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4.we cry down.―4


「何言ってんだ」

 笑う明治に笑って返した浩二。浩二も殺し屋としては長い。互いに面識があってもおかしくはない。そう、互いに何かがあってもおかしくはないだろう。

 浩二の警戒は解けた。目に見て分かる程に解けた。すると、明治もやっと安心出来たようで、大きな溜息を吐き出したのだった。

 そして、

「まぁ、なんだ。殺さないでくれて助かったよ」

 そう吐き出して、明治は再度闇に溶ける様にしてその姿を消したのだった。

 浩二にはまだ、彼の位置が把握出来ていた。闇にとけようが、彼の索敵センスがあればある程度までは居場所を把握したままで入れる。が、浩二は追わないし銃弾を追従させる気もなかった。やはり、殺す気はなかったのだった。

 浩二は気配を察する。そうして辺りに誰もいない事を確認して、装備をしまった。

(killer cell計画ってのは一部の人間で動かされてるって事だよな。……嫌な予感がする)

 嫌な予感が、した。

 浩二はkiller cell計画の主本、クローンを始末する為に動いていた時期があった。ついこの前までがそうだった。そこで、ミクを保護し、自身のクローンと思われる青年を殺した。これで、終わったかと思っていたが、やはり、終わってはいないのだろう。





「龍二、龍二! ……くっそッ!! なんで電話でねぇんだよ!」

 闇夜の中で声を殺してそう叫び、携帯電話を耳から話して固いコンクリートの地面に叩きつけたのは礼二だった。

 嫌なモノを見た。どうにかするべきだった。だが、出来なかった。だから、龍二を頼るしかなかった。だが、龍二は応答しなかった。

 礼二は外装がボロ雑巾の様になった携帯をつまみ上げ、ポケットに突っ込んで走り出した。このまま自宅に押しかけるしかない、と。

 時間日付変わって夜中。辺りは静謐で、礼二の駆ける足音がやたら響いていた。荒れた呼吸音っも響く、が、この時間ほとんどの人間は寝ているだろうし、大した騒音にはなっていない様だ。

 礼二は見た。

 あの不良共が車に誰かを詰め込んだ姿を。誰か、いや、誰だかは分かっている。

 車が走り去る際、不良共の一人と目があった気がした。死にそうな、何かに怯えるような目だったと思った。何か、違和感を感じた。

 だが、そんな事を考えている場合ではない。

「くっそ! 早くしないとッ!!」

 礼二は体力を無視し、酸素も無視し、ただ全力で駆けた。

 十数分は走ったかもしれない。車を見た場所が悪かった。が、そこが問題なのではない。

 龍二の家の前に付いた礼二。呼吸を整えもせずに即座に玄関まで駆け上がり、インターフォンを連打する。

 ――と、甲高い声が聞こえてきた。

「こんな時間になんですか……って礼二君か。何よ」

 出てきたのは眉を顰めた春風だった。礼二を見るなり更に眉間に皺を寄せた。春風は玄関から出ると、腕を組んで礼二を睨む。こんな時間にインターフォンを連打するとは何事か、と。

「龍二はいないか!?」

「ッ!?」

 礼二のあまりの切羽詰まった迫力に春風は思わず身を引いた。

「ど、どうしたの?」

 礼二が何か急いでいる、と気付いた春風は真摯な態勢で受け止める。

「龍二は!?」

 礼二は本当に焦っていた。答えるよりもまずは龍二に会わなければ、という感情が先に出てしまっていた。そこに、春風のビンタが入る。バシン、と妙に心地よい音が静謐な辺りに響いた。「落ち着いて」

 そのビンタに落ち着きを引き戻されたか、礼二は驚きから目を丸く見開き、呼吸を深くした。

「あ、ご、ごめん……。って、でも急ぎなんだ!」

「近所迷惑だから中に入って」と、大音声を上げる礼二を春風は玄関の中に引き入れる。「で、どうしたのか話て。龍二は勝手にどっか行ったからいないし。多分今日は帰ってこない」

「ッ……」

 龍二がいない、と聞いて礼二は絶望したか。一瞬怯んで言葉を失った。が、すぐに話すべきだ、と気付いたのかボソボソと喋りだす。礼二は春風が殺し屋だとは知らない。故に、春風にこれを話してどうなるのか、と思うが故、その喋り方になってしまっているのだろう。

「あ、俺、見ちまったんだ。前原達と遊んだ帰りで……、偶然、あの不良共が、日和を……、」

 礼二はなんとか、全て、見た事全てを吐き出した。

「……本当?」

 春風は確認を取る。疑う訳ではない。礼二の切羽詰まった様子は分かっているし、この状況で嘘を付くとは思えない。だが、確認を取っておきたかった。

 頷く礼二。そして、確信する春風。

 春風はわかっていた。アトリエから装備が消えている事も、その消えた装備を持って龍二が父親と一緒にナンバーに襲撃をかけに行った事も。そして、この状況で動けるのは春風自身だけなのだ、と。

 本当に、本当に日和が連中に連れて行かれてしまったのであれば、今、動ける春風がどうにかしなければならない。今まで彼女を救ってきていた龍二は今、いない。

「そいつらが何処に行ったか分かる?」

 一度の深呼吸の後、春風は覚悟を決めた。




「何言ってんだよ? 休戦協定? アホか。そもそも戦っちゃいねぇよ。お前らが俺を襲撃する作戦を考えてて、俺がそれを阻止するために先に襲撃を駆けた、って状況。分かってんのか?」

 龍二は眉を顰め、ゼロを睨む。なんてアホな事を言うのだ、と。

 だが、ゼロは焦らない。ただ、静かに次の手を打つ。

「だが、神代龍二。お前にはそんな時間はないぞ」

 ないぞ、と決めつけた言葉に龍二は警戒を強めた。だが、龍二がそうしたのは無駄に終わる。龍二に時間がないのではない。

「どういう意味だ?」

 龍二が銃口を上げると、

「ワン、私の副官の策略のせいでお前の幼馴染に危機が迫っているというのだ」

「…………、」

 

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