3.the new arrival and intruder.―14
龍二はイマイチコーナーの把握をしていないようだったが、春風は度々ここに通っているようで、春風が先導してくれた事で二人はすぐにお菓子の材料コーナーへと到着した。店の奥の角で、一周回れば気づくが適当に歩いていると気づけないような場所だった。
「なんか少なくなってるなぁ」
コーナーが縮小されたらしく、春風はコーナー一面を見渡してそんな事を呟いた。
「何を作るつもりなんだ?」
「秘密」
「秘密、ねぇ」
そんな適当な会話が終わると、春風は龍二を無視してせっせと材料を選定し、籠に入れ始めた。何を作るのか分からないが、それなりの量を作るという事は見て分かるくらいに籠の中には材料が詰め込まれた。全て詰め込み終わり、その後適当な日用品も籠に入れ終わると、二人はそそくさと会計を済ませて外へと出た。
そしてシオン達と合流する。
シオン達もそれなりの買い物をしたようで、両手は荷物で塞がれていた。それを見て龍二は言う。
「荷物も多いし帰るか。昼飯はウチでもいいか?」
と、春風に視線で「作ってくれるか?」と合図。当然の如く春風は快諾。その後五人は歩いて帰り、龍二宅へと戻った。帰りまで敵の気配も、襲撃も全くなかった。決して気を抜いていなかったわけでもないが、それでも何もなかった。
シオンの依頼。私達をナンバーから守ってという依頼。龍二は気を引き締めて到来するであろう敵に対して構えていたが、そろそろ気が抜けてしまいそうだった。遅い、遅すぎる。
帰宅し、それぞれ荷物を片付けると春風の手料理による昼食が始まった。在り来りな光景がテーブルに広がるが、味はそう在り来たりではない。
食事を進めながら、不意に日和が言葉を漏らした。
「っていうかさ。こんだけ一緒にいて桃ちゃんって龍二の事好きにならないの?」
「何言ってんだいきなり」
突然の日和の発現にしかめっ面でツッコミを入れたのは龍二だった。彼は言った後に、だったらお前もそうだろ、と理屈を貼り付ける。
「まぁ、そうなるけどさ。私達は幼馴染だし」
幼馴染って言葉は便利だねぇ、という龍二の皮肉を無視して、で、どうなの? と日和は春風に意味深な視線を投げる。
春風は――困惑した。
何言ってんだいきなり、と龍二と同様に返してやりたいとも思った。それに、何故こんな話をするのか、理解が及ばなかった。
「ホント、いきなりどうしたの? 日和」
今や名前を呼び捨てで呼び合う仲。互いに話せる事は話す仲、である。だが、今のこればかりは理解できなかった。
「なんとなく。気になったから」
「っていうか、私は二人が夫婦にも見えてましたよ」
と、春風の困惑を知らないシオンが追撃を掛ける。巧みな追撃に驚愕した春風は思いっきり目を見開いて間抜けな表情でシオンを見る。シオンはシオンでその春風の驚きっぷりに驚いてまた間抜けな表情を晒すのだった。
「つーか俺も小っ恥ずかしくなるからこの話はやめろ!」
そこで話を中断させようとする龍二。つい先ほどの「惚れるぞ!」という真意不明の台詞が脳裏に張り付いて剥がれそうになく、もどかしさに支配されそうだった。
「まぁ、確かに本人のいる場所で聞くべきじゃなかったね」
と日和。何を考えているのか。見れば雰囲気は普段と変わらない。ただ、いつもの様に話題を提供した、といった感じである。
(何考えてんだよ……)
32
「killer cell計画?」
「うん。そう」
夜。シオンとミクが自室へと戻ったのを確認して、春風はリビングで龍二と二人きりになってそう切り出した。
ミクの情報を探している時に見つかったワードだというが、龍二にはさっぱりだった。それどころか、調べてたどり着いた春風もさっぱりの様子である。
「協会と関係があるのはわかったよ。それと、シオンがナンバーとして働いた、ミクを連れ出したあのミッションのオプションに、関係してるみたい」
「オプションって、ミクそのものだろ?」
「うん。つまり言えば、」
「ミクとそのkiller cell計画ってのが関係あるって?」
春風は頷く。が、これもまた推測の上の首肯だ。
そもそも二人は『killer cell計画』とやらが何か理解していない。調べて行くうちに偶然ぶつかったワードというだけなのだ。
「殺し屋の細胞……だよな。直訳で」
「そうだね」
「意味不明だな」
「そうだね」
だが、これがミクの情報へと繋がるならば……と、龍二は考えた。
「協会に関係があるって言ったよな」
「うん。そうだね。そのシオンの依頼の時のナンバーへの依頼主が協会だったんだって。そりゃ何か知ってると思うよね」
「……なるほど」




