表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/139

4.we cry down.―19

 龍二は今にもちぎれて取れてしまいそうな左肩を抑えて、人目につかないように歩き出した。血は滴っていなかった。撃たれた事を良しとする訳ではないが、あれだけの銃弾であったからこそ、止血できたのだ、と思った。壁に寄りかかりたくもなったが、壁に寄りかかれば血痕を残してしまう。龍二はフェードアウトしたがっている意識を無理矢理にこの場に留めて、歩を進めた。

 この傷は医者にも治せないかもな、と思った。




    40




「戻った……」

 龍二は自宅の玄関を開けてそうどうにかして吐き出した。最早声を出すのも苦痛だった。が、まだ意識を留めさせておく事が出来た。

 辺りに敵がいないか、確認はしなかった。だが、龍二は直感でいないと思った。

「龍二!」

 リビングから春風が飛び出してきた。すぐに続いて、宮古も飛び出してきた。後続はなかった。日和が抑えているのである。が、それを龍二は知らない。

 春風と宮古は即座に倒れかかった龍二を支えた。そして、傷の酷さに気付いた。

「これ……っ!」

 春風の目が見開かれた。言葉は失われた。宮古も同様だった。あの薄暗い空間ではこれほどまでに酷いとは気づけなかったのだ。龍二の肩からは生臭い匂いと、焼けたような匂いが立ち上っていた。

 震える体を落ち着かせ、なんとか声を振り絞って龍二は言葉を紡ぐ。

「血痕は残してない……。敵の追撃はなかった。俺は、……春風、アトリエの中に武器の装備をしてある黒い分厚いコートがある。とってきてくれ」

 龍二は春風に『アトリエ』に行け、と指示をした。が、

「ちょっと待って。龍二、落ち着いて。リビングには前原君達がいる」

「アトリエって何よ!?」

 事情を知らない宮古が割り込むが、春風が視線で黙ってて、と訴えると宮古はその迫力に押し殺されて留まった。

 言われた龍二は目を僅かに伏せて、言う。

「いいんだ。こうなっちまったら仕方がない。相手も、気にはしていないようだしな……アイツらには後で話す。いや、春風が話してくれ……。俺は今から『医者』の所に行ってくる……」

 龍二は玄関に完全に座り込み、春風に手を振って、行け、と合図する。春風はすぐにわかった、と頷いてリビングへと走った。言わなかったが、宮古には龍二を見といてくれ、と言ったようなアイコンタクトを送ったようだった。

 リビングの方で驚きの声が上がっていたのを放置して、宮古が座り込んだ龍二を支えた。触れば痛むか、と思って肩には触らないようにした。血は止まっているが、触らない、という選択は正解だった。

「龍二……ごめん。ごめんね……」

 涙を流しながら、宮古は突然謝り始めた。が、龍二は驚きはしなかった。

「お前……礼。何か知ってるんだろ? 分かってんだよ。でも、今言う必要はねぇ。後で聞く。あぁ……その前に春風に話してやってくれ。アイツは事情を知ってるし、信用出来る……」

「う、うん。うん……わかった……」

「あ、あと、……、あと、確認を」

「確認?」

 涙目で龍二の顔を覗き込む宮古。そんな宮古の表情を見て、龍二は微笑まずにはいられなかった。どれだけの激痛が襲ってきていようが、意識が飛ぼうが、どう考えても自分が苦しかろうが、これだけ悲しんでいる女を目の前にして、不安を煽るような事は出来なかった。

 故に龍二は微笑んで、大丈夫だ、というワンクッションを置いてから、問う。

「お前、自分がターゲットにされたって事は、知ってたんだな……?」

 その龍二の問いに、宮古は頷いたのだった。




 医者の下へとたどり着くまで、一時間と少しを要した。コートで隠した傷は疼きっぱなしで、龍二は一瞬たりとも気を抜けなかったし、痛みを忘れる事が出来なかった。タクシーを使ったが、本当は使いたくなかった。だが、この場合はしかたがない。

「連絡入れた通りだ……」

 医者の下にたどり着いて、そう呟いたと同時、龍二は完全に意識を失った。撃たれてから二時間は経過していた。ここまで意識を保てたのは奇跡と言ってもよいだろう。

「ッ! ちょっと! しっかりしなさい!」

 医者は突然倒れた龍二の体をなんとか受け止めた。その受け止めた感覚で、すぐに気付いた。重傷だ、と。

 医者はすぐに開けていたベッドに龍二を寝かせ、できるだけ刺激しないように、だが素早く龍二来ていたコートを脱がした。そのコートが異様に重かった事が気にかかりはしたが、武器が詰まっているのだろう、と気にせず医者はすぐに傷を見た。

 暫くは動かせないだろうな、と思ってしまった。




「聞いて、皆。話しがある。わかってるとは思うけど」

 龍二宅のリビングで、春風は神妙な面持ちで言った。彼女の前にはシオンとミクは当然。礼二、春風、平、飯島、結城、前原、宮古と一般人が揃っていた。全員が息を呑む。これから春風の口から漏れる話しが、重要な事だというのは全員が理解していた。

 一度全員の目を見てから、春風は深呼吸する。春風はやはり、と確信した。春風はもう一度だけ、日和を見てから、話しだした。

「……。突然の事でさ、いきなり変な事いうけどさ、嘘じゃないから」

 もう一度深呼吸。そして、

「龍二はね、殺し屋なんだよ」




    41




「マジかよ……」

 飯島が顎に手を置いて頷いた。そして重々しく吐き出した。

 春風は当然、他言無用だと念を押して何度も言った。が、今の彼らの耳に入っていない可能性もある。もう一度後で念を押しておこうと春風は思った。

「殺し屋ってオイ……。挙句伝説がどうとか……。桃ちゃんまで」

 礼二も驚いていた。前原も、皆もだ。

 シオンとミクはまだ当然だが、日和、宮古。この二人は周りとは違い、妙に落ち着き払っていた。宮古は龍二の心配をしているのか、落ち着き払っていた、とは言い難かったが、それでも他の初めて殺しの世界があるという事を知った人間とは違う反応を見せていた。

 春風は決めた。日和、宮古に真実を話してもらおうと。龍二に相談しようかとも思ったが、そんな時間はない。龍二がいつ帰ってくるかもわからない。ここは自分で決めて、自分が動かなければと春風は覚悟した。

「でね。皆がいる前で悪いけどさ。日和ちゃん、礼ちゃん。もうわかってる。話して」

「…………、」

 春風のその言葉に、日和は黙ったまま春風に意味深な視線を送ったが、

「わかってるんだよ。日和ちゃんさ。日和ちゃんはさ、ずっと分かってたんだよね、龍二の事も。私が龍二の親戚なんかじゃないって事もさ」

 春風が白状、そして恐喝すると、日和ははぁ、と嘆息して、渋々と言った様子で言葉を漏らした。

「……いいかな。話しても。本当は『美羽さんとの約束』で、『龍二が殺しの世界から完全に抜け出せたら』話すって事になってたんだけどね……」

 その日和の言葉に、春風は思わず目を見開いた。どうやら日和は、春風以上に、神代家の事を、龍二の事を知っているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