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4.we cry down.―18

 春風は龍二の役に立ちたい。そして何より龍二を守りたい。そして、この件を理解している責任を感じて、そう思っていた。故に春風は止まらない。誰に何と言われようが、誰が止めようとしてこようが、絶対に春風は止まらない。

 春風が地を蹴って、宮古に飛びついた。前しか見ていなかった宮古は春風の矮躯を受け止められない。そのまま、二人は重なって前に勢い良く倒れた。

 そんな二人の一メートル程先の地面が、穿たれた。穿たれたと気づいてから、再び銃弾が空気の膜を破る音が炸裂した。流石に二発も響かせば、近隣住民も気づくだろう。そして、礼二達もその音をハッキリと認識し始めた。

「おい! 戻れ!」

 龍二が肩を抑えたまま、姿勢を低く立ち上がった。そして、駆け出した。

「い、今のって銃声って奴じゃ……」

 龍二達の修羅場を見ていた前原が絶望した表情で呟く。

「ンナわけあるか! ここ日本だぞ!」

 飯島が叫ぶ。彼は本能的に結城を抱き寄せていた。これならば、比較的冷静でいれる彼ならば、結城の心配はいらないだろう。

「…………、」

 日和は黙っている。だが、礼二は違った。

「龍二!」

 すぐに立ち上がってしまう。だが、それを、『日和』が制した。

「礼二。しゃがんでなさい」

「へ……?」

 三発目の銃声が轟いた。龍二のすぐ後ろにヒットし、土が跳ねた。まだ、近隣住民は出てきていないようだったが、いつ出てくるかは分からない。

 龍二は駆けるが、その足取りは重い。非常に重い。速度は感じられなかった。その間に春風が無理矢理に宮古を立ち上がらせて、引っ張って暗闇に戻そうとする。が、宮古はどうしても譲らない。

「龍二!」

「いいから戻れ!」

 狙いは宮古だ、と龍二は当然気づいている。だが、言えやしない。相手が一般人云々を気にしないとしても、龍二達が気にしないわけにはいかない。もどかしさと焦燥が龍二を支配していた。自身の事等気にせず、とにかく宮古の安全を確保してもらいたいと思った。

「春風ぇえええええええええええええええええええああああああああああああああああああ!!」

 龍二が叫ぶと、春風も努力するしかなかった。春風は有無を言わせず、とにかく力任せに宮古を引っ張った。最早意識が龍二にしか行ってない宮古を引きずるのは容易かった。意識が他に行っている人間を制するのは容易い。

 春風が宮古を引きずる間、当然龍二も進む。互いの速度は似たようなモノだった。

 広場は広い。暗闇までの距離はそれなりにあった。敵は最早一般人云々を無視しているのか、まだ、銃弾は飛んできていた。が、銃弾がやまない事を考慮して動いていた春風と龍二の動きは、相手を錯乱できたか、銃弾が当る事はなかった。

 春風、宮古、そして龍二と暗闇の中に飛び込む。と、連続していた銃弾がピタリと止んだ。夜中に襲撃をかけてきたというのに、暗視スコープ系の道具は持ってきていないのだろう。相手は一体何を考えているのか、と龍二は思った。

「龍二!? 大丈夫!?」

 春風の手から離れた宮古がすぐに龍二に寄り添う。この宮古の焦り方を見て、龍二は上体を起こしながら、思った。宮古は何か、知っているな、と。

 ともかく、攻撃がやんでよかった。と龍二は一安心したが、すぐに気を引き締めなおす。

「悪い。事情とかは後で話すからお前ら一回、俺ン家に戻れ」

 龍二が苦渋を噛み締めながら、震える声で言う。と、「わかった」と日和が真っ先に返事をした。春風も当然頷く。この、強い二人の女性と、比較的冷静でいてくれた飯島の先導があって、龍二以外は即座に動き、龍二宅へと戻る事となった。宮古がどうしても龍二の側に寄り添おうとするが、龍二が諭す事でなんとか戻る事となった。

 その宮古について、龍二は考えた。宮古が何かを知っている、と感じた。その自分のセンスは恐らく間違いない、と龍二は思う。そして、今、諭されて引き返した姿を見て、もしかしたら自分がターゲットになっているという事も把握しているのでは、と思った。

(礼には帰ったらイロイロ問い詰めなきゃならねぇな! っと、その前に)

 龍二はすぐに移動して、木の陰に身を隠す。そこからこの公園に入ってきた時に見かけたベンチに座るカップルが見えた。彼らは連続した轟音に驚いてはいるようだが、止んだ今、何事もなかったかの如く二人で話していた。会話は聞こえないが、予想は付く。

 龍二は携帯を取り出して春風に「全員家から出すな」というメールを送ろうとした。だが、出来なかった。左手は、動かなかった。その事実に直面してから、龍二は激痛を感じた。そうだった。考えが甘かった。高速弾を受けたのだ。サイレンサーを意味しない程の弾丸を受けてしまったのだ。距離云々ではない。そもそも、そんじょそこらのスナイパーのスナイプ可能な距離は高が知れている。

 龍二の左肩は、上半分を吹き飛ばされていた。どうにかして、腕と動体がつながっている、という状態だった。その余りの悲惨さに龍二は思わず目を逸らした。気づくと、痛みが増すようだった。左腕は全然動かない。そもそも感覚の一つもなかった。摩擦熱で血管が塞がれたか、出血は然程酷くはないが、そこら中に血が撒き散らされたのは間違いない。くまなく探せば骨片も見つかるだろう。それ程のダメージが龍二に与えられていたのだ。カメレオンとの戦いの時の腹部へのあの一撃の様に、直接命に関わる傷ではなかったが、痛みはあの時の倍以上だと龍二は感じていた。

 片手しか使えない状態で、片手を携帯で塞ぐのはマズイ。龍二は春風が上手く動いてくれる事を信じて辺りを確認した。すると、やはりあのカップルの姿が目に入った。

 彼らのような、無関心な人間は都会には多い。そんじょそこらに変人がいる。見慣れていた。故に、異常を気にしない者も多くいる。が、逆もまた然り。単純に人口が多いのだ。この状況を無視する者も入れば、こんな状況でなくても、些細な事でもすぐに騒ぎ立てる者も存在する。つい先ほどまで龍二達が花火をして騒いでいたのだ。声が近所に響いていたとは思わないが、もしかすると聞こえていて、龍二達が何かをしでかしたのかもしれない、と警察に通報した人間もいるかもしれない。

(近い警察署の位置から考えて十分程か。俺はそれまでにこの場からお暇させてもらうとして……、協会は、この状況に収集つけられるってのかねぇ……。いや、それもだが……、流石に今回の敵、協会も許しやしないだろう)

 龍二は三分程、その場に息を顰めて辺りを確認した。カップル連中が龍二に目をやらなかった所を見ると、龍二の身は上手く隠せているようである。

 敵が攻撃をしてくるかとも思ったが、あれだけ騒いだ後だ。杞憂だったようだ。それを確認すると、警察が到着する前に、公園を出る。

「あぁ、くっそ……。超いてーわ。意識飛びそうだっての」

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