序章~時の狭間にて~3
「最悪の目覚めであることは間違いないですが、いい夢見れたかどうかは分かりませんよ。」
現状の把握が追いつかないのと腹部の激しい痛みと若干のイラつきとで混乱しながらも何とか答えた。
「あなたを仮初めの体(クマ)に憑依させました。少しは存在してる感覚が分かりました?分かりましたよね?さぁハイといいなさい。分からないなら今度は渾身のローキックとおまけで踵落しををキメテみせましょうか?」
軽くシャドーをしながら軽快なステップを踏む相手を見て血の気が引いた。
「ハハハハイ、モウダイジョウブデス。モウバッチリデス。」
「あら残念ね。でもこの振り上げたこぶしだけはもう止まらないのよねっ!」
と全身のバネを無駄なく利用した一撃が見事に突き刺さった。
「げふぅ・・・振り上げてるはずなのになぜまた鳩尾に・・・理不尽すぎる」
今度は出るものを押さえられなかった・・・。
「あ、え?この程度で?ね、ねぇちょっとぉ」
理不尽なまでの神の一撃いや二撃により見事にお腹の中の腹の綿を噴出したのであった。憑依させられたのは愛用の頑丈なまあるいクマのような人形。ダイエットのためなのか憂さ晴らしなのかいつもフルボッコにしていたのでいつもの癖でついついやってしまったのである。さらに生意気にも喋ったためいつもの数倍の力でやっちまったよ・・・テヘッ
「あの・・・さらっと文章さん乗っ取らないでくださいね。」とお腹の綿をぽろぽろさせながら何とか立ち上がる瀕死のクマさん。そしてようやく周りを見ることができた。
真っ白な空間であった。どこまでいっても何もなさそうな空間。
あるのは自分の周りに転がる綿と1人?がいた。
「ここは?何もないんですね」
「一応念のため。今いる世界を他人に見せるわけには行かないのよ。別空間を作って隔離させたの。」
「あなたは神様なんですか?」
「この場を管理する者。ただの門番よ。といってもアレをただ眺めてるだけなのよね。」と遠くに目を向ける門番。
しかしその方向にに目をやっても僕には何も見えなかった。
「僕はどうしてここに?」
「原因は言えない。あなたは死んだという事実だけは言えるわ。」
「僕はこれからどうなるんです?」
あごに手をやり少し考えるような素振りをしていた。考えがまとまったのかおもむろに答えた。
「それはあなた次第ね。」
「ほぇ?僕次第?」まったく理解できないという声で聞き返す。
「考え方を狭めるからあんまり提示したくないのだけど。そうねぇ、先ほどの流れに乗ってそのまま世界の根幹たるマナに還元される、これはごく普通のこと。まぁあなたの今の人格を残したまま元の世界に帰るのもいいわね。後このままここに居る、でもいいのよ?むしろ私的には最後のだとうれしいわね。」
「どうして?」ちょっとだけ期待をこめてクマは聞いてみたのだが・・・
「ふふふ、体に教えてあげましょうか?」と腕を回す。
「アーアー、ゴチソウサマデス・モゥマニアッテマス」
期待したものではなかった。ちょっとぐらいいい夢見せてくれてもいいのに・・・。
「で、どうしたい?」
「今すぐに決めなきゃだめですか?」
「だめとは言わないけど、それまで問答無用で毎日の三食代わりに私のサンドバッグになっててねっ。なんならずっと返事無しで居てもかまわないよ?」といいながら体をほぐす運動を始める門番。
「えっと、要は選択の余地はないと・・・?」
「そう、ねっ!」大振りの拳が飛んできた。かろうじでよけるも追撃の蹴りをわき腹にくらい、ぽふんぽふんとすっころんで行った。
「おれ、これが終わったら朝ごはんのパンを咥えながら角を曲がって素敵な馬車との出会いをするんだ・・・。」力の入らない腕と足で起き上がろうとするも生まれたての小鹿のようである。
「それ、もう一回ここに来たいってことだよね。うん、いい心がけだよ。うんうん。さぁどんどんいこうかぁ!」
答えを聞こうとしない門番の容赦ない攻めが、食事休憩無しにしばらく続く結果になってしまった。