12両目
“転送の力”は到達地点となる“力”の『源』を感知して、移動をする。
発動の仕組みは、体内の熱量で焚きつかせた“力”の粒子を時の刻みと融合させたのちに、前もって感知をしていた“力”の地点と繋げるを起こす。
列車の内外と手分けして、陽光隊員は“罠”が仕掛けられた手掛かりを探している最中、列車内でアルマとともに行動を起こしていたタクト=ハインは“転送の力”を発動させた。
その目的とはーー。
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「タクトの馬鹿っ!」
タクトが発動させた“転送の力”で、転送先に着いたのと同時に、カナコはタクトへと怒りを膨らませた。
「アラアラ。元気が余っているみたいネ」
「余計なことを言わないでっ! わたし、物凄く頭にきてるのだからっ!!」
カナコは怒りの矛先を、タクトが“転送”先に選んだザンルにまでに剥けていた。
「ほうっ! 顔立ちはさすがだ。将来が楽しーー」
「うるさいっ! エロガッパッ!!」
「カナコ。今の攻撃は、タッカさんの心に激しいダメージを与えた。証拠にタッカさん、ぐっちゃぐちゃに落ち込んだよ」
ーーみんな、あっちに行ってっ!!
「年頃の女のコて、難しいネ」
ザンルは癇癪を起こしているカナコの傍から離れる為に、タクトを手招きした。
「ザンルさんでも大変でしたか。あ、タッカさんはどうします?」
「ほっときなさい。たまには凹みを味わうのもタッカの為になるワ!」
「あはは」と、タクトは愛想笑いをした。
「タクトくん」
「はい、ザンルさん。僕たちが何故、あなた達のもとに“転送”した理由ですよね?」
「列車の中で何かが起きたは、はっきりとしているワ。でも、連れてきたのがこのコだけなのが気になるの」
「僕だって、考えると気が重いです。状況があまりにも突然すぎて、カナコを連れ出すのが精一杯だった……。」
タクトは吹く風で地面から舞い上がる砂埃を被り、目蓋を何度も開いては閉じた。
「ごめんなさいね。タクトくんを苦しめるつもりで訊いたのではないのヨ。大丈夫、大将が列車に向かってくれた。だから、希望を持ちましょう」
ザンルは背中を見せているタクトに、肩を震わせて俯いているタクトに触れようと、手を差し出していた。
ーーザンル、タクトを取り押さえろっ!
ザンルは背後から聞こえたタッカの呼び掛けに「わかったワ」と、即答する。
「離してくださいっ!」
「ダメよっ! アナタが列車に戻るつもりと、タッカにだってバレバレなのっ!」
タクトは脇に膝にと、ザンルの腕と脚で絡まって藻掻いていた。
「タッカさん、それは確か……。」
「“力”の制御装置だ。解除するのは、パスワードがいる。俺でないと外すは出来ないぞ」
タクトはタッカによって手首に“装置”を装着され、さらに朦朧とした状態に陥ったのであった。
「タクト!? マッチョさん、タクトに何てことをしているのよっ!!」
「落ち着いたばかりなのに、ごめんなさいネ」
異変に気づいたカナコは、ザンルの腕を掴んでタクトから離そうとするが息が続かなくなり、虚しくもあきらめてしまった。
「エロガッパッ! あんたがーー」
「甘ったれるなっ! おまえはタクトを、ひとりの命を粗末にさせるつもりなのかっ!!」
タッカの罵声に、カナコは「ひっ」と、全身を震わせて驚愕した。
「タッカ、ふたりは任せなさい」
「ああ。頼むぞ、ザンル」
小型通信機を握りしめる。そして通信を終わらせた直後に“飛翔の力”で上空にいたバンドが降りてきた。
「子ども達は【暁の柱】に居るらしい。詳しいことはアネキから直に聞くようだ」
「ちっ、真っ先に貴様が情報を入手か。ツケは、きっちりと払えよ」
「タッカ。子どもの前で、勘違いされる言い方をするな」
「失礼、とっくに足を洗った。だったな?」
「嫌な野郎だよ、おまえは」
バンドはタッカの腕を掴み、上空へと飛翔した。
例えるならば、ひこうき雲。カナコが見上げる空に、曲線となった白い筋が表れていた。
「カナコちゃん、本気のオトコの仲間は本気。少しは、ワかったかしら?」
「……。お父さんに聞くから、今は知らないことにする」
カナコは頬を膨らませ、首を横に振ってザンルの視線を反らしたーー。
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ハビトから語られた“事実”に、ルーク=バースが顔色を変えることはなかった。
「それで?」
拍子抜ける一言だった。
ハビトは覚悟をしていた。
自身は、もう此所には居られない。目の前にいる、軍服に身を纏う男からは逃れない。ならば、いっそうのこと《団体》との繋りを明かすで終わらせると、ハビトは意思を固めていた。
「おまえを何と呼べばいいのだ?」
ハビトは追い討ちをかけるように呆然となってしまった。
紅い軍服を身に纏う女性の穏やかな顔つきと柔らかな口調での訊ねに、ハビトは戸惑うを通り越していた。
「ハビト……。です」
「おいおい、堂々と言えっ!」
か細い声のハビトの頭に、バースは笑みを湛えながら掌をそっと乗せた。
「バースのいう通りだ。ハビト、おまえは生きている。だから、おまえがいう“感情”は、けして間違いではない」
「でも、ボクはーー」
「苦しくするなと、さっきも言っただろう?」
「わかったっ! だったら、おまえの望み通りにやってやるっ!!」
バースは肩の関節を回して、ハビトから一歩後ろへと動いた。
「バースッ!?」と、アルマはバースの腕を掴んだ。
「止めるな、アルマ。こっちがいくら言っても聞かないのだ」
バースはアルマの手を振り解き、鼻息をひとつ吹かせた。
「いいか?」
「はい……。」
目を細めるバース、静かに受け答えをするハビト。そして、両手で顔を被うアルマ。
バースはゆっくりと腕を、指先をハビトの額へと差し出していた。
次の瞬間だった。
ハビトは「痛っ!」と、悲鳴をあげて額に右手を押し当てた。
「アルマにおしりぺんぺんを却下されたから、な」
バースは、右の人差し指の関節を何度も曲げながら高らかと笑った。
「この、馬鹿め。私は構わないが、おまえの後ろにいる奴は納得していない様子だ」
「だろうな? 見えるものだけですべてを決めつける、俺にはそんな持ち合わせはない。だが、こいつはとことん決めつけるが、性分だ」
バースは振り向いた。其所には、砲弾式の武器の引き金に指を乗せるタッカがいた。
「退くのだ、バース。貴様の生温い感情は、闘いでは致命傷になる。俺は、絶対に認めない」
「後ろにいろっ!」と、アルマは左腕を平行にさせて、ハビトの前を塞いだ。
「おい、タッカ」
「危険因子を排除する。貴様が出来ないならば、俺がするだけだ」
タッカは一歩前にと、床に靴を鳴らした。
「おまえは、馬鹿か?」
「黙れ、バースッ!」
タッカは熱り立つをしながら、さらに歩みをする。
「武器を使ったらクビだぞ?」
にやりと、歯を見せて笑みを湛えるバース。
ーー畜生っ!!
怒りのやり場がないタッカは、武器を床に叩き落としたーー。




