第17話 海!!
「海だぁぁ!!」
これは俺と神田と絵里さんの声じゃない。
純也さんが叫んでいる。
周りの人達の視線が純也さんに集まる。
そんなことを気にせず純也さんは海に向かって走っていった。
「もう、年を考えなさいよ・・・」
絵里さんはため息をつきながらつぶやいた。
そんなことを言っているが絵里さんは絵里さんで派手な水着に身を包んでいる。
「母さんもな・・・」
神田がぼそっと呟く。
「なんか言った?」
絵里さんが神田に笑顔で言う。
毎度ながら笑顔が怖い。
「なんでも」
神田は視線を合わせずにそう言うが、合わさないんじゃなくて合わせられないのかな?
と、どうでもいいことを考えていると純也さんが戻ってきた。
「ハァハァ・・ハァハァ・・」
海で泳いできたのだろう。
息切れしている。
「少し・・休憩・・・」
純也さんはそう言うとごろんと横になった。
「まぁいいわ。わたし少し飲み物買ってくるから、遊んでてね」
絵里さんは早足で飲み物を買いに行った。
「「・・・」」
どうも神田と二人になると沈黙が続く。
「あの」
神田が口を開く。
「せっかく来たんだし遊ぼうよ」
「!?」
俺は驚きを隠せない。
神田から誘ってくるなんて・・・。
「う、うん」
そう言って神田と一緒に海に向かって走っていく。
許してくれたのかな?
今はそんなことを考えずに神田と一緒にいたい。
何ヶ月ぶりか分からないが、神田に話しかけられて俺は思わず涙が出てしまいそうになる。
俺は涙を誤魔化すために海に飛び込んだ。
~1時間後~
神田は海に来ている女性に次々に声をかけられていた。
さすがはモテテいる男・・・。
神田は誘いを断っていったが 断られた女性達が向ける俺への視線は怖かった・・・。
そんな中、俺と神田は遊び疲れて少し休憩することにした。
「飲み物買ってくるよ」
「いいの?」
「いいよ」
神田は駆け足で飲み物を買いに行った。
神田が見えなくなったあと、しばらく何も考えず海を眺めていた。
「いま、一人?」
ふいに声をかけられる。
「いえ、連れを待ってます」
視線を男の人に向けて言う。
大学生ぐらいだろうか?
「そうなの?じゃぁ、その連れが来るまで俺と遊ばない?」
「いや・・その・・・」
退くと思っていたから、言葉に詰まる。
こんな時いつも神田に助けられていたよな・・・。
俺が神田を頼りすぎていたのだろう。
一人でもなんとかしなきゃ。
そう決意し、男の人に向かって口を開こうとしたとき、
「俺の彼女に何か用?」
神田が丁度帰って来ていたらしい。
「いや、別に」
男は逃げるようにして、その場を去っていった。
彼氏が来たら逃げるよな。
俺がそんなことを思っていると、
「もう、太矢ちゃん可愛いんだから気をつけてよね」
「かわっ」
急に神田に可愛いと言われてドキッとしてしまった。
「あ、あとさっきの彼女って言うのはね・・・」
「うん」
神田は顔を真っ赤にしている。
俺もたぶん同じくらい真っ赤だろう。
神田が口を動かそうとしたとき、
「イチャイチャしてるところ悪いんだけど」
「「!?」」
俺と神田は同時に振り返る。
そこには絵里さんが立っていた。
「「イチャイチャしてない」」
俺と神田は声を揃えてそう言う。
「はいはい」と本当に分かったのか分からないがいいだろう。
「今日、近くの宿に泊まることになったから」
「「へ?」」
宿に泊まる?
なんでだろう。
神田も驚いている。
「ちょっ、母さん何で?」
「あの人がね・・・」
あの人とは純也さんのことだろう。
純也さんに何かあったのだろうか?
不安になり、絵里さんの次の言葉を待つ。
「遊び疲れて車、運転したくないらしいのよ」
不安して損したと本気で思ったのは今が初めてだろう。
「あの親父・・・」
神田もため息混じりにそう言う。
純也さん・・・。
俺も失礼とは思うが相当呆れている。
「本当にごめんね」
絵里さんが申し訳なさそうに言うが絵里さんが悪いわけではない。
「ところで親父は?」
「宿で一回寝てくるって」
「はやっ!!」
速いというか空きすぎでしょその宿。
「「はぁ」」
全員が一斉にため息をつく。
「もう、今日は遊ぶわよ」
絵里さんがそう言って俺と神田の手を取り海に向かって走って行った。
「ふふっ」
俺は思わず笑みをこぼす。
それにつられ神田も笑う。
今日はとことん遊ぶぞ!
俺は絵里さんと神田と海に入った。
~4時間後~
途中途中休憩を入れながら遊んだが、そろそろ限界。
絵里さんも神田も疲れてきたらしく、3人無言が続く。
「そろそろ、宿に行きますか」
「「・・・はい」」
別に宿に行きたくないわけではなく、疲れて言葉を発するまで時間がかかった。
重い足を動かし宿に向かう(もちろん水着から着替えて)。
部屋は俺と絵里さん・神田と純也さん。
普通に考えれば普通のことだ。
だが、ものすごく緊張する。
女性と寝るのは・・・。
(俺は女だ・女だ・女だ)
俺は自分にそう言い聞かせた。
「じゃぁ」
神田と別れ俺と絵里さんは自分たちの部屋へ向かう。
部屋に入ると緊張が一層高まる。
(大丈夫、大丈夫)
自分に言い聞かせる。
荷物などある程度片付け終わると、
「温泉に入りましょう」
絵里さんが笑顔で言ってくる。
「・・・はい」
本当に大丈夫かな?
そんな不安を抱えながら絵里さんと温泉に向かうため部屋を出た。
楽しんでいただけたでしょうか。ご愛読ありがとうございました。




