5.thunder storm.―2
「謝るな。こんな世界だ。俺の親もそうだが、家庭なんてものを持った時点でそういうトラブルがある事は覚悟しておかなきゃならないってモンだからな」
龍二がそう真実を告げると、霧男が表情を伏せた。追い詰めたつもりはないが、それでもやはり、思う所はあるのだろう。
ともかく、事情を把握した龍二達にはやる事が出来た。
「わかった。クロコダイルと昭和を片付ければイイって事だ」
そうしなければ、宮古一家に安心は訪れないな、と付け加えて龍二は笑った。無意識の内に腕を組もうとしたが、左腕が動かない事をすぐに思い出してそれはやめた。
「……私も、出来るだけ協力する」
「私もだ」
宮古一家が頭を下げたが、龍二がすぐにあげさせた。
気にするな、そう言って、「俺も最近の協会のやり方には腹を立てている」
killer cell計画や、無法地帯と化した殺し屋団体の事を思い出して、龍二はそう吐き出した。
礼を連れて、龍二とシオンは帰宅する事になった。その道中で、シオンが龍二を迎えに行っている間に宮古の下を訪れようとしていた春風、日和と偶然遭遇し、四人は一緒に龍二の家へと戻る事となった。
全員がアトリエへと降りて、今回の話しが始まった。
「クロコダイル、それに協会の二番手、昭和を仕留める。今回の仕事だって思ってくれ」
龍二のそのセリフに春風も日和も目を丸くしたが、特別何かを言う事はなかった。二人共龍二の決めた事に従うつもりでいるのだ。
龍二は春風にクロコダイルと昭和についての情報を探す様に指示をする。春風はわかったと頷いた。
そして、春風が言う。
「で、話しが変わって悪いんだけど。武器の件。ハッキリしたから」
春風がアトリエ中に綺麗に飾られる様に陳列された武器を示しながら、そう言うと、龍二は眉を顰めて、視線をゆっくりと、春風から日和へと動かした。
「灯台下暗しって、やっぱりお前の事だったのか、日和」
龍二もある程度の予想は出来ていたのだろう。龍二の視線は確かに幼馴染の日和の目を捉えていた。イロイロと思う所があった。ずっと、殺しの世界とは無関係だと思って接してきていた日和が、同業者だったわけだ。それに日和は龍二が殺し屋だったという事は把握しているはずだ。どう思って、自身と接してきたのだろうか、と龍二は口には出せない不安を覚えていた。
アトリエの中は空調が聞いていて、過ごしやすい空間となっていたが、僅かだが居心地の悪さを感じた。重々しい空気が流れていた。
日和は数秒の沈黙の後、頷いた。
「うん。そうだね。私は浩二さんとも、美羽さんとも、龍二が殺し屋になる前から話しをしていたんだよ。で、武器の事も、浩二さん達がいなくなっちゃう時、教えられた。『龍二が殺しの世界から完全に抜け出せたら』教えてあげてねって言われてた」
龍二は黙って日和の話しを聞いていた。表情は最後まで話せ、と訴えているようだった。
「まぁ、ここまで言ったら分かると思うけど、私が龍二の家に無理にでも通ってたのは龍二がどうなっているのか、って監視する事もあったし、桃ちゃんやシオンさん、それにミクちゃんが親戚なんかじゃないのもわかってた。まぁ、途中からは本当にゲームしたかったし、単に幼馴染として遊びにきちゃってたけどね。あはは」
「それでね、武器についての話しは聞いたから、私と日和ちゃんは、武器の修復のために京都に出ようと思う」
春風が続いた。龍二は春風へと視線を移して、
「京都にその答えでもあるのか?」
問うと、二人揃って頷いた。
「わかった」
「あ、でもクロコダイルと昭和の情報はちゃんと集めるから心配しないでね。メールで情報をまとめて送るから」
「おーけーおーけー。まぁ、なんだ。そんな急がなくていいからな。少し京都観光でもしてこい」
龍二は笑ってそう言った。冗談めいた言葉ではあったが、本心だった。
武器の事を急げと急かして等いないのだ。直るなればそれに越した事はないが、直らなかったら直らなかったで他の武器で身を固めてもよいかな、とも思っていた。
春風と日和は準備を済ませていた様で、すぐに出て行った。そうして、家には龍二、ミク、シオン、宮古が残った。シオンは龍二の手伝いを従っていたが、今はゆっくりしていろという龍二の指示によって、ミクの待つ自室へと戻っていった。ミクもあんな事があってから、ずっと不安だっただろう。いくら殺し屋のクローンとはいえ、彼女はただの少女だ。守るべき人が守ってやらねばならない。
そうして、リビングには龍二と宮古が残った。普段なればここで、春風が何かしらのつまむモノでも出してくれるのだが、その春風は今はいない。それどころか暫く帰ってこない可能性もある。仕方なく、龍二がキッチンに向かい、棚をあさり始めた。すると、あっと言う間に大量のお菓子類を見つけた。春風の準備の良さには龍二も関心しか出来なかった。
春風の用意してくれていたお菓子類を適当に選別して食卓に広げ、龍二は礼の前に座った。
「まぁ、つまみながらでも話そうぜ」
「うん」
宮古の表情はまだ暗い。仕方のない事ではあるが、龍二は「気にするな」と言うのだった。
お菓子をつまみながら、龍二は言う。
「で、お前今まで地元にいたのか?」
本当の世間話だった。殺しの世界とは関係のない、彼女とただ雑談をしようとする意図の言葉。
「え? ん、うん。一応家自体はこっちにあったけど、仕事が仕事だからね。あまり家に留まってなかったからなぁ」
「そうなのか。イロイロ大変だったんだな」
「あはは。過ぎちゃえばちょっと悪い思い出程度だよ。今はもう、仲介業もやめて、お父さんの雑貨屋の手伝いだしね。これはこれで楽しいし」
「そうだよな。自分の店持つってすげー楽しそうだ」
笑う。龍二は心中で、将来自分も余った金で店でも始めてみるのもいいかもな、と思ったが、思ったまでである。




