表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/6

最終話

 午前零時を回り、一向は星逢プラネタリウムの到着した。天川は一度星野の親に彼女が無事なことを連絡し、熱にうなされる彼女を近くの椅子に座らせて安静にさせた。

 暈沙木はすぐにタオルと毛布を持ってきて、そのあとに「待ってろ」だけ言い残してその場を後にしている。天川は星野の身体を可能な限り拭いてやり、濡れた服の裏にタオルを忍び込ませた。これで少しは寒くなくなっただろうと、ほっと一息ついた。

 星逢プラネタリウムの中は大分質素なものだった。プラネタリウム以外には受付フロアと、トイレが二つあるくらいで、加えて年季の入った座席がまた人を寄せ付けなさそうな雰囲気をかもしだしている。中央に置かれた投射機だけが、やけにプラネタリウムらしい。丸く球状になっている天井は、まさにそのものだが、ここが外観上ドームでなければそれも分からなかったかもしれない。

 六十ほどしかないだろう座席の入り口付近のものに二人は座っている。天川は星野の隣に座って、首を倒してぼーっと天井を眺めた。電気がついていないので、その有様は垣間見ることが出来ない。ただ延々と広がる夜空のような暗さに、意識を吸い込まれていた。

 暈沙木が始めたこのプラネタリウムは、創業してからこのかた、この全席が埋まったことは一度も無かった。都市部から見てドーナツ現象の最中にある市内では、プラネタリウムなど電車ですぐだ。加えてもともと暈沙木の趣味のようなもので、たまたま資産が出来たために作ったのであって公共施設ではなかった。それでもチラシ配りや口コミで広げようともしたのだが、結局はこんな山奥に来るのは数人のはずれものだけだった。副業で金銭を稼ぎつつ、ここまで来たのだが、ついにその寿命も途切れようとしている。

 天川が見上げている空を一体どれだけの人数が眺めただろうか。子連れの親子が二組来ればそれだけで暈沙木は喜んで飛び上がり、老人夫婦が一組来れば過剰とも言えるもてなしをした。そんなサービス精神旺盛な彼の経営するここが、それでも黒字を出さないのは地形にある。山奥ともなれば、プラネタリウムなど無くとも星は見えるのだ。彼の夜空を眺めるより、本物の夜空のほうが良いに決まっていた。

 しかし、それでも天川はここで良かったと思う。すべては縁だったのだ。天川が星野の弟からこのチケットを譲り受けたことから、星逢プラネタリウムが、天川と星野の遊び場であった空見山に創業されたことまで。

「あ、そうだ。姫子、これ」

 そして最大の縁だった、星野の願いが詰まった巾着袋を彼女に返した。瞼を半開きにしていた星野は、飛び起きるように身を起こしてそれを受け取って顔を輝かせた。

「本当に見つけてきてくれたんだ!」

 あまりにも嬉しそうにするので、天川もなんだか頑張った甲斐があったなと、つられて嬉しくなる。

「俺じゃなくて、暈沙木さんが見つけてくれたんだけどな」

「それでもいいよ。ありがとう、ほんと、ありがとう」

 素直に感謝の言葉を口にされて、天川のほうが照れてしまう。頬をかいて、今にも触れそうなほど近づいてきた星野から目を逸らした。

「なんていうかさ、やっぱあるよな、信じる力ってやつ。姫子が待っててくれたから、頑張れた、みたいなの」

「あたしの念力のおかげ?」

「というより、俺の心構え的なもの」

 いつもの星野節を軽くスルーされたせいか、星野は頬を膨らませた。だが、天川のなんだか大人びた顔を見たら、そういうものが途端にどうでもよくなったように、彼の顔を優しげに見つめた。

「――星に願いを。なら俺は、星になりたい」

 天井を見上げているはずの天川の目は、もっと遠くを見ている。星野はそんな天川の邪魔をしないように、言葉を返さなかった。

「結局は星も、願われたら叶えたくなると思うんだ。今日の俺みたいにさ、誰かに信じられたら、どうにかして叶えてやりたくなるじゃん。期待を裏切りたくないし、そうやって信じてくれたものをおざなりになんかしたくない。きっと星になれれば、どんな奇跡だって起こせるような気がする」

「わたるは、誰かの願いを叶えてあげたいの?」

 天川はそれにうなって、ふと答えを見つけたように言った。

「いや……ただ、信じられたいだけなのかもしれないな。普段ヘタレだからさ俺。信じられたら気持ちいいのかもしれない」

 その時だった。

 鈍く響くような音とともに、天川と星野の目の先に、宇宙が広がった。

 満天の星空。昨日見たまばらなものとは違う、鷲づかみ出来そうな煌きの軍勢。視界の端まで広がる光景に、思わず声を漏らすことも出来なかった。二人の瞳にはその星空が丸ごと映っている。身体がその中に飲み込まれたように動けなくなる。天川が宇宙に最も近いと言った場所は、星の海へと姿を変えていた。

 その中でも、一際輝きが群れを成している部分があった。世界で最も長い川、天の川だった。その中に天川はアルタイルとベガを見つける。ちょうどその帯になっている部分を境に、その星はあった。天川は天に手を掲げ、人差し指でその間に橋を作った。そうして、織姫と彦星が抱き合う姿を幻想した。

