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4.we cry down.―11

「そうだろうな。今思えば言いふらしさえしなかったし、付き合ったからって舞い上がる事もなかったわ」

 そう言う龍二に寄りかかる春風は眉を顰めて何か考えているようだった。が、そんな事も露知らず、龍二は何杯目か分からないコーラを干してすぐ隣に顔がある春風の顔の前でグラスを揺らしておかわりの要求。春風はそれを確認すると「ん」と頷いて龍二によりかかったまま手を伸ばし、コーラの入ったペットボトルを取り、龍二の持つグラスに注いでやる。ありがとなと龍二は礼を言って喉を鳴らす。少し、炭酸が抜けてきている様に思えた。

「なんだろうな」グラスをマジマジと見ながら、「コーラって世界一美味い飲み物だと思うけど、炭酸が抜けると世界一まずくなるわ」

「あ、それ分かるかも」

 日和が便乗する。ちなみに、彼女の目の前に置かれているのは空いた缶のアルコールだ。それを手に取り、残り僅かだった液体を飲み干すと、

「元々美味しいモノでも、炭酸がなくなるだけで美味しくなくなるのよ!」

 と、わけのわからない事を大音声で吐き出した。やはり、彼女もまた、酔っ払っていた。

 龍二は日和が酔っている事に気付いてふと時計に目をやった。気づけば日付が変わっていた。もうこんな時間か、と思ったが、周りがまだ元気な状態である事を確認すると、それを口に出す事は出来なかった。せっかくの、最後の、夏休みだ。今日くらいはこういう事も良いかもしれない、と思った。

 そして、気づく。

(そういや今俺の部屋で結城ちゃんが寝てんのか……シオンとミクは自室、礼二と平はソファーを占拠してるし、俺はいいとして、春風も自室がある。が、前原どこに寝かせるかね……。飯島は俺の部屋に突っ込めばいいだろうし)

 と考えて龍二は前原を見る。アルコール片手にまだ起きている皆と楽しそうに喋っている彼を見て、龍二は思った。まぁ、こいつなら庭にでも放り出しておけばいいか。と。




    38




 日が顔を出すまでにはまだまだ時間があった。だが気づけば、それぞれの会話は減ってきていた。眠いのか、話し飽きたのかはわからないが、それぞれがそれぞれの事をし始めていた。春風は散らかった卓上を片付け、キッチンで皿洗いをしている。その横で日和が手伝っている。飯島はソファーで先に沈黙していた礼二と平の上に座り、深夜番組のローカルな番組を一人見ている。前原は玄関前の廊下で寝ていた。そして、龍二は一人庭にいた。

 飯島と日和には寝る場所の指示もしてある。春風に日和を部屋で寝かせてやれという事も伝えてある。もう放置していても問題はない、と龍二は一人外の空気を吸いに外に出ていた。

 外に出るとついつい狙撃の心配をしてしまうが、それはあくまで杞憂だ。ここ近辺の高い建物で、龍二の家の庭を狙える位置にあるモノはない。

「ふぅ。たまには悪くないな」

 呟いて、携帯電話を取り出す。改めて時刻を確認すると、深夜二時前になっていると気付いた。

 龍二も殺し屋業をやっていた頃は、睡眠をそれなりにコントロールしていたが、今は違う。この時間になると僅かだが眠気を覚えてしまう。そして、大きな欠伸。

 ふあああああ、と間抜けな声を漏らしていた所に、

「お疲れ様」

 と、聞きなれた声。龍二が見上げると、その龍二の顔を覗き込む春風と目があった。

 彼女は龍二の隣に腰を落ち着かせると、水の入ったグラスを差し出した。龍二は受け取り、一口飲む。夏らしい冷えた水が喉を通って胃を冷やした。

「水もうめーな」

「ふふ。コーラばっかり飲んでたのにね」

「コーラは美味いぞ? 最高だ」

「そうだね」

 ふぅ、と溜息。あんなやりとりがあって、少しだけ恥ずかしさを覚えるが、やはり春風が隣にいると『落ち着く』龍二だった。

「で、聞きたいんだが」

「何? 私が龍二の事本当に好きかって事? 本当に本当だよ?」

 突然の、三度目の告白に龍二は思わず怯むが、違う、と言って、「灯台下暗しの件」

「あぁ、それね。まだ」

 春風はすんなり言った。「こんなに業界外の人がいるとね。明日皆帰ってから話しを進めるよん」

 そう言う春風も少しまた酔っているようだった。白い肌が朱色に染まっているのが後方から差し込むリビングの光に微かに照らされていて、わかった。

 夏の夜は寒いが心地よい。半袖で外にいても寒さを感じない寒さで、春の陽気とはまた違う不快感のなさが感じられた。

「それよりさ」と春風が話し出す。龍二は視線をやる。

「ナンバー潰したんでしょ? これでシオン達も改めて仲間になったでしょ? で、どうしたいの。龍二は?」

「どうしたい?」

 龍二は眉を顰めた。

「そう、どうしたいのかって。だって私に最初に命じた遺品の件も二の次でいいようないい方するじゃん。最近。結局龍二は何を目的に動いているのかなーって思ってさ」

 言って、春風は微笑んだ。その微笑みが妙に色っぽくて、心臓がついつい高鳴ってしまって、龍二は視線を正面の斜め上に戻した。夜闇の中輝く星と月が綺麗だった。

「特に何かあるわけじゃねぇよ。前言ってた……なんだ、神代勢力だったか? そんなのを作り上げるつもりもないし、遺品の事もいつかわかれば、程度にしか思ってない。俺は殺しの世界から離れたいってのがあるからな。当然、離れる事が出来ないのもわかってる。だから、出来るだけ距離を離したいんだ。でも、完全に離れる事は出来ない。でも、それでも周りを巻き込む事があるかもしれないってわかってても学校に行きたいから行く。こうやって友達とも遊ぶ。つまるところ、俺はわがままで、俺の原動力ってのは俺の興味関心でしかねぇんだ。だから、どうしたいって、俺がその時したい事をするまでなんだよ」

「……龍二らしいね」

 春風もまた、空を見上げていた。明日は快晴となるだろう。そんな予感がするくらいに星が綺麗に輝いていた。

「だから、お前みたいにいろいろと察して動いてくれるってのはすごい助かってんだ。だから……」一瞬の間を開けて、「ありがとうな」

 龍二は確かに彼女を見て、言った。僅かだが顎を引いて礼を言った。そんな龍二に、春風は思わず驚いた。龍二を見て、目を見開いて固まった。まさか、龍二の口からそんな言葉が聞けるなんて、と言いたげな表情だった。

 暫く、あ、え、とオドオドとした春風は数秒の後に落ち着きを取り戻して、

「いや、逆だよ、逆。私がお礼を言う立場であって……うん。ありがとうね。龍二。私にこうやって普通の生活をさせてくれて」

「お前こそ気にすんなって……、」

 龍二が普段通り、否定をしようとした時だった。


 開きかけの口が、薄い、甘い口で塞がれた。

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