対処法その③
次の日
HRが終わって、帰り支度を始めた俺は視界に見える女子を早速無視した。彼女は無理にでも俺の視界に入ろうとしてくる。
「蒼太くん。スルーはどうなんだい。スルーは。きずつくだろう?ちょっ、スルーしないで!お願いっ!」
この残念な美少女は六条宮 鏡花。桐壺の友達その2である。彼女は今日も栗色の髪を2つに結っている。それが動くたびに動いて可愛らしさを引き立たせている。
「六条宮さん…。なに?」
「なんだい。その露骨に嫌そうな顔は。まぁ、僕は今日君に聞きたいことがあってきたんだよ。」
俺を思い切り指差す。マンガだったらばーんとか横にかいてありそうな雰囲気だ。面倒なのでとりあえず指をえいと右手ではねのけて、なんだよとてぶやく。
「君は、昨日二人っきりで織葉と帰ってたらしいじゃないか。これは一体どういうことなんだい?これは二股なのかな??答えておくれよ、蒼太くん。」
青い目をきらきらと輝かせている。口調は俺を問い詰めるようだったが、どこか楽しんでいるように見えた。まるでパズルを完成させたあとの小さな子供みたいだ。
「ご期待にそえず申し訳ないが、織葉と帰ったとはいえ別に彼女と付き合ってるわけでもないし、(やましい気持ちがあったといえば嘘になるが)何かしたわけでもない。もっといえば、俺はそもそも桐壺とも織葉とも付き合ってないので二股にはならない。と、思うぞ。」
俺がそういうと、彼女はあからさまに残念そうな顔をして舌打ちをした。…………何がしたいんだこいつは。
「まぁ、いいや。そうそう、ちなみにだが、僕のことは鏡花でいいよ。六条宮なんて長すぎてうざいからね。あと、二人と何かあったら教えてくれ、よろしく。」
それだけいうと彼女は教室から出ていってしまった。
突然視界が闇に包まれる。
「だーれだっ!」
声でもう誰かわかってるが、とりあえず答えておく。
「桐壺?」
「んー、半分正解?」
目に当てられた手が退けらて後ろから桐壺が覗きこんでくる。
「おるはときょーかのことは呼び捨てするのに?なんであたしは呼び捨てしないの。あたしもかりんてよばれたいんだけど。だめ?」
適当に返事を返しておく。すると、彼女は嬉しそうにはしゃぐ。
(………こうしてれば普通にかわいんだけど。)
こんなことは絶対いわないけど。
「そーたさ、今日いっしょに帰ろ?」
「いやだけど。」
「そっかー、いや~…………って、あれ?」
「いやだけど。」
大事なことなので二回言わせていただく。
すると、桐壺は一瞬泳がせる。これは彼女にとって予期せぬ事態だったらしい。すると、はっとひらめいたような顔をしていった。
「これは決定事項なのです!断ることはできません!さ、アイスアイス!」
無理やり腕をひっぱられる。
「け、決定事項って…。」
抵抗空しく、結局いっしょに帰ることになってしまった。
「アイス~、アイス~♪」
彼女の足取りは軽い。
もちろん、俺は重いが。
「ねぇねぇ、これって初デートだよね?」
桐壺ーーー可鈴が目をきらきらさせて聞いてくるので、なわけないだろとは言えなかった。
「そうなんじゃない?」
とだけ、言っておく。すると、腕に巻き付いていた彼女が嬉しそうにはしゃぐ。
(なんだろう、これは。これは他のひとから見たら本当にデートに見えるんじゃ…。)
そう思うと途端に恥ずかしくなる。とにかく、赤くなった顔を彼女に、見られないように顔をそらした。しかし、彼女はそれを見ていたらしい。いきなり、「もしかして、照れてたりする??」といってきた。その上、何故かにやついている。とりあえず恥ずかしさはどこかへ飛んでいった。
「え、無視なの?」
そんな彼女の一言を無視して、俺はフォーティワンに入る。
彼女はさっそく、アイスを注文している。俺は飲み物だけ買って席につく。ソーダは甘くて美味しい。さっぱりとした口当たりがあってのどで泡がしゅわしゅわと弾ける。その味を堪能していると、三段につまれたアイスを手にもって走ってきた。
「あれ?食べないの?」
そういうので、俺はジュースで十分だと返す。しかし、彼女は納得のいかない顔をしてこちらを見ている。すると突然、アイスの乗ったスプーンをこちらにさし出してきた。
「ほら、あーん。」
彼女が笑顔で微笑む。
これを普通に食べてしまっていいのか。たった、何秒かの中で葛藤した。体感でいうと三時間ぐらい。もし、これを食べたら本当に恋人同士に見えてしまうのではないかという不安と、食べなかったとき可鈴をきずつけるのではないかという不安に苛まれた。
ここは、俺も男なので腹をくくる。よし、これを食べよう。食べるしかない。
「あーん。」
スプーンのアイスを口に含む。
冷たくて気持ちがいい。チョコレート味のアイスが舌でじんわりと溶けていく。甘すぎなくて、調度いい味だ。
「これ、美味しい………。」
素直に言葉にしてしまっていた。
すると、可鈴はにこっと笑って
「もう一口どうぞ。はい。」
そういって、またスプーンを出す。恥ずかしがるのも忘れて普通に食べてしまっていた。彼女の笑顔はきらきらしていてちょっと見とれてしまった。少し悔しい気持ちである。
「こんにちは、蒼太、可鈴。」
背中を冷たいものがすうっとかけぬけていく。おそるおそる声のする方を向くと、笑顔でそこにいたのは、俺の幼馴染みで元カノ兼保護者の夕霧 英玲奈だった。