過去の記憶
「憂李、しっかりしろって、おい」
「憂李、憂李っ!」
必死に叫ぶ二人を上から見ていた刈芽は一人大声で笑っていた。
そんな中憂李は一人魘され、夢の中へと引きずり込まれた。
現世界・聖界小学校。放課後・三年一組教室。
いじめ、それはやってはいけないこと。
許させないこと。
馬鹿のやること……。
当時弱弱しく何かあるとすぐに泣いていた憂李はいじめを受けていた。
帰り道のことである。男子五人グループの一人でもあった憂李は四人の後ろをただ追いかけるばかりだった。
「なー憂李、俺達喉かわいた、その自動販売機で買って来い」
一人の男子は憂李のランドセルを掴みむりやり自動販売機前まで連れて行った。他の男子も飲み物を指さして買うように仕向けた。仕方なく渋々と財布をだして買ってやった。それは毎日の出来事だった為、どんどん財布からお金が減り母から貰う度「また? 無くなるの早いわよ憂君」と少し怪しむ表情をしていた。
憂李は絶対に家族の人にはばれたくなく少し焦り始めた。
次の日となって学校へ向かいシューズを履こうと下駄箱を開けると大量に毛虫が詰め込まれているカップだけが入っていた。虫が大嫌いな憂李はすぐに下駄箱を閉めた。周りにいた女子はクスクスと笑いながら見てくる。そんな朝には段々と慣れ始めていた。だが、悔しいことには変わりがない。憂季自身、何故こんな目にあっているのかわからなかった。
成績は上の上で、学年で三位以内には入れるくらいの頭の良さ、それにスポーツも得意でリレーの選手に選ばれるのが当たり前でなんでもできるといった少年だった。近所の人にも好かれていて、こんないじめに合うなんて絶対に考えていなかった。
「あれ、憂李君? シューズどうしたの」
いじめられていることに気づいていないクラスの、天然な女担任は質問してきた。もちろんここで隠されました。や、消えました。なんてことは絶対に言えないと思い咄嗟に嘘を言った。
「家に忘れてしまって、その……」
最初は少し疑っていた様子だったが、なんとか話を作り、担任を出し抜き教室に向かった。教室に入ると、苛立っていた一人の少年が憂李に当たってきた。
「おい、憂李」
「ん?」
少し怯えながら返事をすると後ろからドンと背を押され前に倒れこんでしまった。そこにはクラスの女子が一人いて押し倒してしまった。
「あ、えとご、ごめん」
「気持ち悪い! 最低!!」
周りにいた女子は大声で叫んだ。その声を聞いて先生が走って来た。そしていつものこと頭をポンッ叩かれ「次そういうことしたら親御さん呼ぶからね」と言って睨まれた。勿論押して来た少年は晴れ晴れとした顔をして満足そうだった。
こんな毎日が嫌だったが、一つだけ救いがあった。それは、家から結構近いクジラ公園で一人で騒ぐこと、泣きたい時は泣いて遊びたい時は思い切り遊ぶことができるこの公園、学校の帰りはここを必ず通るため毎日のように通っている。
今日もまたクジラ公園を訪れた。だが、そこには一人の少女が鉄棒に座り、空を見上げていた。その為仕方なく、その日は公園に入らずそのまま家に帰った。
人がいるのは仕方がないことだと分かっているが、少女はあの日から毎日毎日公園にいた。さすがに自分の場所を取られたかのように複雑な気持ちになり、そのまま公園に入って行った。
「君? いつも見てるよね私のこと」
少女から突然話をかけられ驚いた。途轍もなく可愛らしい笑顔で目を離せなくなった。一瞬時間が止まったように、見とれてしまった。
「おーい聞いてる??」
首を傾ける少女を見て少し憂李の頬は赤く染まった。
憂李は自分に笑顔を見せてくれる人なんてもう存在しないと思っていたからだ。
「え、えっとなんでいつもここにいるの」
勇気を振り絞り質問した。嫌われないようにとそのことだけを考えながら相手の表情を窺っていた。
「ここ落ち着くんだもん」
