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3.the new arrival and intruder.―20


 龍二の急な切り返しの質問に浩二は思わず目を丸くした。この話の流れでその質問を投げかけてくるのか、という表情である。が、浩二はすぐに取り繕って答えた。

 ――知らないぞ、と。

「は? いやいや、なんで知らないんだよ」

「なんでって連絡も取ってないからな」

 動揺する龍二とは対照的にあっけらかんとした態度の浩二。その口から嘘が漏れるとは思えず、その理由を探ろうとすると更に動揺してしまうのだった。

「本当に知らないんだ。死んだ事にする、って決まった時から極力目立たないように二人別れて身を隠したからな。少しでもボロを出さないように連絡も出来ないようにして、な。だから正直今、生きてるのか死んでるのかも分からないんだ」

 まぁ、死んでるとは思えないけどな。と付け加えて浩二は静かに、秘匿に笑んだ。恐ろしい程の信頼があるのだな、と龍二は感じ取った。夫婦として以前に、殺し屋のパートナーとして。

 殺し屋は一人で殺し屋ではない。実働役と後援役の二人一組、若しくはそれ以上で殺し屋だ。一人で行動するのは基本的に有り得ない。カメレオンのような特殊な例も存在するが、それは基本的にはあってはならない。殺しに専念する者は殺しの技術を磨く事に精を出し、武器開発の技術を磨く者はそちらに専念して、少しでも自身のスキルアップを目指し、自身の死ぬ確立を減らす。

「ふん、まぁいいや」

 龍二は素っ気なくそう言って、話題を戻す。

「で、仕掛けんの? 協会に?」

「当然。そう言ったつもりだが。だからこそお前に会いに来たってんだ」

 最初からそう言えよ、と思う龍二だったがそこは自制した。

「まぁ、マズはナンバーとライカンを片付けないとな。なぁに、心配するな。お前一人ならまだしも、俺達二人で組めばまず負ける事はない」

「なぁに言ってんだよ」

 ここにきてやっと、二人の間に親子としての光景が見えてきた。一年程会ってなかった二人だが、そんな期間は会ってしまえばなかった事にまでなるようだ。

 が、そんな光景に割って入る小さな影が一つ。

「あ、あの……」

 声に反応して龍二はアトリエの入口に視線を投げる。浩二はとっくの昔に存在には気付いていたようで、既に視線は入口へと釘付けにされていた。

 そこには、春風の姿。初めて見る『この家の持ち主』を前にして普段見られないモジモジとした姿が新鮮で可愛らしい。

「どうしたんだい?」

 浩二が優しく問う。と、春風は申し訳なさそうに、うつむきがちに言う。

「……武器の事、教えてもらえませんか?」

 これだった。春風の立場であればこれは聞きたいのは間違いないだろう。春風はずっと調べてきた。龍二が知らない場所でもずっと。だが、何一つとして情報が手に入らなかったのだ。killer cell計画の情報でさえ手に入れる事ができる知識のある彼女だが、それでも、だ。その答えを知っている人間が、目の前にいる。そろそろ答えをもらってもよいだろう。

 だが、浩二はニッと何か意味を含ませた笑みを表情に浮かべて、またこう答えた。知らないんだ、と。

 その分かりきった答えに春風は悲しそうに目を伏せる。あぁ、まだ知る事は出来ないのか、という残念そうな表情だった。

 だが、その悲しそうな彼女を見てか、それとも、最初からそのつもりだったのか、浩二は続けざまに優しさを投げる。

「だが、まぁ。ヒントをあげよう。龍二パパからのプレゼントだ」

 高らかに笑いながらそう言う浩二を龍二は「何言ってんだこのおっさん」という表情で眺めていたが、浩二は敢えて気づかない振りをして、そのまま春風にヒントをやる。

「灯台下暗し」

「灯台下暗し……?」

 春風は首を傾げる。

 ヒント、というからには浩二は答えを知っている。故に、このヒントは間違いなくその答えに繋がるモノだが、そのヒントが不可解で、春風には考える時間が必要そうだった。それは龍二も一緒で、龍二も眉を顰めてどういう意味だ、と考えていた。

「それと俺はまだ、姿をあまり公に晒したくないからな、この家には用がある時以外来ない。だから、家を頼んだよ、桃ちゃん」

 そう言った浩二は視線を僅かにずらして春風の後方にあるアトリエへの入口へと向けて、

「あと、シオンちゃんとミクちゃんもね」

 その言葉に引っ張られるかの如く、アトリエの入口で隠れて中の様子を伺っていたシオンとミクがおずおずと姿を現した。龍二はアトリエの中で気を抜いていたからか、二人の存在を察知する事は出来なかった。

 浩二は龍二とは対照的に索敵センスが高い。それも、殺しの世界の中で一番といっていい程のセンスを持っていた。気を抜いていようが、五感を封じられていようが、ある程度の気配ならば察知する事ができる。

 シオンとミクが挨拶をする。ミクの様子を見る限り、killer cell云々の話までは聞かれていないようだった。彼女くらいの年齢の女の子であればあの話を聞いていたら、何かしらの動揺があっても不思議ではない。

 挨拶が終わると、浩二は適当な愛想を振りまいてアトリエから、龍二宅から、神代家から去っていった。どこかの隠れ家にでも向かっていったのだろう。

 そこにいる、というだけで嵐のような存在だった浩二が去って、龍二達は四人、リビングにて日常を取り戻していた。

 相変わらずの光景である。春風が作ったごはんを食べている。片付けはシオンも手伝うが、料理は春風が一人でやると言って聞かないのだ。彼女なりの何かプライドのようなモノがあるのだろうか。

 ――灯台下暗し。浩二からもらったヒントを考えていた。言葉から察するに思ったよりも近くにその答えが存在する、という事なのだろう。これからは、身近な全ての存在にも注意を払って注視しなければならない。

(なんかやる気出てきたかも。一歩進んだだけでモチベーションも上がるかも)

 春風は自分で作ったごはんを食べながらもそう考えていた。

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