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4.we cry down.―16


 春風達は店内を見て回る。日和と宮古は思い出話に華を咲かせていた。別のクラスであまり関わりがなかったとはいえ、同じ学校で同学年。記憶の重なる部分も多くあり、話しが詰まる事はなかった。

 暫くして、春風と結城は買い物をしたようで、シオンとミクも集まって全員が日和達の下へと戻ってきた。

 そこで、ふと思い立って春風が提案する。

「そうだ。よかったら宮古さんもウチに来なよ。楽しいよー」

「え、いいの?」

 日和から昨日の話しを聞いていたか、話しはすんなりと通った。

「むしろ来て欲しいよ。男子共もきっと喜ぶよ」

 日和がからかう様に言うと、宮古はちょっと待ってて! とレジカウンターまで小走りで向かっていき、霧男と話し始めた。許可をもらいに行ったのだろう。ほんの数秒の後、宮古は小走りで戻ってきて、グッと演技めいたサムズアップを見せた。「行く行く!」





「おぉおおおおおおおおおおおおお! おぉおお!?」

 宮古を連れて戻った女性陣を迎えた平はそんな間抜けな声を漏らした。歓声だろうか。

 平のそんな声を聞いて不思議に思ったのか、リビングから前原も身を乗り出してきた。すぐに目を丸くした。「おぉ、来たんだ」

「おじゃましまっす!」

 女性陣は多くの手荷物を持っていて、平と前原はすぐに彼女らの手荷物を受け取ってリビングへと運んだ。

 リビングには、ソファーでくつろいで夕方のニュースをぼうっと見ている礼二の姿しかなかった。

「龍二は?」

 春風が問うと、平が答えた。

「二階で飯島とゲームしてるよ」

「そう、じゃあとりあえず晩御飯の準備しようかな」

 春風がそう言うと、ミク以外の女性陣は手伝いをする事に。ミクもしたがっていたが、龍二の家が広いといえど五人も入ればキッチンは狭くなる、という事でシオンにミクを見てもらう事となって、春風、日和、結城、宮古の四人で晩御飯を作るという事になった。

 気づけば夕方だった。長い夏休みといえど時間の流れが変わる訳ではない。三年となり、今まで畏怖してきた夏休みの宿題、という概念がほとんど消え去っているからこそこうやってゆっくりと出来るが、この夏休みは卒業までの、最後の猶予と言っても良い。夏休みが終われば、龍二や春風、シオンにミクはともかく、普通の学生は先の事を決めなければならない。とっくに決めている者もいる。

 二階では、龍二と飯島がゲームをしていた。前に日和と二人でしていた、主人公達が銃等の武器で襲い来る化物達を倒して進んで行くホラーゲームだ。

 ゲームをしながら、飯島と龍二は雑談をしていた。

「でさぁ。お前将来どうすんのよ? つーか大学行くのか?」

 飯島が聞く。

「今の所行くつもりはないかな。就職する」

「マジで?」

「大マジ。ツテがあるから就活の必要もなし」

「おぉ、いいなぁ」

 龍二は当然嘘を付いている。就職する気はないし、仕事ならとっくにしている。それに、一生遊んでくらせるだけの資産を持っている。最近は数多くの襲撃や攻撃により、殺し屋稼業を再会しようかとも悩んではいるが、それ以前の問題であった。龍二は、先の事を考える必要がない。

「で、お前はどうすんだ?」

「俺は音楽系の専門学校行くつもり。ほら、歌手になるのが夢だしさ」

「そうなのか、知らなかった」

「マジで? 学祭でもバンド演奏したりしたんだけど、去年」

「気づかなかったわ」

「酷いな、オイ」

 そんな適当な、在り来たりな会話が過ぎて、暫くすると龍二の部屋をノックする音が聞こえた。「はい」と龍二が適当な返事を返すと、扉が開いて宮古が入ってきた。

「来たのか」

「うん。今日はお世話になるねー」

「いらっしゃい」

「あは、おじゃまします」

 飯島の突然の歓迎の挨拶にも笑って答える宮古。こりゃモテるな、とどこぞの誰かが飯島に思った事と全く同じ事を飯島は思った。

「そろそろ御飯だから降りてきてって桃ちゃんが」

「おう、わかった」

 宮古は言うと、ウィンクを飛ばして部屋から出て行った。龍二達はゲームを終了させて、二人でリビングへと向かう。その道中、階段を下りている時、飯島が不意に聞いた。

「お前なんであんな美人と付き合えたんだよ」

「さぁなぁ。俺にもわからん」




 テーブルには五人までしか座れないため、ソファーや床まで使った豪快な食卓がリビングに出来上がっていた。床にはテーブルクロスのようなモノが敷かれ、その上に料理が並べられている。龍二はそんな光景を見て室内ピクニックだなと呟いた。

 テーブルに前原、飯島、結城、シオンとミクが付き、その他のメンバーは床のシートに並んで座って食事が始まった。テレビは延々と適当な番組を流している。今流れているのはよく名前を聞く音楽番組だった。特に視線をやっている者はいなかったが、BGMの役割を担っているテレビは消されはしなかった。

「桃ちゃんってさ、最初礼二にスカートの中覗かれた事件があったよな。そういえば」

 平が不意に話しを振ると、礼二が咳き込んだ。思い出したくない過去だったのだろう。すぐに顔を真っ赤にして「お前なぁ!」と叫ぶ。

 あれが実は殺しの世界が関係した事件だったとは龍二達以外誰も気づくまい。龍二もその冗談に話しを合わせる。

「あん時どうだったんだよ、春風。礼二に対してどう思った?」

 問うと、

「殺してやろうかと思った」

「怖い! 目が座ってるよ桃ちゃん!?」

 春風は恐ろしい程鋭い視線を礼二へと向けて、ボソリと呟く様に言った。礼二はもう大慌てで謝り倒した。本当に殺そうとしたしな、と龍二は心中で呟くのだった。

「そんな事件があったんだ。礼二君は警戒しとかないと! すぐにおっぱい揉まれそうだ」

「ちょ、宮古ちゃん!? 俺そんな事しねぇよ!?」

「だってお前ロリコンだしな。そりゃ礼みてぇな大人びたのは揉まないわな」

「そうじゃねぇだろ! 龍二!」

 笑いが起こる。そんな礼二いじりが暫く続いて、晩御飯が残り少しとなった頃、不意に平が聞いた。

「こういう事聞くのってマナー違反かもしれないけどさ、どうして宮古さんは龍二と別れたんだ?」

 春風がそれ聞くの? と言った具合に目を見開いて平を見たが、そんな事は気にしないのか、宮古はあははと笑って答えた。

「昔の事だしね。別に今更聞かれてもいうくらい何って事ないよ。ね、龍二?」

 と、宮古が龍二に同意を求めると、龍二はそうだな、と適当に答えた。春風の視線は表情そのまま龍二に移るが、龍二は何か? と言った具合に表情を変えなかった。そんな春風の心境は他所に、宮古が答える。

「まぁ、何。若気の至りってやつだよん。別れた理由はね。当然、付き合った時はそれなりの龍二に惚れる理由ってのがあったんだけど、いざ付き合うとね。そりゃイロイロあるし。若かったし。若さを言い訳にするわけじゃないけどさ」

「その龍二に惚れる理由ってのが聞きたいかも!」

 日和が意気揚々と聞いた。テーブルで食事をしている連中も聞き耳を立てているのがわかった。

「ん、っていうか俺も心当たりねぇな。それ」

 どうやら龍二自身もその事については聞きたい様子だ。

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