そう言って幸せそうに……寂しそうに空を見上げながら二コリと微笑む。憂李は少女の元に行き鉄棒に上げり隣に座った。
「僕も落ち着くからこの場所が大好きなんだ」
久しぶりに会話が弾み笑いながら少女と楽しく話をいていたため暗くなり時間がたっていることに気がつかなかった。
「おい憂李、何時だと思ってんだ」
怒りランドセルを背負いながら走ってくる兄である哲也の姿を見た途端、そこでようやく空が暗くなっていることに気がついた。
「哲兄ごめんなさい、あ! えっと君の名前……いーやまたね」
憂李は笑顔で大きく腕を振り、それに少女も答えて腕を振ってくれた。今日、二人でいた時間は最高だと思った。とても上機嫌な憂李は自分の部屋に入り、少女の顔を思い出す度クスッと笑った。そのくらいとても楽しい時間だったのである。
ピピピピピ……。
目覚まし時計と共に目が覚め、階段を下りてご飯を食べてすぐに家を飛び出した。
今日もあの子に会えるといいな……。
そんなことを考えながら学校に向かっている。そう、自分がいじめられていたことをすっかり忘れていたのだ。ルンルン気分で下駄箱を開けた途端ボトッと大きなカエルが飛び出し憂李の足に飛びついた。そこで泣きながら足を壁にぶつけカエルを足から落とした。そこで思い出したのである、自分がいじめられていることに……。
「あら、憂李君またシューズ忘れたの? いいかげんにしないと怒るわよ」
すこし怒りめで言う担任に頭を下げた。決して憂李が悪いわけではない、だが、こうやって頭を下げれば相手は少し苛立ちを抑えてくれることに気付き、何かあると自分のせいにして謝り続けた。
「ごめんなさい」
そして、もう耐えきれないと思い新しいシューズを購入した。
体育の授業の時間。体操着に着替えて体育館に向かうと、そこには六年生の兄である哲也の姿があった。憂李はまずいと思った。ここでもし、いじめられたら哲也にばれてしまうと思ったからだ。しかも今日は丁度運が悪く先生方が会議でいないため三年生の憂李クラスと六年生の哲也クラスが合同練習になったのである。
「あれ~憂李君! 哲―きて来て憂李君可愛い~」
哲也のクラスの女子が騒いでいる。元から顔は悪くない為、他の学年には高評価なのである。その時三年生の憂李のクラスの方からバスケのボールが飛んできた。チヤホヤされる憂李の姿を見てクラスの人が苛立っていたのだ。だが、運動神経抜群の憂李はそのボールをあっさりと受け止める、それにより哲也クラスの女子も男子も「すごーい」「すげーな」と褒めてくれた。
この体育の時間は終わり普通に授業を受けていつも通り帰りとなった。この帰りの時間になった途端、すぐに立ち上げり急いで公園に向かおうとした。だが、クラスのイツメングループの男子に体育館に来いと命令され、急いでいるが断るわけにはいかなく体育館へ向かった。
するといきなり沢山のバスケットバールが投げつけられた、一度に沢山のボールだったため取るのも避けるのも不可能で体中に当たった。
「だっせー、こんなボールも取れないのかよ」
一人の男子が現れて髪を引っ張ってきた。ボールがぶつかった部分が痛くよろけ倒れこんだ。それを見たクラスの人がやばいと思い体育館から出て行った。
「あれ……」
真っ暗になった体育館に一人気を失い眠っていた憂李は目を覚まし焦りながら急いで公園に向かった。気を失っていたとは言え痛みが取れたわけではない、いつもより歩くスピードが遅くなってしまった。
「……あ、いた」
公園に着いた憂李はブランコに座っていた少女を見て微笑んだ、途端にその場で倒れこんでしまった。それに気付いた少女は必死に走りながら憂李の元に向かい揺さぶり泣きながら心配した。
「起きて! 起きて! ごめんなさい……やっぱり私は疫病神なの、ごめんね、私のせいだねごめんなさい」
少女は憂李が倒れたのが自分のせいだと思い公園に響き渡るほどの大きな声で憂李に謝り続けた。