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4.we cry down.―9


「え、何……? えっと。あれ、おめで、とう?」

 困惑した様子で結城が呟く。そのすぐ隣の飯島が「違うだろ」と返した。

「改めて、確認だけど」と日和が少しだけおどおどしながら言う。「桃ちゃんて龍二の事が好きなの?」

 龍二が「そんな話しはどうでもいいだろうが」と場をパーティの雰囲気に戻そうとしたが、無駄だった。春風は龍二の顔の横で頷いた。

「そうだよ。本当に好き」

 場が凍りついた。その冷え切った場をなんとか温めようとするのは龍二。

「な、なぁ。その件については今度俺と春風で話し合うから……、」

「いや、待て。龍二。今、俺達は新たなカップルの誕生の瞬間を見れるかもしれないんだ」

 前原が真剣な表情で言う。何言ってるんだお前は、という龍二の表情は無視された。

「で、……ごほん。龍二はどうなんだよ。それ聞かないと何も始まらないだろ」

 イケメンのイケメンらしい言葉が響いた。平が寝ていてよかったな、と前原は一人呟いていた。

 皆の視線が龍二と春風に突き刺さる。春風は意味深な笑顔でニコニコとしているが、龍二は眉を顰めて困ったような表情をしていた。一度すぐ隣の春風の顔を見て、視線を戻して、嘆息。

「内緒」

「いや、それはダメでしょ」

「それでも男か! 龍二ぃ!」

「そんな事言わせるわけにはいかないよね」

「引くわぁ」

「神代龍二。その選択はない」

「龍二酷い」

 春風、前原、結城、飯島、シオン、ミクと同時に声が重なった。その万丈一致のあまりの迫力に龍二は思わず気圧されてしまう。挙句、何故なのか今まで沈黙を保っていて、その存在すら忘れかけられていた礼二が口を開いた。

「龍二、お前。それはダメだ。言わないとダメだ。男としてダメだ。龍二、今、俺達はパーティの和気藹々よりもお前と桃ちゃんの関係の前進を求めている。分かるか? 龍二」

「何言ってんだお前」

 いやいや、と眉をしかめる龍二。が、その程度で逃れる事の出来る場ではなかった。

 龍二は一度辺りを見回す。見回して、嘆息。諦めた瞬間だった。

 考える。考えた。思い出した。思った。

 龍二は春風を引き抜いた事を後悔した事はない。引き抜いた理由はただ、彼の気分の問題だったが、今、ただの気分で春風と一緒にいる訳ではない。どうしているのか、龍二は分かっている。わかっていた。ただ、目的のためだけに協力させるためだけに、この家に置いているわけではないのは明瞭だった。そもそも武器の話しは二の次で良いと言っている。

 だから、龍二は、

「まぁ、……なんだ。俺は、春風が……、」

 そこまで言いかけた所で、タイミング悪く、

「酒が足りねぇええええええええあああああああああああああああああ!」

 平が目覚めてしまった。全員の集中が一瞬にして平へと向かう。ソファーの背もたれの向こう側に、顔を真っ赤に染めた寝ぼけ眼をなんとか見開こうとしている平の姿。ぐるりと上半身が動き、平の視線が皆のいる食卓の方へと向かう。が、その視線が捉えるのは食卓の上に並べられたアルコールの缶だった。

 それを察した春風が龍二によりかかったまま手を伸ばし、一つの缶を取って平へと放り投げてやると、平は酔っ払っているにもかかわらず華麗にそれを受け取り、ソファーに身を預けてプルタブを開けた。喉を鳴らし、アルコールを体に流し込む。

「吐くなよ。吐いたら全裸にして庭に放り出すからな」

 龍二が言うと、皆が笑った。場の雰囲気が急激に引き戻された。

 平が起きた、という事もあり、龍二と春風の関係の話しを振る事はできなくなっていた。それを皆が察した。龍二は安堵の溜息を吐き出し、春風と日和は少しだけむくれて目を細めた。

「吐かねぇーよーいだ」

 平の陽気な声がソファーの向こうから聞こえてきた。ひらひらと振られる手が伸びていた。




 日は完全に沈んだ。パーティと称した高校生の青春の宴は開始から四時間を経過させていた。この家が殺し屋の襲撃に備えて防音となっていた事が良かった。これだけ騒いでも物音一つ響かないのだ。近所迷惑を気にすることなく騒げるため、体力のある人間はまだまだこれからだと言わんばかりに意識を覚醒させていた。が、四時間だ。アルコールの入った人間はそう長く意識を保っていられない。押さなければ尚更だ。気づけば、平、礼二、ミク、そしてミクに付き添うシオンは既に眠りについていた。シオンの導きがあってミクとシオンは自室で寝たが、平と礼二はソファーで仲良くもつれ合って寝息を発てていた。

 そして起きているのは前原、飯島、結城、龍二と春風、日和となった。結城は少しばかり眠そうだが、飯島のイケメンな気遣いも断ったため、起きていた。龍二は飲みやしないが、他の者は全員アルコールを体に入れていた。日和も春風も白い肌を朱色に染めていて、色っぽく見えた。

「つーかさ。この家での料理とか、家事全般って全部春風ちゃんがしてんの?」

 飯島が春風が作ったお菓子を手に取り、珍しげに眺めながら言う。平は結局一つとして食べれやしなかった。彼が起きた時、まだ残っていれば食べることもできそうだが、今起きている連中がそれなりnスピードで口に運んでいるため、それはなさそうだった。

「そうだな。家事全般はしてもらってるな。気づかない内に」

 龍二がお菓子を咀嚼しながら言う。一度に大量に口を入れたからか、龍二の頬は縞栗鼠の様におかしく膨らんでいた。

「春風さんすごいんだねー。それで学業まで熟すんだから」

「そんなことないよ。私が好きでやってることだからね」

 好きでやっている。その言葉が謙遜だとは龍二は思わなかった。春風は殺し屋だ。今も昔も。それが故、こういう『普通の生活』の経験が少なかった。こうやって殺しの現場から離れて、普通を『装って』生活するのが、好きなのだろう。そう龍二は思った。

「完全に主婦じゃねーか!」

 酔っ払い前原が高い声で言った。そうだね、と日和が続く。

「つーか龍二ってどんな生活してんだよ。お前不思議だらけだわ。実際、お前がどんな生活してんのかと思ったこともあったからよ、この前原パーティに参加したんだが、……少女含む女の子三人と同棲してるし、挙句大して感心がるわけでもねぇみてぇだし。と思えば椎名ちゃんは窓から侵入してくるような仲だし。……なんだそのラブコメ!」

 飯島がベラベラと言う。彼もまた酔っ払っているのだろう。気づけば結城が彼の肩の上で眠りに落ちていた。龍二がそれを指摘し、自身の部屋を使っていいぞと案内する。

 飯島が結城と何かしらの行為に及ぶのではないか、とも思ったのだが、飯島は結城を龍二のベッドにおいてくると、すぐに戻ってきた。まだまだ楽しみたいのだろう。


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