序章~ある勇者の終わりと始まり~1
今は昔、7つの大陸のうちの1つを長きに渡り統べる帝国があった。強大な武力と魔法力を背景に各地を征服していったのだが、急速に広がった唯一神以外認めない宗教の介入と抑圧された地方から起こった反乱、それに乗じた外大陸からの各国の侵攻に抗えず崩壊した。
その後、外部勢力が居座った東部・北部・湾を挟んだ西区外縁地方、大量発生した魔物が荒らしまわり住むのが難しくなった南方地方、また比較的被害の少なかった中心部では宗教を背景に勢力を拡大した教皇が治める旧帝国の首都を持つ聖教国、外部からの侵攻から生き残った各地方都市を領主が治める都市国家となり旧帝国時代に比べるとネコの額となった領地で争われる群雄割拠の時代が訪れた。
数十年の時を経て、聖教国を囲むような形で6つの国家が形成された。信仰する宗教は同じでもそれぞれ特色を持つ国々である。ただし隙あらば旧首都を落とし覇権を握るべく虎視眈々と各国が旧首都を狙うような緊張感が常にあった。聖教国自体は旧帝国の近衛騎士団を警備のための教会騎士団としていたが、強大な軍隊を持つことはなかった。精神面を押さえる事で他国からの介入を何とか防いでいる状態であった。また周辺国も中心だけに目を向けていては自国が滅びるためそこだけに力を注げない現実があった。6国のうちの5国は外部勢力と国境をなし、唯一外縁と国境がないナポルフ国も後背に帝国時代には魔力溜りの制御ができていたものが崩壊とともに長く放置されていたため大小さまざまな魔物が跋扈する大森林があった。いずれの国も一歩間違えれば一気に滅びる可能性は十分にあったのである。敵となるのは、他国の軍団であるか群れであるかの違いだけであった。
さらに緊張の続いた七国家時代も終焉を迎える。原因は領土資源欲が原因だった。唯一外部勢力と直接に接しない南方のナポルフ国が国力増強のための領土拡張を南方の大森林とそれを越えた先にある海を隔てた先にあるシシリー島に求めた。シシリー島は旧帝国時代食料の供給地としての記録が残っており肥沃な土地が広がる島だということであった。海から行くにも当時の船では近づくことも難しく、また島自体は外部勢力が島の主要港を押さえているため、目指すなら陸伝いに近寄るしかなかった。旧街道跡から南下し制圧していった。最初は順調だったのがやりすぎたのである。魔物を刺激したことでスタンピードを呼び込むことになった。ナポルフ騎士団の対応できる範囲を超えてしまい、逆に国内奥深くつまり聖教国と東隣のタレント国の国境付近にまで侵入されることになった。7国東部に位置するタレントとヴェルチアは海洋国家であり陸軍としての騎士団は自国防衛が何とかできる範囲の規模でしかあらず、この事件に対しては手が出せる状況ではなかった。ヴェルチアにいたっては国土が陸伝いではなく群島の集まりと湾内各地に浮かぶ島を拠点としたの海上国家であったため、なお更消極的であった。聖教国はこの状況に対応するため教会騎士団の中から少数精鋭の部隊を創設する。危機対応とは表向きの「勇者」という存在の創設である。神の意思により招聘されたと他国には公言し、残り5カ国の協力を得ようとした。目的は南方から迫る魔物を討伐しこの危機を乗り越えるためとしているが、ナポルフ国を聖教国に取り込むための国策以外の何物でもなかった。強大な力を持つ勇者を持つ協会騎士団により魔物はナポレフ国から一掃された。治安維持の名目で教会騎士団を国土に残され自国で処理し切れなかったナポルフ国の発言権は大幅に縮小、また版図拡張に予算の大部分を割いていたため、復興のための資金を他国、特に聖教国に頼らざる得なかったからである。結果、聖教国の発言権が増し形の上では国家として残ったものの、事実上の併合となった。
他国の反応は目先の脅威が去ったことには安堵しつつも「勇者」と「聖教国」という存在を危険視した。自分達の手に負えなかった魔物を鮮やかに撃退した実戦力が自分たちにいつ向けられるか分からないのだから。だが、聖教国も予想外の良い結果に喜びを隠せなかったが、他国の警戒心がさらにこちらに向く戦力を保持してるという事実に危機感を覚えていた。勇者を手放したくない聖教国は他国の不安の矛先を別に向ける必要に迫られた。いかな聖教国でも他の6国が手を結びこちらへの包囲戦を仕掛けられることには耐えられるはずもなく、下手をすると戦力がすり減った7カ国すべて外部勢力に飲まれる可能性があり目を逸らすための新たな敵を作る必要があった。勇者という剣を保持したまま、その力を振り下ろす先が。