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3.the new arrival and intruder.―16


「うん。気になるしわかったら教えてね」

 と、他人任せな日和。

「明日はこないのか?」

 本人が直接聞いた方が早いだろう、と龍二は問う。

 だが、

「明日は用事があるから夜までこれないからねー」

「そうか」

 ここ最近はずっと日和と龍二は一緒にいた。今更ではあるが、日和にだった友達もいる。むしろ今までこれだけ一緒にいたのが不思議なくらいだ。夏休み、最後の、夏休みだ。遊びに出ない理由もないだろう。

 日和はゲームを続ける。

 暫くの時間が自然と流れて、ただ日和の操作するゲームの画面を見続けていた龍二は気づけば眠りに落ちていた。




    33




 暇を持て余していた。日和は用事とやらで遊びに来ない。春風、シオン、ミクはアトリエから出てこない。そして龍二は自分から人に暇つぶしで連絡を取るようなタイプの人間ではなかった。

 龍二は一人、散歩していた。お年寄りの日課のような、ただ何の意味もない散歩だった。商店街を一通り見て回り、住宅街を抜け、学校を長め、また商店街へと戻り――、散歩は、意味を持ち出した。

(付けられてんな……)

 龍二は気付いた。帰りの道で商店街へと入った辺りだった。昼だった。主に買い物する主婦による人混みと、暇を持て余した学生諸君の人混みが作り出す喧騒の中に、僅かに浮きだった存在が一つ、感じ取れた。

 振り向かずとも分かる。何者かが、龍二の後をつけてきている。姿を巧妙に隠し、気配も出来るだけ消して。

 龍二は詮索技術があまり高い方ではないが、常に気を貼っている癖があった御蔭で、相手の一瞬の『ブレ』に気づく事が出来た。

(殺し屋……関係か?)

 恐らくはそうだろうが、確証は持てない。

 龍二の家の情報は割れている。このまま家までこのストーカーを連れて帰っても問題はないが、家にはシオンとミクがいる。相手側がどこの誰かも分かりはしないが、ナンバー関係だったら厄介な事になるだろう。

 何処までついてくるかは分からない。だが、ついてくるなら人気のない場所まで引き連れて、どう仕掛けてくるか試してみても良いだろう。

 誰もいない場所、広くて、多少の事では人がこないような場所、と考えて、龍二はある場所を思い出す。




「まだか……」

 龍二は、夏祭りのあの日、花火を見たあの山の山頂へときていた。ここなれば視界は開けているし、誰かが不意に来る不安もない。そう考えて来た。ここまで来れば、相手も堂々と姿を現し、襲撃してくるだろう。そう考えて来た。だが、

「…………、」

 相手は何を考えているのか、姿を現さない。近くにて、龍二の様子を伺っているようだった。

 相手もそれなりの力の持ち主なのか、龍二の索敵能力では正確な位置は掴めないが、多方の方向と距離は把握出来ていた。だが、動きは感じられないし、見えていない。――かれこれ、三十分程。

 龍二も我慢強く待っていたが、長く思えた。攻撃を仕掛ける為に相手の動きを待つのはまだマシだが、相手の攻撃を待つというのは苦手だな、と龍二は気付いた。

 龍二は今、頂上に存在する目立つ大木に背中を預けて座っている。視線は適当に遠くに流し、ただ静かにぼうっとしていた。当然気配に意識は集中しているが、気付いていない体を装っている事はやめた。ここまで連れてきたのだ。それに相手も龍二の事を把握した上でつけてきているはずだ。今更、アクスまでもないだろう。

 だとすれば、

「はぁ、」

 嘆息して、龍二は立ち上がる。そして、気配のある方向へと向き直って、言う。

「出てこいよ」

 守備のために待つのが苦手なら、攻撃のために待てば良い。攻撃のタイミング等、自身で決めてしまえば良い。今思えば、こうやって相手をここまで誘い出したのも、何もかも全て、龍二の判断きまぐれだった。

 龍二の挑発。相手からすれば、意味不明な展開だろう。龍二が自身に気づいているとしても、つい先程まで気付いていなかったとしても。どうしてこのタイミングで仕掛けたのか、どうしてこの場所まで来たのか、と。

 相手はきっと悩みはしていない。呼ばれたからには、出てしまえば良い。

 相手が出てきたのは一秒も経たずしてだった。――龍二の背に、存在。

「!?」

 龍二は確かに気配のある方向を向いて声を掛けたはずだった。そこから飛び出してくれば、正面から登場しなければおかしい。だが、気配は一瞬にして龍二の背後に移ったのだ。最初から、龍二の感じていた気配とは反対方向にいたのか、それとも龍二が声を掛けた瞬間にどうにかして背後に回ったのか。それは分からない。いや、違う。この恐ろしい程短い時間で、正面から背後まで回れるはずがない。どうにかして、気配を誤魔化していたのだろう。もしかしたら、龍二にストーキングを気づかせていたのかもしれない。

 おびき出されていたのは、龍二の方かもしれなかった。

 一瞬の出来事。武器を構える暇はなかった。それどころか、取り出す暇もない。龍二が振り向いたと同時、銃が視界の隅に写った。サイレンサー付きの何処にでもあるような拳銃。――ではない。見た事のない型だった。

 が、そんな事を考えている場合ではない。銃口は相手の右手に構えられていて、落とされている。先手で龍二の左足先でも打ち抜いて、動きを制し、そのまま押し倒し、殺すなり何なりをするつもりだろう。

 そうはさせない。判断と行動の速度がほんの一瞬遅れていたら、まさにその通りになっていた、だろうが、龍二は間に合わせる。

 左足を大きく回す様に引く。態勢を保ったままの状態でいられるような足の動き。そして、予想通り。龍二の左足のつま先があった位置を正確に穿つ銃弾。サイレンサーに抑制されたこもった銃声は龍二の動きの音でかき消された。跳ね上がった僅かな土を吹き飛ばすかの様に、龍二は動く。

 足を引いて相手に大して垂直に構えた龍二は足を引いたと同時に右の裏拳を相手の頬に叩き込む様に放つ。

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