3.the new arrival and intruder.―18
しかし、轟いた『轟音』は消音器によって抑制されない確かな銃声。聞き慣れてはいるが、この状況ではどうにも浮立っている異質な銃声だった。
銃声の後も、龍二の視界が真っ暗になる事はなかった。
銃声が轟いたと同時か直前、龍二の目の前で僅かに火花が散った。それが、男の持つ銃から散ったモノだと気づくには龍二でも数秒を必要とした。何が起こったのか、彼には理解出来なかった。
カン、と余りに軽い音と共に、男の手から銃が飛び、僅かに離れた場所に落ちた光景を見て、龍二はやっと理解した。
――銃弾を放ったのは男ではない、と。
はっとして龍二が立ち上がった時既に、龍二のすぐ横に影があった。銃を構えた男の影だ。
龍二は自然と視線を動かそうとはしなかった。龍二の視線は手にしていた銃を弾かれてひるんでいた男を捉えて離さない。龍二は自然と感じていた。隣にいる突如として現れた男は、敵ではないのだ、と。
そんな謎の男から、龍二に声がかけられる。
「そんな貧弱な男に育てた覚えはないぞ。龍二」
その声で、龍二はやっと視線を隣の男へと移した。
龍二よりも一○センチ程身長の高い、ガタイの良い、『見慣れた』男がそこには立っていた。
驚愕した。龍二はその見慣れた男に助けられた事、そして、その男がこの場に存在している事に大層驚愕した。していた。目を見開き、間抜けに口を開く龍二はそうそう見れやしないだろう。
隣に立っている男、それは、
「親父……」
神代浩二。死んだはずの男。龍二の実の父親で、龍二に殺しの技術を叩き込んだいわば師である。
浩二は構えた銃の銃口を男へと向けたまま、少しずつ男へと近づきながら、話し出す。
「killer cellだ。知ってるだろ?」
「知ってるけど、それが何だってんだよ!?」
龍二は混乱していた。死んだはずの父親が存在していた事もそうだが、伝説とまで謳われた殺し屋だ、生きていた事よりも、ここにいた事の方が驚けた。だが、それだけじゃない。それよりも、その父親の口から出てきた『killer cell』という聞いた言葉。つい最近、春風から聞いた『ミクとの関係がある』言葉。何故、浩二からその言葉が出てくるのか。
大慌ての龍二を特別気にもせずに浩二が説明めいた口調で話し出す。
「killer cellってのはそのまんまの意味で『殺し屋の細胞』だ。簡単に言っちまえば、ある殺し屋の細胞を使われて作られたクローン。最強の殺し屋を作り出すために協会連中が躍起になって実験しまくってたそれがkiller cell」
浩二はそこまで言って、負けを認めたか膝を地に落とした男の帽子の鍔の下に銃身を潜らせて――銃身を跳ね上げた。すると男の顔を隠していた帽子は男の頭を離れて宙を舞い、風に乗って少し遠くまで飛んで地に落ちた。そうして見えてきた男の顔。『見覚えがある様に思えた』。
見えた男の顔に懐かしさを感じて龍二は眉を顰めてまじまじとして男の無表情を見る。見覚えはあるが、見た記憶のない顔だった。
「親父、何言ってるのか良く分からないんだが」
男の説明も含めて、と龍二は男の額に銃口を突きつける浩二の顔を見た。何も考えていなさそうな男とはまた違う無表情だった。
「簡単に説明するから良く聞けよ?」
おう、と龍二は間抜け面で頷く。
「俺とお母さんは『協会に細胞を提供した』。その細胞で作り出されたクローンが、このくそったれと、『ミク』。分かったか?」
「はぁッ!?」
冷静ではいられなかった。今までどんな局面に直面しても冷静に対処し、解決してきた龍二だったが、今回ばかりはそうもいられなかった。もしかしたら先ほどまでの殺される、という状況に陥ったあの時よりも冷静さを失っていたかもしれない。
ミクに何処か懐かしさを感じていたのも、まさか、と思うと頭がくらくらして吐き気までしそうだった。クローンだの、何だのと現実離れした事実が目の前にあると思うと目眩までしそうだった。
「わっけわかんねぇ……」
龍二は嘆息と共に吐き出し、気だるそうに後頭部を書きながら視線を斜め下に流した。落ち着きはすぐに取り戻した。だが、冷静になろうが考える事はしなかった。面倒だ、とまで思った。
強風が吹く。山頂という事もあってそれなりに強い身体を煽るような風だ。
「見ての通り、」浩二は嘆息の後に、「俺は自分のケツは自分で吹くように回ってる所だ」そして引き金は意図も容易く引かれたのだった。
34
「ハハッ、懐かしいなぁ!!」
龍二宅――神代家、アトリエにて。あちこち眺めながらくるくると回る様に視線を動かすおっさん、浩二。その光景を呆れたような目で見る龍二。龍二はデスクに腰掛けて浩二を見てため息を吐き出す。
「何はしゃいんでんだよ。アンタの作ったアトリエだろうが」
「まぁそう言うな。本当に久しぶりなんだから」
そう言いながら浩二は壁に綺麗に飾られる銃の一つを手に取り、それを眺めながら、
「ボロいな」
と素直な感想を吐き出した。
「どうしてボロいか分かるだろ?」
龍二は敢えて皮肉を込めて吐き出す、だが、
「分からないなぁ」
分かっているはずなのに。分かっていないはずがないのに、浩二は敢えて、ニヤニヤと笑いながらそう答えた。演技めいたその口調に龍二は思わず目尻を釣り上げて反応するが、すぐにその怒りは溜息へと返還されて空気へと溶けて消えた。




