

 タクトの愚問に応えたのはロウスだった。


「僕には本気で啀み合っているにしか見えません」

 タクトは納得していなかった。


「タクトは知らないのだな?」

 ロウスはタクトが空にしたカップに紅茶を注いだ。


「僕が知らないバースさん?」

 タクトはカップの取っ手を持つが、淵に口を付けるのを止めた。

「ああ、バースとタッカは2つ歳の差だが、軍には同期で入った。俺も同じくだがな」

「歳の順は、上からロウスさん、バースさん、タッカさん」


「入って直ぐに“戦”に加わった。勿論、俺もだ」


 ロウスの一言で、タクトの笑みが消えた。


「すまなかった。話しの続きは、いつかゆとりがある時間にしよう。タクト、そろそろ準備をしないといけないのだろう?」

「あ、はい」と、タクトは項垂れて返事をした。


「バース、大概にしろ。子ども達を迎えに行く、先ずはそっちが肝心の筈だっ!」


「やべっ! みろ、ロウスに怒られたではないかっ!」

「俺の所為にするなっ! 大体、貴様がーー」


 ーーあなた達。喧しいうえに、見苦しいですよっ!!


 タクトの険相と罵声に、バースとタッカはぴたりと、言い争いを止めた。



 ======



『全車両の設備整備完了っ!』

『システムチェック終了っ!』

『前方、後方ともに異常なしっ!』


「よしっ! マシュ、発車させろ」

 列車の運転室で隊員達の報告を受けたバースはマシュに出発の合図を送ったのであった。


「どうした?」

 列車が走り出さないと、バースはマシュに訊いた。


「自信がないのです。僕は、このまま紅い列車の運転技士を務めていいのかと、不安で堪らないのです」

 包帯を頭部に巻いての、負傷がまだ痛々しいマシュは運転レバーを握り締めて肩を震わせていた。


「列車を動かせるのは、おまえだけだ。前を視る、危険を察知する。マシュ、俺はおまえの集中力を宛にしている。頼むぞ、相棒」


「隊長……。は、はいっ!! いえ、了解っ!!」

 マシュはぱっと、顔色を明るくさせる。


「発車オーライッ!」


 長調と鳴り響く汽笛のあとに、紅い列車は走り出した。

 車輪とレールが擦れる音、車窓から見える景色は流されるように目に写る。



「もたもたと、しやがって。何を躊躇っていたのだ」

 救護室にいるアルマが小言を突いた。


アネ(アルマ)さん、腹かくな。あたの娘っ子がどぎゃんしたとねと、心配ばすっばいた」

 ハケンラットはベッドで横になって寝息を吹くカナコを看ていた。


「カナコは?」

「軽い反動病だけん、こぎゃんして寝とけば元気になるばいた。て、あたが診ればよかとじゃないと?」

 ハケンラットは掌から解き放していた“白の光”の発動を止めた。


「“力”を何故、カナコがーー」

「べとべとと、訊くのはせんでよか。あたの娘っ子は、娘っ子なりの抱えるもんがある。ばってん、ちゃんとあたば見ている。だけん、あたは堂々としときなっせ」


「ああ」と、アルマは小さく頷いた。


「タクトだって、同じことをいうばいた」

「そうだな」


「腹減ったけん、ロウスからご馳走になる。アネさんは、どぎゃんする?」

「カナコが起きたら。で、よい」


 ぴしゃりと、救護室に扉が閉まる音が響いた。


『まもなく【暁の柱】に到着します……。あ、隊長っ! 何をーー』

『どけどけっ! ちっとは俺にも言わせろっ!! あー、列車に乗っている諸君。もうすぐ【暁の柱】に着くから、準備をばっちりとしてね』


 拍子抜ける車内放送に、アルマは顔をしかめた。


「お父さんのあんぽんたんっ!」

「カナコ、無理して起きるな」


 ふて腐れるカナコ、愛想笑いをするアルマ。

 ふたりは、肩を寄せあっていた。


「お母さん」

「どうした? カナコ」


 ーーわたしの中にいるのは、誰なの?


 カナコの震える声。

 アルマは、カナコを優しく抱き締めるしかできなかったーー。


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