序章~時の狭間にて~4
もうどれだけの時間がたったのかはもう分からないです。ありとあらゆる(痛い)ことを体験してきたおかげで、大抵の事には気持ちよ・・・いや乗り越えることができた。
えへへ~とかやってませんよ?ホントですよ?お代わりとか要求してませんよ?でも最近よけられるようにもなってきました。かわしながら反撃もできるようにもなってきました。生意気なと言われながらその後恐ろしいほどの反撃をもらうわけですがね・・・。ぼこられぼこられ吐き出した綿をお腹に戻して、解れた体を縫い合わせたり腹が減ったから飯を作れとか、洗濯しろとか、畑耕せとか、ってそんなもんここになかったはずなんですが?気がついたら畑消えてたし・・・あーもぅそれはそれはいろんなことをさせられるハメにあいましたよ。
後のどが渇いたと言って水を出せといわれたり、汗かいて気持ち悪いといって風呂に入るからお湯を沸かせと言われたり、桶がないから風呂を作れと言われたり、髪を乾かせと言われたりとそれはそれはもう苦労のしっぱなしでしたよ。そもそも何もないところから作れといわれたところでどーしろと?聞いてみたらあなた魔法が使えるでしょ?と真顔で言われたので、さっぱり分からんという顔をしたら殴る蹴るの暴行にあいました。
なんかこーぴゃーっとやったらできると言われ、ますます分からんと言う顔と素振りをすると蹴り上げられ浮いたところを下から連打を浴び、さらに打ち上げられた後、飛んだ門番に下に向かって蹴り降ろされました。その時上にいる門番が目に入ったのですが、何故か顔が耳まで真っ赤でした。本気でお怒りのようでした。その後、地面?に激突し綿と意識が飛んでしまいました。目が覚めるとなんとなくぴゃーとできるようになり言われたことをぴゃーとすることができました。なぜできるようになったのかは僕には分かりません。いまだにぴゃーが分かってないんですから。
後、暗いから明かりを灯せとか言われたから火をつけようとしたら熱いから唯光るモノを出せとか気持ちのいい光じゃなきゃだめとか、寝るのに眩しいから暗闇でおおえとか、でも起きた時に真っ暗だと嫌だからあの光は消すなよとかありえないでしょ?
でも、言われたとおりやってみると意外とできたのには驚いていた。これが魔法ってやつなのかな?
あれこれご主人?の要望に答えられる自分はどうやら便利な家政夫さんだったのかもしれない。
後、殴られたりするのにも最近なんだか楽しく・・・。いけない扉が開きそうでしたのでそっと閉じておきましょう。
ここでどれだけの時間を過ごしたのかはもう分からないけど、その時は唐突にやってきました。
「さて、私ができるだけの仕込みは終わったし、もうそろそろいいかな。君を元の世界に帰そうと思う。ここで君が体験し学んだことは魂に刻まれているので、いつか役に立つかもしれないし立たないかもしれない。申し訳ないが元の世界にはここの記憶を持ったまま帰す訳にはいかないのですべて忘れてもらう。最初に出会った時に選択肢を出したことと矛盾するがこれは絶対だ。すまないな。ただ魂に刻んだここの経験は何かの拍子に使えるようになるだろう。ただ、必要なければそれにこした事はないのだけど。あーでも、家事とかはすぐに思い出してもらったほうがいいかな・・・ここも随分きれいになったし・・・」
「元々ここには何もなかったじゃないですか・・・ここの床はあなたがフルボッコにした僕の中から出た綿やら千切れたパーツやらでしょ?それを一纏めにするのに、僕がぬいぐるみだからって僕の背中に棒を突き刺して引きずり回した結果ですからね?おかげでその時は文字通りの中身も外見もぼろ雑巾になったんですけど?全身洗濯するのがどれだけ大変だったか・・・。」
「ふふふ些細なことは気にしてはいけないわ。」
あ~あなたにとっては些細なことですよねぇ。後始末は全部僕がやったんですから。あなた、その後集めたものに気づかず蹴っ飛ばしてイラっとしたのか今度は僕を蹴っ飛ばして不貞寝してましたからね。
「最後に何か聞きたいことある?」
門番が僕の前にしゃがみ頭に手をのせちょっと名残惜しそうな顔をしていた。今までと全然違う仕草に別人かと思うほどの慈愛に満ちた表情だった。素直に見蕩れていたがここに来て一番の疑問だったことを聞いてみた。
「ぴゃーって結局なんだったんです?」
「・・・名残惜しいけど、無駄話はここまで。もうお行きなさい。生前のような生き方をしないでね。次のあなたの人生には幸あらんことを・・・」
「それってどういう・・・」すぅっと意識が遠のく。
魂の無くなったクマのぬいぐるみは力なく倒れていく。門番、この世の理をつかさどる女神はぬいぐるみが倒れきる前にそっと手を差し伸べ引き戻しぎゅっと抱きしめた。