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1.open it.―5


 階段を下り、礼二、日和、春風に続く龍二。行きとは違い、春風という存在があるからか、廊下にたむろする連中の視線をそれなりに感じながら四人は教室へと戻った。僅かながら時間が経過しているからか、龍二達が出たその時よりも教室内に残っている生徒の数は減っているようだった。

 そのままの流れで春風も合わせた四人で龍二の席の周りに集まった。

 クラス連中の視線も一時は集まるが、慣れか、特別気にせずとも済んだ。

「桃ちゃん彼氏っているの?」

 落ち着くやいなや、日和がさっそく、と問うた。その質問に興味を示したのは礼二だけではない。教室内に残っていた野郎共の咽喉仏がゆっくりと動くのが分かる。それなりに可愛い分類に入る春風だ。恋人がいず、これから向かえるであろう夏休みを寂しく過ごす予定の野郎共には重要な情報だ。

「いないよ」

 そんな野郎共の期待に応えるように、春風は首を横に振ってそう言った。自然と静まり返っていた教室に、その答えは確実に浸透していた。

「モテそうなのにな。前の学校じゃあそれなりに楽しんでたり?」

 龍二がからかう様に言うが、春風は苦笑しながら「そんな事ないよ」と謙遜する。

「だったらデートに誘っても良いんだな!?」

 ガツリと食いつく礼二は日和の冷たい視線に気圧され、一瞬にして押し黙る。

「あはは、でも、引っ越してきたばかりで友達もいないから、夏休み暇になっちゃうんだよね。だから夏休みは誘ってくれてもいいよ」

 優しい笑みを浮かべながらそう礼二をフォローする春風。どうやらただ可愛いだけではないな、と秘かに思う龍二だった。

(確かにこりゃ、彼氏いないってのが不思議だわ)

 日和や礼二と柔らかな、御淑やかな笑顔で談笑する春風。やはり、どうとも思わない。先程見たあの光景は勘違いで、杞憂だったのでは、と思える程に。





 そのまま、放課後へ。だらだらと時は過ぎる。

 放課後になると、やはりか、春風の周りに人だかりが出来た。春風の席は中央後ろ。そして龍二の席は窓際の真ん中だ。龍二は人だかりの中に入らないものの、それでも近くにいはしたのだ。鬱陶しいな、と思いつつも龍二も一高校生、気にはなるので、席を立って人だかりの外に近づく。

 すぐ目の前に前原がいたが、あえて話しかけずに龍二はこの輪の中心で起きている質疑応答の嵐に耳を傾ける。

 どうやら、これからデートに、と誘うモノが多いようだ。そして誰が行くのか、と勝手に話しが進み、今は全員で歓迎会をしないか、という話しになっているようだ。

 そんな話を聞いて、歓迎会くらいはしたいよな、と思う龍二。

(夏休みの前原が言ってた俺ん家でやる騒ぐってのにも誘ってみるかね。盛り上がるだろうし。夏休み暇だって言ってたしな)

 と、そう思い、龍二は前原や他の生徒を払うように前へと進み、人だかりの中心へと出ようとした。

 が、その時だった。

 きゃあ、と可愛い悲鳴が聞こえたのは。

「何だ?」

 同時、丁度人だかりのど真ん中に顔を出せた龍二。見ると、真っ白だった顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに一歩下がり、スカートを抑える春風と、その足元で何故なのか、仰向けに寝転がっている礼二の姿が。

 その場は、一瞬にして静謐を得た。

「な、何だ。その斬新なスカートめくりみたいな行為は……」

 龍二もドン引きだった。思わず眉をひくつかせ、口角を吊り上げて苦笑して、礼二を見下ろす。

「いや、違うんだ! 龍二! 俺ァ誰かに押されて……!!」

 咄嗟にそう言い訳をする礼二だったが、時は既に遅い。あっという間に龍二以外のクラスの野郎共に囲まれ、袋叩きにされてしまうのだった。

 礼二の悲鳴が聞こえるが、誰も気に止める様子はなかった。

 その間に女子に連れて行かれる春風の小さな姿。

「全く、何してんだか」

 龍二の横で日和が呆れた様にそう呟き、去って行った。

 日和の後を追うわけではないが、龍二も今の礼二を助ける理由を持たないため、龍二も帰路に着くことにした。




    3




 帰路に着く龍二。学校を出て、朝来た道を辿る。まだ日は沈んではおらず、夏の暑さが全力で襲ってくる気だるい帰路となった。

 日和とは自宅が隣の幼馴染ではあるが、彼等が一緒に登下校する事は滅多にない。今は特別気にはなっていないようだが、やはり思春期ど真ん中の時期に、いろいろと面倒があったようで、その名残みたいなモノだ。一緒に帰るタイミングさえあれば、そうする、だけである。

「あ、そうだ」

 帰路に付いている途中で、龍二はふと思い出した。

「シャンプー買わないとだったな」

 一人暮らしの龍二は当然の如く、自身で身の回りのモノも揃えなければならない。ポケットからスマートフォンを取り出してメモ帳機能を開き、そこにメモしておいた必需品の確認をする。

「シャンプーにティッシュ。明日の弁当用の食材……」

 そうぶつぶつと呟きながら歩いているうちに、龍二は登下校路の途中にある、並木道が目立つ商店街とも取れる通りへと出た。店はここに集中していて、ここで買い物をすれば大体のモノは揃う。当然、龍二もここで必要なモノをそろえ、帰宅するのだ。

 買わなければならないモノを確認して、全てがスーパーマーケット一つで揃うな、と気付いた龍二は早速スーパーマーケットへと向かう。

 が、その時だった。

「ん?」

 遠くに、春風の姿を見つけた。

 春風の姿を見た、と言っても一瞬ちらりと見えただけだったのだが、龍二はやはり気にしてしまう。

(どうして、そっちに?)

 春風は引っ越してきたばかりの転校生だ。いろいろと見て周りたくなるのも分かる。だが、龍二の見た、春風の向かう先はこの町の裏側だ。商店街の建物と建物の間に走る湿っぽい路地裏。その先を行けば、丁度この時間辺りから動き始めるネオン街だ。

 春風は制服姿だ。龍二は流石に、スーパーマーケットに寄るよりも前に、彼女を止めてやらなければ、と思った。

「仕方ないな」

 そうして龍二は向かう。

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