4.we cry down.―1
有り得ない話だとは五人が五人思っていただろう。警察に駆け込むという案もでた。だが、無駄だとわかっていたし、礼二を拉致した際に警察に世話になっていた五人はどうしても足踏みしてしまっていた。
がだが事実。彼らが警察に駆け込んだ所で全ては無駄だった。警察程度の組織であれば協会の圧力で全てを闇に葬られてしまう。ナンバーが異常な事をしているとはいえ、協会は極力表の世界を巻き込まないように手を打つ。それだけは間違いない。
「そ、そうだ。そうだよな……。やるしかない」
弱気の倉科も覚悟を決めるしかなかった。そして彼は金属バッドを片手に表情を上げる。暗闇に身を顰め、建物の影に姿を隠した彼ら不良五人組が見上げたのは――、
36
ドサリ、と身体が龍二のすぐ目の前で落ちる。これで何人目だろうか。今更人を、殺し屋を殺す事に抵抗などあるはずがなかった。
龍二がはぁと嘆息して辺りを見回すと、そこら中に始末した殺し屋の死体が確認出来た。数は十数人。黒い装備に華を持たせるかのような真っ赤な血が目立つ。細い廊下は真っ白で、より鮮血が浮きだって目立っていた。一部では血溜まりまで出来ている。この光景が日本で見れるとは誰も思うまい。
「大暴れだな。親父もそれなりに動いてんだろうし……。こりゃ協会に宣戦布告したも同然だな」
これから大変だな、と後頭部を気だるそうに掻きながら龍二は吐き出した。
協会への宣戦布告。それもそうだ。協会所属の大規模組織であるナンバーを壊滅させようとしているのだ。ナンバーの支配する土地に潜入した痕跡を残さなかったとしても、誰もが神代家の仕業だと気づく。それ故、龍二達は証拠を残さない、という考えを捨てて今襲撃している。確実に、今まで神代家が死んだと思っていた連中にも浩二、龍二の存在は知れ渡るだろう。
これから大変だ、と溜息を付く龍二。だが、今はまず目の前の面倒を片付けなければならない。
ナンバーのアジトは巨大なビルだった。大都会の一部にある何処ぞの会社のビルの様で、ただ見ただけでは気づけないであろうビルだった。二○階建てで、その最上階にゼロがいると見積もれる。
「上まで長いな」
龍二は歩きながらそう呟いた。龍二が今いるのは一○階。まだ半分だ。それに階層が上がる程に敵の数は増えてきている。これから階段を上る速度は衰退する一方だろう。
と、考えている間にまた、奇襲。ほぼ一方通行とも言える細い廊下の曲がり角から三人の黒い影が飛び出してきた。たった今その角を曲がろうとしていた龍二とはぶつかりそうになるが、決してそんな事にはならない。
龍二は驚異の反射神経で飛び出てきたウチの一人の胸ぐらを下から掴み上げ、そのまま背負投げの様に龍二の後方へと投げる。そのまま巻き込む形で後続の二人を怯ませる。龍二に投げられた男は龍二から僅かに離れた位置に投げ飛ばされ、背中から廊下に落ちて一瞬怯む。その短い一瞬で、龍二は即座に振り返り、態勢を立て直し、接近戦のためのナイフを取り出す。が、龍二はその動きくらい予測をしている。一人、二人と手にしたナイフを叩き落とし、そのまま、龍二の一撃、二撃。何が起こったのかも分からない程の速度。龍二の手にはナイフが一つ。
吹き出した鮮血が龍二と真っ白な壁を汚す。その直後、二つの影がどさりと落ちる。無抵抗に重力に引かれるその様はまさに死を体現していた。
最早どれだけの数を屠ったか分からない。龍二は迎えくる敵を倒し、進むのみ。言ってしまえば単純作業だった。だが、気だるくはなかった。
龍二は今、『襲撃』しているのだ。ナンバーとライカンが自身を狙っている。ならば先に攻撃し、始末してやるぞ、と。
自身から仕掛けているのだ。自身から起こした行動が気だるさに繋がるはずはない。
シンと静まりかえったこのビルの中に龍二の足音が反響する。時折その足音をかき消す様にナンバーの部隊が龍二の足を止めようと足音を増やすが、すぐに消滅していた。
ナンバーの圧倒的人員数も、この狭いビルの中では無力だった。まさか自社ビル内で戦うとまでは想定していなかったのだろう。ビル自体は大きく、それなりの部屋数も誇っているが、廊下は数があるだけで幅がない。
一階から順に鮮血で赤に染められてゆくビル。
龍二は数十分掛けてやっと、二○階へと到達したのだった。
二○階はエレベーターの扉、そして階段への扉、そして、何処かの部屋へと通じる、明らかに他のモノとは違う豪華な装飾がなされた、今まで見てきた他のモノとは大きさも違う扉が一つ、あるだけだった。
龍二は一応に辺りを見渡すが、他には何も確認出来なかった。窓はないが、今までの道のりや感覚から廊下はビルの外側にあって、その豪華な扉の先には大きな部屋が一つあるのだろうな、と容易に想像出来た。
「ラスボス前って感じでいいねぇ。道のりも悪くねぇ」
龍二は呟いてナイフを構え直し、空いた手に拳銃を握る。
道中で放った銃弾は一発のみ。ほとんどの敵は刃と体術で打倒し、屠った。装備的余裕は十二分とはいわずとも十分にはあった。
――が、不安もまた、あった。
扉の先に広大なスペースがあり、そこにどうしても対処しきれない程敵がいて囲まれて銃を突きつけられてしまったら、という不安ではない。それではなく、装備的不安だった。今更な事情ではあるが、武器の整備が出来ていないのだ。そんな中、武器を酷使してきた。装備の寿命が磨り減っているのがわかった。
今までもそれなりに使用してきた。壊れる事はなかったが、このタイミングで壊れないとも言えない。
(無理だけはしない様にしないとな)
龍二は確認する様に片手に握ったナイフを握り直した。




