第19話 緊張
神田のことを前より意識するようになってから一週間・・・。
神田との関係も戻り普通に生活している。
しかし、今度は俺が神田を避けてしまっている。
話しかけられるとドキドキで話せなくなり、目が合うと赤面して神田の前から逃げるように離れる。
こんなことをもう一週間も繰り返している。
(はぁ・・・。絵里さんがあんなこと言うから・・・)
自分でも神田のことが好きなんじゃないかと思っていたがあんなにストレートに言われると・・・。
「太矢ちゃん」
「わっ!?」
急に名前を呼ばれ驚いたがすぐに振り返る。
そこには神田が笑顔で立っている。
顔が熱くなるのを感じる。
いつもならここで逃げてしまうが・・・。
俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。
(ふう・・・。よしっ!)
「どうしたんですか?」
普段通りを心がけるが神田は笑顔のまま黙っている。
「なんですかっ!」
恥ずかしくなり少し大きな声で神田に言う。
神田は笑顔で俺の頭を撫でる。
「「ボンッ!!」」
という音が聞こえそうなくらい顔が真っ赤になる。
俺は神田の手を払い逃げるようにその場を去った。
洗面所で顔を洗う。顔を拭き鏡の前で深呼吸を繰り返す。顔も真っ赤ではなくなっている。
(・・・またやってしまった)
落ち着いたところでさっきのことを思い出す。神田に撫でられ恥ずかしくなりここに逃げてきた。
本当に情けないな・・・。これじゃ今までと変わらない。
息を整えて気を引き締める。
(ふぅ・・・。よしっ!)
俺は洗面所から出てリビングへ向かった。
リビングでは絵里さんがテレビを見ている。
俺が入ってきたのが分かったのだろう、テレビを消して視線をこちらに向ける。
「どうしたの?」
「ちょっと水を飲みに・・・」
「麦茶あるわよ」
絵里さんはそう言いながら冷蔵庫を指す。
冷蔵庫を開け麦茶を取り出し一気に飲む。
「ぷはっ」
飲む終え部屋に戻ろうとするが絵里さんに呼び止められる。
「よかったわね」
笑顔で俺に言ってくる。
よかったわねというのは俺と神田の仲が戻ったことだろう。
本当に心配をかけた・・・。
「でも、意識しすぎて今度は私が避けているような・・・」
「大丈夫よ。あの子にも太矢ちゃんが照れてるだけだって分かってるから。」
なんかそれはそれで恥ずかしいな。
すると、神田がリビングに入ってきた。
「母さん、今日花火大会あるよね?」
「ええ、あるわよ」
花火大会か・・・。
見たことあったかな?
「今日、太矢ちゃんと行ってきていいかな?」
「いいわよ」
・・・ちょっと待てよ。
今、俺と行くって言ったかな?
神田と一緒にいるだけでドキドキがすごいのに・・・。
「あ、あの・・・」
「「ん?」」
絵里さんと神田が同時にこっちを振り返る。
何か気まずい・・・。
この状況で行かないっては言えないかな?
「何時からですか?」
「う~ん・・・。夜7時くらいだったかしら」
7時からということはあと6時間ぐらいある。
勉強していればすぐかな。
「それじゃ、勉強してきます」
「じゃあ、時間になったら呼ぶから」
「がんばってね」
二階の部屋へ向かい勉強をしようとしたが神田と行く花火大会のことで頭がいっぱいで勉強が進まない。
~6時間後~
「太矢ちゃん?時間だよ」
「分かりました」
時間になったらしく神田が呼びに来てくれた。
深呼吸をして心を落ち着かせて部屋を出る。
「行こうか」
「うんっ」
神田と一緒に玄関へ向かう。神田の方に目をやるとすこし顔が赤い。
照れてるのかな?
今日こそは・・・。
俺たちは花火大会の会場へ向かった。
~会場~
もう何発か花火が打ち上がっている。
「綺麗・・・」
思わず呟く。
隣の神田も打ち上がる花火を見上げている。
スッと神田が俺の手を握ってきた。
驚いたが俺も神田の手を握り返す。
「ちょっと私たち何か買ってくるわね」
絵里さんと純也さんはそう言うと人混みの中に入っていった。
「「・・・ふぅ」」
神田と声が重なる。
神田の方を見ると神田も俺の方を見ている。
「「ふっふふふっ」」
一緒に笑い出す。
神田といるとやっぱり安心する。
(大丈夫。・・・ふぅ)
神田はまた花火に視線を戻している。
俺も視線を打ち上がる花火に戻す。
でも、今日こそ神田に伝えたいことが・・・。
「「あのっ」」
「「あっ」」
俺は勇気を振り絞って神田に声をかけようとしたが丁度神田も俺に声をかけようとしていた。
「太矢ちゃんからでいいよ」
「う、うん」
神田に言われ俺は神田の方に身体を向ける。
(大丈夫大丈夫大丈夫)
俺は心を落ち着かせ神田の目を見る。
そして、
「わたし海斗君のことが・・・」
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