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1.open it.―7


 そうだ。そもそも、学生服姿の人間があの様な場所にいた事、入れた事。全てがおかしい。

「じゃあ、行くか……お詫びに飯でも奢るよ」

「いいの? じゃあお言葉に甘えて~」

 奢りという言葉によろこぶその表情は極普通の女子高生そのもの。見れば、疑いをかける気は起きなくなってしまう。だが、

(……探る気は起きないけど。……用心しておくことに越したことはないか)

 龍二はまだ、疑いを拭いきれていないのだ。




 おいしい、と何度聞いたか、とうんざりしてしまいそうなのは当然龍二だ。

 並木道の脇を飾る商店街の一角のファミリーレストラン。学生服の男女二人がいても特に違和感を覚えない場所だ。その店の奥の席に、龍二と春風はいた。

 龍二は晩飯前だけど、と思いつつも眼前にステーキとライスのセットを置いている。一方で春風は、最近の女子高生らしく余り量のないドリアを食べている。食後のデザートはまだ手元には来ていない。

 どうしてこうも、おいしい、だの、かわいい、だの女子は連呼するんだ、と思いながらも、龍二は春風を探ろうと話しをする。

「この時期に転入ってのも大変だっただろ」

「そりゃあね。でも、まぁ、事情があったしね。仕方ないよ」

「事情?」

「聞くの?」

 ドリアを一口頬張り、悪戯な笑みを浮かべて言う春風。可愛いな、と思う前に、聞いても大丈夫だな、と龍二は思う。

「聞きたくはないけどな」

 龍二もまた、悪戯な演技めいた答えを返す。と、春風はおかしそうに笑って、快く応えてくれた。

「この時期にねって思うだろうけど、お父さんの仕事だよ。転勤族……ってわけじゃないんだけどね。本当に偶然、このタイミングで」

 春風の動きには何一つ違和感がない。そう、まるで、訓練されているかの様に。余りに違和感がない故、龍二はそこに違和感を覚えてしまう。

「ちなみに、どこから転入を?」

「鹿児島」

「また、遠くから」

 龍二が驚いた様に言うと、春風はドリアを咀嚼し終えてから、言う。

「そうでもないよ。今なんて飛行機で二時間掛からないしね」

 引越しの準備とか編入の手続きは面倒だったけどね、と言って笑い、またドリアに口をつける春風。

(つーか、やっぱり可愛いよな。春風)

 龍二も一男子高校生だ。やはりそう思う気まぐれもある。

 事実、この場にいる他の高校の男子生徒と思われる男共は、時折春風に色眼鏡越しの視線を向けている。それほど、目立つほどに、春風の見た目は良い。

 余り、変な事は聞けそうになかった。

「なるほどねー。俺は引越しとかした事ねぇしな。なんか大変だなとしか感想が持てねぇ」

 そう話しを流そうとする龍二だが、そこに、春風は食いついてきた。

「でも、神代君は引越しよりもすごい事になってるって聞いたけど……。その、なんて言うか、言い切れないけど……」

 とても申し訳なさそうにいう春風。言葉の尾が尻すぼみになっているのもまた自然だった。が、龍二は、気にする事じゃねぇよ、と前置きし、極普通に応える。

「両親が『いなくなって』な。今から一年とちょっと前。でも家は残ってて、親戚の援助あって今も三人で住んでた家に住んでる。正直、引越しが面倒だったんだよな」

 そう言って、笑い話に変えようとする龍二だが、春風の表情は浮かない。

「『いなくなって』って?」

 表情は「申し訳ない」と語る。だが、気にはなるようだ。これに関しては龍二も含めた言い方をしてしまったな、と反省し、言い直して応える。

「あぁ、死んだ。葬式もしたしなー」

「そう。なんか、聞いてごめんね」

「最初にも言ったけど、気にするなよ。別に傷心ってわけじゃないんだ。もう一年以上前の事だしな」

 場の空気は暗く沈む。が、龍二は自分の話しをするために春風をここに誘ったわけではない。

 一度、気分を切り替える様に周りを見渡す。すると、やはり何人かとは目が合った。その中に、見知った顔もいるが、龍二には『話しかけてこない事が分かっている』ため、龍二は敢えて無視をし、春風に視線を戻す。

