女と謎の携帯
憂李はまだこの状況が理解出来ず歯を食いしばりながら耐えていた。
女はそんな憂李の表情を見てニコニコと微笑みながら、首筋を指でなぞった。
「なっ!? てめ、ふざけんな」
(「あれ、声が出る」)
と、身体を押さえ付けていた者がすっと軽くなり咄嗟に後ろを振り向いた。そこには、着物を着た女が呆然と立ち尽くし、そのすぐ下にその女の黒髪が無残に散らばっていた。
「あなたよね、きーちゃんの携帯盗んだの……柚奈どうして」
着物の女、柚奈の髪を切ったらしい人物は腰くらいまである長い黒が見うぃポニ―テールに縛り途轍もない殺気で柚奈を見つめていた。
どうやら二人は知り合いらしい。憂李は危険な事に首を突っ込んでしまったのだと顔を青ざめながら二人の女を交互に見た。
「よくも、よくも、私の自慢の髪を切ったわね」
「今すぐファンシフルに帰りなさい、さもなくばあなたの髪このあたしの剣で全て切り落とすわよ」
ポニ―テールの女が手に持つ剣の刃はキラリと輝き柚奈に突きつけられる。だが、柚奈は恐れを抱かず真っ直ぐな視線で女を見た。その行動に女は眉を顰め、一瞬憂李に視線を向けて小難しそうな表情をした。まるで憂李が邪魔だと訴えているように。そんな時、突然椅子に置いてあった既羅の携帯の着信がバイブレーションと共になり出した。誰も出ずにただ携帯を見つめていると「ガチャッ」と何かが切り替わる音がし、男の人の声が聞こえた。
「俺だ、何のつもりか知らないが依頼は必ずこなせ、お前は俺の狗だということを忘れるな」
憂李はこんな事を言う人がいるのかと驚き携帯をジッと見つめた。すると、ポニ―テールの女が椅子の上に置いてある携帯を手に取った。
「あらら、鈴それをどうするの」
「柚奈には関係ないでしょ」
「そうね、でもそれを既羅に渡せばどうなるか分かっているのでしょう」
鈴はその言葉を聞き携帯を強く握り、下唇を噛み締めた。
状況が余り分からない憂李はそんな鈴と悪魔のように微笑む柚奈を見ていることしかできなかった。すると柚奈は突然真面目な顔付きと変え、口を開いた。
「既羅なんでどうでもいいわ、でも、なんで、あんな奴の言うことを聞いてその下で働いているのか私には理解できない」
そう言うと、冷めた顔をしながら公園を後にした。その場に残された鈴と憂李じゃ一言も喋らず時間だけが刻々と過ぎて行く。そんな中鈴の携帯の着信が鳴り出した。
「あたし、うん見つけた、わかったそろそろ帰る、大丈夫だよ」
電話が終わると鈴は憂李を見て軽く微笑んだ。それから、口に人差し指を当てながら、まるで今までの事を無かったことにして下さいとでも言っているかのように切ない表情を見せてから走って公園を出て行った。
何らかの理由があるとしても無関係である憂李は理解しようと努力しつつ公園で頭を抱えながら立っていた。
暗い夜道を一人で歩き家に向かった。玄関を開けると中学二年生になった憂李の妹である貫棟李沙が笑顔で飛び込んできた。そして笑顔で「おかえり」と言われ、今日あった意味のわからない出来事が全て無かった事にリセットされたかのように思えた。
晩御飯を食べ終わり、お風呂、入り、寝ようとベッドに横たわった。やはり今日の事は忘れることができなく、携帯を手に取りジッと見つめた。
(「そう言えば鈴って女、同じ高校の制服着てたよな……つか、剣はねーわ」)
なんて考えているとそのまま目を閉じ眠りについた。その時憂李の携帯に誰だかわからない人からの電話が来ていた。そのことに憂李は全く気付いていなかった。
今の時刻午前一時半。フッ目を覚ました憂李は眠そうに目を擦りながら大きなアクビをした。そして、妙に外が騒がしいことに気づきカーテンを開けて窓を開け顔を出した。そこには剣を持って大人の男三人を問い詰めている女の姿があった。その女はどこかで見たことのある顔付きだ。さらにその女瞳は血のように真っ赤な色をしていた。普通ならば恐ろしくなりすぐに窓を閉め隠れると思うが、憂李は起きたばかりで意識がはっきりしていない。その為、ただの夢だと思い言い合いをしている四人の姿を見ていた。
(「最近、剣を持ち歩くの流行ってんのか?」)
そんな時問い詰められている男の一人が憂李に気付き深夜であるにも関わらず大声で叫んできた。
「おい、あいつこっちを見てるぞっ!!!」
その言葉を聞き一斉に皆こちらを向いた。流石に危険を感じて苦笑いをしながら窓を閉めようとした、その時男の一人が憂李目掛けてカッターナイフを投げてきた。寝ぼけているせいか身体が瞬時に反応出来なく、避けきれないと思い目を強く瞑った。だが、中々痛みが生じない、少し可笑しいと思いゆっくりと目を開けると目の前に、さっきまで男達と一緒にいたはずの女が片手に剣を持ち、もう片方でなげるけてきたカッターナイフを掴んでいた。
目の前にいる女に視線を向けると、肩耳にピアスを付け、腰くらいまでの長い白髪、それに赤い瞳、とても人間とは思えないような雰囲気に包まれていた。だけど、やはりその顔はどこかで見たことあるように感じた。憂李は真剣んびジッと見つめていると女は口を開いた。
「憂李、携帯見つかった、ありがとね」
女はそう言うと憂李の腹部深くに膝を減り込ませ気絶させた。
外を見るなり男達がいないことに気付き真顔で二階にある部屋から外へと飛び降りた。
(「携帯? まさか、既羅なのか……」)
そのまま憂李は窓付近で倒れてしまった。