「会えた気がする」

 光景に呑まれていた星野が小さく声を上げた。その手には巾着袋がしっかりと握られている。彼女の想いが詰まったそれを、天川と同じように掲げる。

「願いを叶えてくれる『天川渡アルタイル』の本当の姿に」

 星空の中でも一際強く輝く彼は、まるでヒーローのような力強さを持っていた。

「ねえ、わたる」

「ん?」

「あたしの願い、もしかしたら叶ったかもしれない」

「まじ? すげえな七夕」

「七夕が凄いの? これって」

「半分くらいは俺も凄いんじゃないかと思ってるけど」

「じゃあもう半分はあたしじゃない?」

「それじゃあ七夕凄くねえじゃん」

 それもそうだね、と星野は小さく笑った。

 その笑みが彼女にとっての願いで、それに天川が気付くことはない。しかし、それでもいいと星野は思った。きっとそれも一つの形なのだろうと。

 そうしてしばらくしていると、暈沙木が二人のところまでやってきた。彼はとても満足そうな表情で、自分の星空を見上げた。

「まさにこの『星逢プラネタリウム』の最後に相応しい星空だよ」

 まるで息子の巣立ちを見送るような目をしていた。この場所から去っていくのは彼だというのに。

「七夕の日に願った願いが叶うと、その願いは永遠に消えることがないと知ってるか?」

「そんなものありましたっけ?」

 そういった願い事に詳しい天川は彼のほうを向いて首をかしげた。星野は星野で、嬉しそうにしているものの、複雑そうな表情で同じように視線を向けた。

「もちろんだ。ちなみに、うちのプラネタリウム限定の伝説だがな」

「それじゃあダメじゃないですか」

「信じればそうなるかもしれないぞ?」

 口元を吊り上げて言われて、天川と星野は今まで二人がしていた会話を聞かれていたことに気付いて真っ赤になった。それを見て、暈沙木は豪快に笑い飛ばした、

 そこで、天川は暈沙木が手に本を持っていることに暗闇の中で気付いた。

「それ……なんかぶっそうな表紙ですね」

 すると暈沙木も本を胸の前に持ってきて、「ああ、これか」と自分でも気付いたように言った。

「実は副業で占い師をやっていてね、今年の占いの結果が載っているんだが、よければ君たちの星座を教えてくれないか」

 天川と星野は顔を見合わせて、頷いた。

「えっと、あたしはおとめ座で」

 まずは星野が占ってもらうことにした。彼女は昨晩も天川にそういう類のものを聞かされたので、気持ち半分だったため、しぶしぶといった感じだった。

 暈沙木が手際よくページを開き、結果を口にした。

「ああ、おとめ座は正直今年の運勢はよろしくない。突然病気にかかったり、大きな怪我をするかもしれない。しかし安心するといい。それでいても、おとめ座は恋愛運においては全星座中一位だ。行動せずとも、おのずと運が向いてくるだろう。もしかしたら突然の病気とは、恋の病、ということかもしれないな」

 歳の割に合わないセリフを言い残したせいか、星野は苦笑いして礼を言った。反して暈沙木は自信満々に胸を張って、次の天川を急かした。

「自分は、双子座です」

 再び暈沙木はページをぺらぺらとめくった。天川は内心ドキドキしながら、その結果を待った。

「おお、双子座は最高だ。金運、恋愛運、健康、生活、すべてにおいて良いぞ。何も言うこと無しだが、特に物運が中でも飛びぬいて良い。ふとした拍子に手に入れたものが、素晴らしい結果に繋がるかもしれない」

「じゃあきっと、このプラネタリウムのチケットですね」

「ははっ、間違いないな」

 今は雨でふやけてしまった、手製のチケットをポケットから出す。星野の弟からもらったチケットが、まさかこんなところで役に立つとは思いもよらなかった。普段から女性雑誌を読んで占を見ていた天川は、今年の自分の運勢が良いことを知っていて、あえて廃業寸前のプラネタリウムのチケットをもらったのだ。

 そこで、天川は「あれ?」と思う。占は普通、占い師によって結果は様々な場合が多いのだが……。

「まあいっか」

 とりあえず天川は、目の前の光景を楽しむことにした。七夕の雨の日に見る、最高の星空を。

 

どうも、蜻蛉です。

今回は七夕小説企画ということでしたが、どうだったでしょうか。なんだか少し、星の話なのか悩めるところではありますが、すれすれセーフなんじゃないかと自己擁護しておりますのは秘密です。


今回は前書きにあるとおり会話を重点において、いわゆる「ジョーク」的な会話を目指して書いてたんですが……なんか微妙でしたね。ていうか、会話を多く取ったつもりなのに、無駄に三人称にしてしまったせいでちょっと硬くなったかもしれません。


まあ何にせよ、企画楽しかったです。テーマはきっと「信じること」みたいな感じです。俺も星に願い事とかしてみてー。東京の空はとっても星が見えません。流星群を家族と見に行ったことが懐かしいです……。


それでは、よければ評価感想等をくれれば嬉しいです。読了お疲れ様でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