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10両目

 ルーク=バースの指示のもとで、隊員達は其々の任務を遂行していたーー。



 ======



 ニケメズロとタイマンは、列車の進行方向を塞ぐ罠の分析に当たっていた。


 近すぎず、遠すぎず。

 罠への距離感を歩幅で調整して、正しく解析出来る場所を決めた。

 罠を分析する機材をタイマンが操作し、ニケメズロが罠へ向けて右手を翳しながら罠のデータを“力”で探り当て、回収したデータを左手で握りしめる導線を通して機材に送り込むというのが、罠を解析する作業方法だった。


「ニケメズロ。あと少しで回収が完了するから、まだ集中してろ」

 タイマンは、機材の乱れる画面を安定させる為、ニケメズロを促した。


「ご丁寧な機械だ。うかつにヘタなことを考えられないと、取り扱いの注意書に付け足しとけよ」

 ニケメズロは、息を吸うのも吐くにもやっとの状態だった。導線を握りしめる手は痺れを、地面を踏みしめる足の裏から膝にかけての震えに耐えながら、ニケメズロはタイマンへ皮肉混じりの口を突いた。


「よし、終わった。ニケメズロ、思いっきり倒れろ……。いや、やっぱり踏ん張っとけ」


 〔回収終了〕と、機材の画面に表示されて、タイマンはニケメズロに合図を送った。


「何だって?」

 ニケメズロは、タイマンの言うことを聞き直す為に催促をした。


「隊長とアルマさん、どっちに殴られたい?」

「……。三日間、寝込むを選ぶ」


 タイマンとニケメズロは、南南東から吹く風に扇がれたーー。



 ======



「“反動病”になっほどの任務じゃ、なか」

 救護室でニケメズロを診たハケンラットが冷たく言い放した。


「だから『寝る』を選んだのだよ」

 ニケメズロは、ハケンラットの診察結果に期待はしていなかった。しかし、あまりにもあっさりとした判断が気に入らなかった為に、強がった口を突いたのであった。


「あた、進歩したごたんな」

「どういう意味だよ?」

「あたのことだけん『反動病になったから、アネさん(アルマ)に処置してもらうようだ』と、おめくかと思ったとたい」

「ハケンラット、オレのイメージを固定させるな」

「ばってん、寝るごたんな症状じゃ、なか。栄養剤ば射つけん、腕ばだしなっせ」


 ーー思いっきり、射すなっ!!


 注射器の針を射すハケンラットに、ニケメズロが怒鳴ったーー。



 ======



 タッカとバントは、列車の外部周辺を調査していた。


 ふたり一組での調査は、規則だった。

 ひとりが目視で異変を確認して、もうひとりも異変は同じと一致させる、ダブルチェックが調査方法だった。


「待て、タッカ」

 バンドは地面に靴底を押し込もうとしているタッカを、背後から襟首を掴んで止めた。


「俺も落ちたものだ」

「おまえともあろうものが、何をぼんやりとしている」


 タッカは苦笑いをしていた。一方、バンドはタッカの不真面目な言い方に叱咤をしたのであった。


「わざと、証明をさせる。その方が、バースには解りやすく報告出来るだろう?」

「おまえが格好をつけても、アニキ(バース)にとっては不名誉な結果としかならない」


 バンドは腰に着けているポシェットから親指の大きさと長さはある長方形の塊を、タッカが踏もうとしていた地面に落下させた。


「翔ぶぞ」

「はいはい、と」


 バントはタッカの腕を掴んで“飛翔の力”を発動させ、地面から土と砂埃を舞い上がらせながら列車が停車する方向へと翔ぶ。


 ふたりが列車の前で着地するのと同時に地面の揺れを覚え、鉛色の噴煙が遠くで見えていたーー。



 ======



 通信室で、ルーク=バースは罠の分析及び、列車の外部周辺の調査に当たった隊員の報告に耳を澄ませていた。


「何度もデータをチェックした。使用されたと思われる物質も照合したが、一致したのがなかった」

「大昔の派手な仕掛けだ。威力だって、怪我で済めば奇跡と思えるほどある」


 タイマンとバンドが、次々と結果を報告した。


「妙ですね」

 バースの右隣に立つタクトが、不審に思うさまになっていた。


「聞こう、タクト」

 バースはタクトを促した。


「え?」

「いいから、言えっ!」


 タクトの驚愕している様子に、バースは堪らず感情を剥き出しにした。


「“罠”というのは、目で見えないように仕掛ける。でも“蜂の巣トラップ”は見えていた。一方で、離れた場所には“罠”として、完全に仕掛けられていた」


 タクトの説明に「ああ」と、バースは頷いた。


「見える罠は、見えない罠を回避させる為に仕掛けられたのでしょうか?」


「タイマン」

 バースがタイマンに合図を送った。


「さっきの報告に付け足す。罠からの化学物質は検出されなかったが、人の熱量から生み出される物質の反応があった」


「ニケメズロが発動した“力”ではないのか?」

 通信室の壁に背もたれをしているタッカが言った。


「奴は吸引器具ような役割だ。検知器にだって奴のデータを前もって書き込んでいた。回収されたのは、奴以外の物質の反応だ」


 通信室は、静まり返っていた。


「“幻影の力”だ。思い描いた形を現実にあるように映す。その威力は凄まじく、視ればまさに崩壊とも呼べる情況に措かれる。発動に至っては、すべての法で懲罰の対象とされている」


 アルマの発言が追い討ちを掛けて、誰もが顔を曇らせた。


「ルーク=バース隊長、ご指示をお願いします」


 通信室の重くて息苦しい情況を打破させるようにだった。意を決してのタクトが、バースに申し立てた。


「陽光隊員に告ぐ。列車の周辺を俺とタッカそしてザンルで、列車内はアルマとタクト、バンドは外部上空を捜査。タイマンとロウスで通信及び“力”の波長を検知されたしっ! 尚、異質的な物体、或いは物質の発見の場合は、即の報告を怠るな。ハケンラット、おまえは負傷しているマシュと体調不良を起こしたニケメズロの暇潰し相手……。違った、看護に当たることを指示する」

 バースは頷き、声を室内に轟かせた。


 ーー了解っ!


 隊員達は、敬礼をすると各々の任務へと赴くために、通信室から去っていった。



 一方、列車内でのことだった。



 ーーキミとボクは、連動している。キミの思考はボクにそっくりそのまま入っている。ボクはぞくぞくしている。美しくて、愚かなキミの思考に呆れている……。


「言いたいことは、それだけか?」


 ーー“あの人”を丸め込むのはキミで、ボクは“あの人”の背中を推すの役割。手柄は山分けで文句はない筈だよ。


「興味ない」


 ーー“あの人”の仲間は動いている。キミがぬるま湯に浸るは、もうすぐおしまいになるよ。


「消えろっ! そして、二度と現れるなっ!!」


 天井に備えてある蛍光灯菅が割れて、破片が床に落ちる。そして、靴底で踏まれて粉微塵にされた。



 ーーハビトッ! ハビトッ!! しっかりしてっ!!!


 朦朧としている意識のなかで、カナコの叫び声が聴こえていたーー。


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