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はたらきたくないでござる

 麻木あまねは歓喜していた。

 幼いころから恋い焦がれていた悪魔の召喚を成功させたからだ。


 召喚に利用した紫色の魔法陣の上には、やる気のなさそうな女性が一人寝っ転がっている。服装にまでやる気のなさがにじみ出ているのか、よれよれのグレーのTシャツに、下着のパンツ一枚だけである。


 彼女は、怠惰の悪魔と呼ばれるベルフェゴールだった。


「私のお願い聞いてくれますか?」


 そんな悪魔に、あまねは本題を投げかけた。

 気怠げな視線を天音に向けたベルフェゴールは、今度はこれまた面倒くさそうに自分の寝そべっている周辺へとその視線を一周させると。


「……対価、ないんだけど」


 不満げな表情をあまねに向けた。


 悪魔たちや悪魔召喚を行おうとする者たちの間では常識であったのだが、悪魔を呼び出す際には通称『生贄』と呼ばれる対価が必要なのである。

 それがこの場にはなかったのだ。これがベルフェゴールではなくて普通の、例えば強欲とか嫉妬とかの悪魔だったりしたらすぐにでも殺されておかしくはない。そんな状況でだった。


 しかしあまねは飄々と、その顔色に恐怖も悪びれの一つも浮かべずに言い放った。


「教えてくれたらなんでしますよー」


 えー。と内心でベルフェゴールは不思議に思っていた。大抵の人間は願いを叶えて欲しいから悪魔を召喚するのであって、そのために生贄を用意するのだ。しかし目の前の少女は対価としてその悪魔の願いを叶えるというのである。


「……普通、逆」


 至極もっともであった。

 しかし、ここでブチ切れて召喚者を殺そうとしないのが怠惰の悪魔である。目の前の少女への対価として、自分の願いをさらりと言い放った。

 もし願いを叶えられないようであれば、目の前の少女の残りの人生を頂こうと考えての事だった。残りの人生といっても、命奪うのではなく、その人生を自身のために使えと命令するつもりだったのだ。

 つまりは、養えということである。実に怠惰の悪魔らしい考えであった。


 そんなベルフェゴールの願いはこのようなものだ。


「じゃあ、マモンって悪魔、やっつけて。いつも、働け、働けって、うるさいから」


 私利私欲丸出しである。

 むしろ悪魔だから正しいのかもしれない。


「了解でーす」


 しかしあまねは簡単に首を縦に振った。

 そして、無造作に右手を振るう。


 ビシリ。


 空間が避けた。そしてその避けた空間から、端麗な女性の顔がのぞき込む。

 強欲の悪魔、マモンの顔であった。


 マモンは一瞬驚いたような顔をしてあまねを見ると、 その綺麗な口元をゆっくりと開いた。


「あ!? なんだおまッ……」


 しかし、そのセリフはあまねのデコピンとともに消え去った。正しくいうと、あまねのデコピンで上半身が吹き飛んだのである。


 あれじゃあ再生に二百年はかかるな。

 ベルフェゴールは思った。


 そもそもどうやって次元を切り裂いたとか、どうして初めから自身を呼ぶときもそうしなかったとか、ツッコミどころは様々だったが、考えるのが面倒になりベルフェゴールは諦めたのだ。

 目の前の少女が口うるさいおばはんをしばらくの間黙らせてくれたのである。それでいいじゃあないかと。


だが、あまねのキラキラした目を見て、思い直す。あ、これからこの少女のお願いとやらを聞かなければならないのかと。

 めんどくさいのは嫌いだったが、悪魔というのは契約を大事にする生き物である。契約が成立してしまった以上は、仕方ないといった顔でベルフェゴールはあまねに視線を向けた。


「……願いは、なに?」


「じゃあ、私が死ぬまで一緒にいてください」


「……?」


 ベルフェゴールには、あまねの言っていることがよくわからなった。


「怠惰の悪魔にこの言い方じゃまずかったですかね? 養うので、一生一緒にいてくださいな」


 あまねが丁寧にも、ベルフェゴールに伝わりやすいように言い直した。


「いやーちっちゃいころ資料で貴女の絵姿見て一目惚れだったんですよー。吸い付きそうなその胸とか、ちょっとだけパンツからはみ出たおなかのお肉とか、下手したら色欲の悪魔なんじゃないかってくらい色っぽいところとか」


「……まあ、養ってくれるなら」


どの道であった。


休日がもっと欲しい今日このごろ

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