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5.thunder storm.






5.thunder storm.





 人の口に戸は立てられない。が、春風達は礼二達を信じるしかなかった。それしか出来なかった。礼二達を殺せば良い、というのが殺し屋の思考ではあるが、彼女らにその選択肢は存在しなかった。彼らを守るために教えた知識だ。殺す理由等有り得ない。

 龍二宅には春風とシオン、ミク、そして日和が残った。

 朝日が昇っていた。まだ、時間は朝の六時前だった。彼らを返すには少し早かったかとも思ったが、彼らは一睡もしていない。帰って寝て、今日の事を夢だと思ってもらえればと、少し早く返した意図もある。当然そんな事にはならないだろうが。

「龍二の迎えに行ったほうが良さそうだね」

 一息付いてから、日和が言う。

「迎えって……。医者の所?」

 春風が問うと、日和は頷いた。「そう。殺し屋、それも実働ならあの人の所しか行く場所ないでしょ」

「医者の所まで、ここから二時間くらいかな。今から出た方がいいでしょうね」

 シオンが言う。ミクを見下ろしてから、再び口を開く。「桃ちゃん。日和ちゃん。二人は話す事もまだまだあるでしょうし、私が行きます。ミクを頼みますよ」




 シオンは絶句した。当然だった。有り得ないはずだった。シオンだって殺し屋だ。それも、実働役だ。医者の下へと来た事もある。一度訓練で怪我をした際に、経験だ、と仲間に案内されて来た記憶を辿りながら、シオンはこの『血まみれの空間』を進み始めた。

(おかしい……、この病院は、絶対的に攻撃、殺しは禁止だって聞いてたけど……。この状況って事は、そのルールも破られたって事ですね)

 シオンは拳銃を手に、進む。暫く進み、『降りる』と繰り返すと、ちらほらと死体の影も見えてきた。シオンはその数を途中まで数えていたが、その数の多さから、途中で数えるのをやめた。見れば、そのほとんどが銃撃とナイフと思われる傷跡を保有していた。傷だけでは、何がどうなってのかまではわからなかった。

 道中には院内の案内板が小さいモノだが存在した。それを辿り、僅かな記憶と照合して、シオンはなんとか医者の部屋へとたどり着く。その間にも死体は沢山あったが、最早気に止めやしなかった。

 医者の部屋を覗き込むシオン。一応に銃を握ってはいるが、この院内に自身以外に生きてる人間がいるとは思えなかった。

 が、その考えはすぐに改められた。

「神代龍二!」

 シオンはそう叫び、すぐに銃をしまい、見つけた龍二の影へと駆け出した。

 龍二がいた。微かに見覚えのある死体もあったが、そんなモノは無視して、シオンは即座にベッドに腰掛ける龍二へと駆け出した。良く見れば、彼は首元に傷跡を作っていた。止血は済んでいるようがが、まだ新しい傷跡が痛々しかった。

「何があったのですか!?」

 すると、龍二は寝てでもいたのか、ハッと目を見開き、すぐ側によって来ていたシオンをいなした。一瞬の出来事だった。龍二が強いと言われる理由がわかった気がした。一瞬にしてシオンはベッドの、龍二が先ほどまで座っていた場所に仰向けに倒されていた。龍二はシオンと場所を入れ替わるようにして、彼女に右手に持つ銃口を突きつけていた。

「って……、シオンか……。助けにでも来たのか……」

 シオンだと気付いて銃を引く龍二。だが、その声色に普段のような生きた雰囲気はなかった。疲れているのだ、とすぐにわかった。シオンは仰向けに寝たまま、龍二の左肩を見て、治っている事を確認してから、上体を起こす。

「一人で帰れるのか心配だったので」

 冗談を吐き出す余裕くらいはある様だ。

「俺はガキかっての……。で、そっちに敵襲はあったのか?」

「ないですね。あの後、アトリエに全員避難しました。あ、あと話しも全員にしました。そして、安全を確認してから日和ちゃん以外の全員を早朝に返しました。……そっちは?」

「俺は……。襲撃された。敵は一人かと思ったが結構な数がいた。この首の傷もその一人にやられた」龍二は首元の傷を右手で乱暴になぞった。痛みが走った。「だが、ここは殺し屋の集まる場所だ。何かがあれば何かに関わってない人間も身を守るために戦う。中には腕の立つ奴もいるのかね。気づけば俺だけになってたよ。この院内にいるのはな。絶滅したのか、撤退したのかは知らないが」

「で、左腕、……動かないのでしょうか?」

 龍二の左腕を注視し、目を見るシオン。気づいていた。

 龍二も隠すつもりはないのか、僅かに自虐めいた笑みを浮かべてから、言う。

「そうだ。今は全く動かないし、感覚もない。まぁ、医者がいうには、いつか動くかもしれないって事だ」

 龍二はそう言って笑う。が、シオンは龍二が『期待していない』事に気づいていた。そして『治るかもしれないし、一生治らないかもしれない』といったニュアンスを掴んでいた。

 まずいのでは、と思った。今、宮古が狙われている。家に返したのは『今』安全だと思ったからだ。またすぐに安全ではなくなるだろう。その危険を取り除かなければならない。が、シオンも、春風も、ただの殺し屋程度の力しかない。相手が殺し屋であれば力は五分五分。確実性はない。龍二の力に頼り切るつもりもないが、龍二の戦力は大きかった。

「なぁに。心配するな。俺は片手でもそこらの殺し屋には負けねぇよ」

 目をこすりながら、龍二は笑う。シオンに気を使っているのだろうが、シオンはその強がりに不安を覚えた。無理をしている、と。無理をしている、強がっているという事は、状況は説明された状態よりも最悪なのだ、と。




 龍二とシオンは病院を抜けて、そのまま自宅へと帰らず、その足で直接商店街の外れ、『雑貨屋 Viore』へと向かった。シオンは当然、龍二に一度帰宅を促したが、龍二は言って聞かなかった。少しだけだが寝て、体力を回復したからか、動きを止めたくないのだろう。

 店は開店していなかった。店の外に書いてる定休日ではないため、礼が霧男に話しをしたための臨時休業だろうな、と龍二は推測した。よくみれば、臨時休業の趣旨を伝える張り紙が表にしてあった。と、なれば表からは入れない、と龍二達は店と一体になっている自宅の入口がある裏へと回った。

 裏へとまわると表の店の入口とは比べ物にならない程質素な扉があった。インターフォンも扉のすぐ横に備えられていて、押さない理由は龍二達にはなかった。

 龍二が右手を伸ばし、インターフォンを押し込む。

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