未来の傭兵
砂漠にぽつりと存在する小さな町。オアシスの跡があるその町は砂漠の中継地点として人通りが多かったのだろうと考えられる。けれども今はもう人の気配がとんど残っていなかった。
そんな町だったが、夜空の下で一軒だけ明かりを灯す建物があった。
「おいガキ、肉ねぇのか肉。豆ばっかりじゃねぇか」
女の身でありながら、個人で傭兵業を営むギーラ。人のほとんどいなくなった町で一軒だけ明かりのついた家を見つけ、そこに押し入っていた。
中にいたのは、八歳ほどの少女。
人のいなくなった町に子供たった一人残っていることをギーラは不思議に思ったが、それよりもお腹の好いていた彼女はその少女から食べ物をもらっていた。
「お豆とお魚と乾パンしかないよ」
ギーラの厚かましい願いにも丁寧に答える少女。
「じゃあ魚よこせ」
ギーラは奪い取るように少女から魚の缶詰を取る。印刷されたイラストから見ると、おそらくツナだろう。
「しっかしお前、なんでまだこの町残ってんだ」
乾パンにツナを乗せてほおばりながら、至極もっともな疑問を投げかける。
「だって行くとこないし」
まぁこんな町に残ってるくらいだしな。と思いながらもギーラは更に質問を続ける。
「親はどうした?」
「食べ物取りに行って、死んじゃった」
親が死んだということを話しながらも顔色一つ変えない少女に内心戸惑いながらも、その原因のいったんは自分にもあるのかと少しだけ罪悪感に苛まれたギーラは、ばつの悪そうに頬を掻いた。
「あぁ……わりぃこと聞いちまったな。だけど、なおさらこんな見も知らずの、しかも銃持った危なさそうな奴に素直に飯くれるんだ?」
「だって敵の国の兵士さんでしょ?」
「ああ、この国から見りゃあそうかもな」
「だからだよ」
「はぁ?」
ギーラは素っ頓狂な声を上げる。少女の答えが腑に落ちないものだったからだ。
「だってこの町の人たちを追い払ってくれたでしょ。この町の人たち、食べ物をもらって来ようとした私のパパとママを蹴ったり殴ったりしたから嫌いなの」
そのせいで死んじゃったし。と、不機嫌そうな表情で頬を膨らませる。だがすぐに顔を輝かせると、嬉しそうに喋りだす。
「それにお姉さんたちのおかげで町の人はみんな居なくなったから、残ってた食べ物とか全部もらえたんだよ」
そんな少女を見ながら、ギーラは思う。
少女の境遇は自分と重なることが多かったし、こんな状況でも図太く生き残っている少女に何かを見た。
ギーラの口を、言葉が滑り落ちる。
「なあ……ガキ、お前、あたしと一緒に来るか?」
少女はギーラの見えないところでにやりと笑うと、コクリと頷いた。
心理描写を行動で表すのは難しいなぁ……