電波塔-6
上條が言い放ってから少し時間を置いて、英田は笑いだした。
「すごいな、君は。二十年も前のことまで調べたのか。うん、大体合ってるよ。だから、一つ間違いを教えてあげよう」
「……間違い?」
「十六年前にこの身体を利用しようとしたのは確かだよ。でもね――僕はその時点で自分の身体を捨てているんだ」
「……何を言っている」
上條は眉をひそめた。
「じゃなければ、何故いきなりこの子の身体を乗っ取れたと思うんだい? ……十六年前、僕は自身を肉の塊から解き放ったのさ」
楽しそうに、英田は笑っている。
「あんたは……まさか」
上條の呟きにも気付かずに英田は言う。
「待ち遠しかったよ。機械人間と言っても実質は人間と基本的に変わらないからね。この子が適齢になるのを待っていたんだ。そして『イヴ』が覚醒した。これはもう運命としか言いようがない!!」
「……ふざけるな」
上條はゆっくりと言った。
「あんたの願いのためだけに利用された機械人間が何人、今まで親しかった人間に殺されたのか、あんたは興味がないだろ? その子たちを守ろうとした人間だっていた。あんたはそれすらどうだっていいと思ってる」
「心外だな。まあ、否定はしないよ。――僕にとっては、彼女以外のことはどうだっていいみたいだからね」
まるで他人事のように言う英田に、上條はやや下がっていた手を上げ銃を持ち直すと、再度銃口を英田の心臓部へ向けた。
「だから俺は、あんたが許せない」
「……へえ。この二人がどうなってもいいのかい?」
英田は上條が狙いを定めた軌道上、自分の前に、気を失ったままの紗羅を抱え持った。
「あんたを電波塔に行かせるくらいなら二人を殺す」
ためらわずに上條は言った。
「どうせ二人の意識は戻らない……そうだろう?」
一瞬、上條の表情が曇ったのを、英田は見逃さなかった。
「いい覚悟だ。だが――まだ甘い」
言った直後、英田は抱えていた紗羅の身体を勢いよく放り投げた。
「!?」
反射的に上條は手を伸ばし――。
隙が生まれた左手から拳銃を奪い取った。
「く……っ」
上條は紗羅を抱き止め、距離を取ろうとしたが、
「遅い」
声と共に英田は上條の右足を撃った。
「邪魔、という程ではないけれど、目障りだからここで退場してもらうよ。ごめんね」
言い終わる前に、英田は上條に続けざまに発砲した。
まずは左足を撃ち抜いた。上條は体を支えられずに背中から倒れた。
左腕を撃ち抜き、動きを封じてから、上條の右腕で支えられていた紗羅を引き寄せる。
上條は空いた右腕で体を動かそうとするも、英田が左肩を踏みつけ、地面へと引き戻した。
その心臓部へ狙いを定め、引き金を引こうとしたが、上條が押さえ付けられていた左肩を無理やり動かし、英田の足が離れたせいで狙いがずれた。
だが。
銃声が響いた後、上條は呻きながら腹部を両手で押さえていた。
動かない左手を腹部に当て、右手で上から強く押さえ付けている。
しかし、その隙間から覗く服は見る間に朱く染められていく。
「……なんだ、残念だな」
息を吐くと、英田は興味をなくしたように拳銃を遠くへ放り投げた。
「まあ、どちらにせよその傷じゃあ君はもう永くない。抵抗はできないみたいだし、見逃してあげるよ。――そこで見ているといい。僕と彼女の復活を」
笑顔で言い放ち、英田は紗羅を抱えて電波塔へ歩きだした。




