序章~ある勇者の終わりと始まり~3
転移先は旧帝国の街道沿いにある教会なので比較的整備された道を駆ける。
現在残っている街道は帝国が崩壊後はまったく整備されていない。最後の整備から数百年近く年月が経っているのだが、所々綻びが見えるもののきれいなまま保たれている。造りが良かったのかどうなのかは今を生きるものにはさっぱり分からない。戦火にまみれ続けた結果、その技術も知識も喪失、当然ながらメンテナンスという概念も失せてしまっている。「神が作りたもう街道」なんて都合のいいことをいう者もいるが、紛れもなく人が作った道である。各都市を結び大陸全土をつなげる交通網として今なお存在し続けていた。転移門という便利なものもあるのだが、大量輸送には向かず軍や物流を円滑に運ぶには交通網の整備が必要不可欠であった。ただ今となっては城壁で囲うこともできず、国境の警備も万全とはいえないため敵軍も利用できる諸刃の剣となってしまっていた。
フィレンツ国の王に謁見後、さらに数日かけて国境付近に近づいていた。この辺りを警備している基地化した街に到着。今後のことを確認と作戦について将軍と話し合うことになった。
大まかな概要は
1.勇者率いる混成部隊はこの地より離れた森林地帯に集結。日没に外縁国に侵攻。
人里を避け、敵国王都への直接攻撃をかける。
2.陽動かく乱をかの国を含めた隣接するユノー、フィレンツ、アクィリアの三国の王国騎士団と国境
守備隊からの選抜隊により行い、勇者部隊の侵攻を助ける。
3.作戦決行は危険が大いにあるものの魔物の被害が少ない1週間後にやってくる新月の日に囮部隊が
先行後戦いの火蓋が切られ次第、夜行最強行軍で進撃開始する。
というものだった。勇者は囮部隊を受け持つつもりのようだったが、侵攻作戦の要になるため堪えるしかなかった。
「勇者抜きでは侵攻部隊などすぐに蹴散らされてしまいますよ」
「しかし、この計画では囮部隊に相当な被害が出る恐れがあります。」
「まぁ、そうでしょうな。かといって後程度の数の敵をこちらにひきつけておかねば、そちらが夜陰にまぎれるとはいえ、すぐに見つかってしまう恐れがありますからな。こちら側に防衛してるだけではないというのも見せておかねねば今後一方的になじられる恐れもあるゆえ、今回だけでも大規模な逆撃もありえるというのを魔王に見せておかねば図に乗られ手しまう恐れもありますしのぉ。魔王に一矢報いねばわれら3国の騎士の名折れであるといのも否めませんしのぅ。勢いに乗じてこちらが勝てば言うことなし、負けそうなら負けきる前に撤退しますよ。上には大きな声では言えませんが、他国との混成軍なれば、足並みもそろわないと思っておいたほうがよろしかろうて。次の心配ができるのも命あってのモノダネですからのぉ。どちらにせよ、勇者殿の活躍無くば、我々も持ちはしないでしょうな。」
「僕達はそれほどの力なんてありはしませんよ。できることをやっているだけです。多大な期待をされるような存在じゃないんですよ。」
「しかし、あなたを含め歴代の勇者は我々からしたら無理難題を難なくこなしてきているではありませんか。私から見れば無謀と言える戦闘も処理されていますしのぉ。」
「難なくと見えているのなら心外ですが、僕達は役者の素養もあるのかもしれませんね。」
「ははは。なるほど。ワシにはその素養はありませんでの。勇者にはなれぬという訳ですな。では、そろそろ準備にかかりますかな。勇者殿と話ができたことを孫に自慢したいので生きて帰ってこれるよう策を練らなければなりませんゆえ。」
「お互い最善を尽くしましょう。またここでお互いの土産話ができようにがんばってきます。」
「うむ、頼みましたぞ。」師団長が手を差し出し握手を交わしお互いの仕事に戻っていった。
大きな部分でのすり合わせが終わったため、それぞれの部隊での細部の詰めを行い準備は整いつつあった。囮部隊の斥候隊の動きを活発にし、鍛錬をかねた演習も目立つように行っていた。一方、勇者隊はセーフハウスになっているフィレンツ国とユノー国の国境付近の村で逆に鳴りを潜め、囮部隊からの連絡のみが頼りになっていた。
「今のところ大きな問題は起こっていないようですね。魔族の兵の警戒はあちらに向かっていますし、哨戒が四六時中されていますから魔物も警戒して寄ってこないようです。このあたりの森の範囲内も偽装して警戒はしていますが、特に問題は無いようです。」
「わかりました。ありがとうございます。他に変わったことはありませんか?」
「特に報告するようなことはないようですね。何も無さ過ぎて私も含めた兵達が退屈していることくらいでしょうか。」
「ゆっくりできるのも今のうちですから、交代で自由時間を作ってください。ただし、気が緩むことだけは無いようにしてくださいね。一応は戦時中ですのでハメの外し過ぎは厳罰を持って・・・。」
「り、了解しました。徹底するよう命じておきます。」
「よろしくお願いしますね。」
他人に迷惑がかからないようにという程度のつもりであったが、今のやり取りでは休みの時間は鍛錬だとか通達されそうであった。
「勇者様、ちょっといいですかね?」
「なんでしょう軍団長?後、僕のことは「様」は無しでお願いしてもいいですか?」
「では、勇者殿で。勇者殿は魔王軍との戦闘経験はおありですか?」
「魔獣との戦闘がほとんどでしたね。」
「では大規模な遠征とかの経験は?」
「僕は小隊規模の遠征ばかりでしたよ。」
「では今回の軍団遠征のようは規模は初めてなんですか?」
「そうなりますね。」
「なるほど・・・。分かりました。今回の作戦うまくいくといいですね。」軍団長は少し考えるように遠くを見つめていた。