序章~ある勇者の終わりと始まり~5
ただこの戦闘の後、西方の魔王軍からの侵略が散発的になった。というよりも侵略するというより小集団が略奪に来るという組織的というよりは衝動的なものに変わった。目的も侵略というよりも食べるものが無いため略奪の矛先が偶々こちらに向かったという感じであった。
捕虜の話だとあの戦争の後王が討たれ後継者争いの激しい内乱が勃発しているということらしいが事の真偽は分からないままであった。ただ違ったのは周辺6カ国に少し余裕が生まれていたことであった。元々参加していなかった東方を警戒していたヴェルチアとヴェローナはともかく、本来なら先の戦闘においてかなりの打撃をこうむるかもしれなかった3国の兵の損耗が最小限で抑えられ、対外防衛に振り回されることがなくなったためである。計算が狂ったのは聖教国のみであった。主戦力だった三国の戦力を削いでおく目論見が外れたこと、それ以上に行方知れずの勇者と本来勇者に与えられる武具は勇者に万が一のことがあった場合、武具のみだけでも転送される仕組みであったのだが、まったく戻ってこなかったこと。それらが戻ってきた時に次の勇者を任命していたのだが、これが戻ってこないのであった。代わりのものはあったのだが、本物とは似ても似つかないものであったので見れば分かる者には一目両全であったのだ。特に各国の王から見ればそれがまがい物だと分かってしまうモノであった。勇者の器を持つものは存在していたが、それを象徴するための後押しがなくなってしまったのは外交的に不利であったのである。武力的な不利を補うために勇者を少数精鋭の近衛騎士団団長に任命し教皇直轄の近衛騎士として就任させ、今ある教会騎士団を分離増強させる形で南方防衛に聖教騎士団を設立するも、内外の諍いの種にしかならなかった。
そんなある日のこと、誰も来ない聖教会宝物庫の奥の片隅にほのかに魔法の明かりが灯る。そこに魔法陣の光が現れ、消えると同時に土塗れになったボロボロの武具が現れた。所々へこみ塗装も剥がれ往年の煌きは見る影も無く、また力も無い使い古されたもののようだった。それは誰にも気づかれること無く眠りについた。