がーるずをー
「今日こそ決着つけてやんよ!」
よれよれのジャケットに裾野ほつれた短パンを身に着け、ぼさぼさの髪を短く刈りそろえた千佳という少女が、目つきを鋭くして目の前の集団を睨み付けた。
睨み付けられた集団の中から一人。千佳に相対するようにして前に出る。黒をベースに所々パステルピンクの星模様が散りばめられているゴスロリ衣装を着た少女、恵那である。
千佳に睨み付けられたことにも全く動じず、むしろ睨み返すように恵那は手に持った扇子をぴしゃりと閉じ、千佳へと向けた。
「こちらこそ望むところですわ!」
舎弟を引き連れて睨み合っているこの二人、意外にもどちらも国有数の大企業の社長の一人娘である。千佳も恵那も自身の境遇に嫌気がさし、家出をしていたのだ。簡単に言えば、グレてしまっていたのである。
もともと二人は同じグループに所属していたのだが、初代リーダーの若草なずなという少女の高校卒業をきっかけにそのグループは解散していた。千佳も恵那もそのグループからお互いに気の合う者たちを引き連れて、二分されたグループ、その集団のリーダーとなっていた。
ただ千佳と恵那の仲があまりよろしくなかったためか、お互いのグループの行動範囲、縄張りが被ったりすることや、時折起こる元メンバー同士のいざこざなど、些細な事がきっかけで今日のような所謂プチ抗争になるのである。
プチ抗争の時、大抵は口喧嘩から始まる。
先に口を開いたのは千佳だった。
「大体てめぇはいつも気取ったようなカッコしやがって気に食わねぇんだよ! なんだそのフリフリ? 馬鹿じゃねぇの」
まくしたてるように矢継ぎ早に言葉を紡ぐ千佳。
ただ、恵那も負けてはいなかった。
「ああお下品ですこと。口も悪いし素行も悪い。救いようがないですわね。こんなのが大企業のお嬢様なんてお笑い種ですわね。世も末ですこと」
「口が悪いのはともかく素行とお嬢様なのはてめぇも一緒だろうが! 鏡みてみろよ鏡!」
売り言葉に買い言葉。
だが恵那はどこからか銀縁の細やかな装飾がされた手鏡を取り出して、自身の顔を映した。
「あら? 可愛らしい女の子がうつっていますわね。それがどうかいたしましたか?」
「てめぇ……」
明らかに煽りと分かる対応に、千佳は恵那を睨む目により力をこめる。
「あら、ようやく始める気になりましたの?」
お互いの陣営が臨戦態勢を取り、一触即発の空気が場を支配する。
しかし、空気を読まない人間の登場によって場の雰囲気はぶち壊された。
「こらぁ~貴女たちやめなさぁ~い」
どことなく気の抜けるような掛け声とともに走ってくるのは婦警の姿の、線の細そうなまだ若い女性。頬を膨らませて、ぷんすか、いう表現がよく似合いそうな表情をしている。
「げ、なずなの姉御!?」
「なずなお姉さま!?」
集団の中にたった一人駆け込んでくる女性は、現在千佳と恵那が率いている二つの集団、それらが一つのグループだったころの元リーダー。
なずなであった。
彼女は高校を卒業すると同時に警察の採用試験を受け、見事合格。そして再びこの街に戻ってくることとなったのだ。
「千佳も恵那もぉしょっ引いちゃうよぉ~」
たった一人で暴力団を壊滅させたとか、自衛隊の基地をめちゃくちゃにしたとか、のほほんとした容姿からは全く想像もできない物騒な噂が常に付きまとうなずな。
千佳と恵那は自分たちの尊敬する元リーダーの発言に苦笑しながらも、国家権力をバックに手に入れたなずなの発言に底知れぬ何かを感じ、仲間たちに指示を飛ばす。
「お前ら解散だー!」
「撤収ですわー!」
逃げの一手。先ほどまでのにらみ合いなど何もなかったことのように、少女たちはクモの子を散らすように走りだした。千佳と恵那だけは去り際に憧れの先輩に一礼し、その場を後にする。
「仲良きことは美しきかな~」
一人取り残されたなずなは、寂しそうにそうつぶやくのだった。
風邪ひいて昨日は完全に投稿忘れてた。
頭痛がつらひ……