「ちなみに、さ。春風は何処に住んで――、」

 話しを戻し、二人の間に流れる悪い雰囲気を払おうとした時だった。

「兄ちゃんよー。ちょっと彼女さん貸してくれないかなぁー」

 思わず頭を抱えてしまいそうな、在り来たりな気だるい声が、二人のテーブルに掛けられた。二人が反応して見上げると、そこには神埼高校の制服を纏った、所謂『不良』が五人。それぞれが厳つくなろうと髪を染めたり、剃ったりと見た目を派手に飾っている。当然、制服もまともな纏い方はされていない。体格はそこそこ、見れば、龍二よりガタイの良い者もいる。

 春風は即座に表情を下げた。これが、正しい反応だろう。だが、龍二は何一つ変化を見せない。睨む事もなく、怯える事もなく、春風と接する時と同じ様に、彼等を見上げ、そして言う。

「こいつぁ俺の彼女じゃねぇよ。一年坊君」

 だが、言葉は鋭利だった。そのまま言葉にするわけではないが、ハッキリと挑発だと取れる言葉。その煽りに春風が「やめなよ」と焦ったように小声で言うが、龍二は聞こえないと言わんばかりに何の反応をみせず、ただ、不良共を見上げ、笑みを浮かべた。

「二年だっての。三年だからって偉そうにしてんじゃねぇよカスが」

 不良の一人が苛立ちを隠せない言葉を吐く。表情はひん曲がっている。どうしてこの年の不良はダサイ顔で人を脅すのか、と思わず疑問を吐き出してしまいそうになるのを抑えて--、

「二年ね。何も知らない一年坊ならまだしも、って思ったんだけど、二年にもまだ、『知らない』奴が居たとはねぇ」

「何がだ! 調子ノッてんじゃねぇぞコラッ!!」

 龍二の煽りに早くも耐え切れなくなったか、ガタイの一番良い男が龍二の胸倉を掴み上げ、無理矢理に立たせて、自身の顔を近づけた。龍二の膝がテーブルにぶつかり、大きな音が鳴る。料理は無事だが、周りの他の客、店員が驚き、彼等に注目する。その中には『龍二に話しかけてこない連中』もまだ、いた。

「おいおい。他に客いるのが見えてねーのかよ。クソガキ」

 ここで、龍二はやっと表情を変えた。眉を顰め、鋭利な視線を正面の男に叩きつけ、吐き捨てる様にそう言った。

 その龍二の言葉に、ついに不良はブチ切れる。龍二の胸倉を掴む手により力が込められ――た所で、

「やめとけ。そいつに関わるな。お前達のためだ」

 龍二の胸倉を掴む手を横から掴む手。見ると、『龍二に話しかけてこない連中』の姿。五人だ。その全員が、また、龍二の目の前の連中と同じ様にいかにもな不良の格好をしている。そう。彼等は、神埼高校三年の不良共である。

「あぁ!? じゃますんじゃねーよ!」

 自分から突っかかっていったくせに良い立場だな、と思う龍二を他所に、話しは進められる。

「こいつだけはやめとけっつってんだよ」

「首突っ込むんじゃねーぞ三年が!」

 二年の盛った勢いは止まりそうにない。が、三年連中はそこで怒鳴り返すのではなく、ただ、彼等を哀れむ様な目で見て、一人が、静かに、二年連中に吐き出した。

「お前が胸倉掴んでるそいつが『ウチの頭』だぞ?」

 そう言った途端、二年連中の表情が強張って動かなくなった。戦慄した。まさに、そうだった。

 二年の手は自然と龍二から離れる。まだ、その話の信憑性を疑っている者もいて、「こんな貧弱な奴がお前等まとめたわけねぇだろ!」等の暴言を吐き出しているが、グループとしての士気が下がった今、五人全員が纏まっている三年連中を前に、怯んでしまう。

 チッ、そう、二年連中は忌々しげに吐き出し、鋭利な一瞥を龍二にくれたかと思うと、そそくさと自分達の席に戻っていき、伝票を取ってレジへと向かった。その間、三年連中がずっと睨みを利かせていたからか、二年連中が龍二達に振り向く事はなかった。

 そして、その二年連中が出て行った事を確認すると、三年の連中は何もなかったかの如く、龍二に話しかけることもなく、そのまま自分達の席に戻って行ったのだった。


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