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3.the new arrival and intruder.―11


 男は暗闇に完全に姿を溶かした後、その闇の中で静かに女殺し屋の姿を見守った。殺し屋には向いてないな、と心中で漏らす。女殺し屋は数秒の間、その場で何かを迷う様に立ち止まっていたが、暫くすると少女の手を引いて慎重に進みだした。

「さて、と。やる事が変わったな」

 女殺し屋が完全にいなくなった事を確認して、男は闇の中でそう呟いた。

 男の目標は今、女殺し屋が連れて行った少女だった。だが、男はその目標を女殺し屋に託した。と、なれば目標も当然変わる。

 まだ、殺し屋はいる。

「ナンバー……、だったかね。……邪魔するってなら容赦はしねぇからな。『過去の因縁もあるしな』」

 男はそう静かに漏らして、不敵に笑んだ。

 男は踵を返して振り返ると同時、二丁の拳銃を取り出して構えた。そして、堂々と闇の中を進みだす。無線を傍受《盗み聞き》しているわけではないが、ナンバーの殺し屋が裏切り者《女殺し屋》をみすみす見逃すとは思えなかった。と、なれば男の目標はその殺し屋共となる。

 男は闇の中をさくさくと進みながら気を配る。辺りには何も感じない。だが、僅かに離れた位置に『気配』。

 そう。男の持つ索敵センスは異常だった。まるで本当に見えているかの如く、ほぼ正確な位置を感じ取る事が出来た。それに、感じ取る事の出来る距離もまた異常。この巨大なビルの中であれば、ほぼ全員のそれを感じ取る事が出来る。挙句、外までその索敵は及ぶ。

 男は立ち止まり、闇に溶けて壁との境目を失った天井を見上げる。場所と数を全て掴んだ証拠だった。

「余裕」

 男は天井に向かってそう呟いて、更に進みだした。




    31




 夏休み二週目へと突入した。『アレ』から一週間程が経過して、シオンとミクも大分龍二宅に慣れてきていた。名前を把握した事もあってか、ミクも、龍二も、互いに対する警戒心を解き、それなりの会話を交わすようになっていた。

 そして龍二はミクの経歴が不明な事を知った。と、なると気になって仕方がないわがまま龍二は、春風に遺品よりもミクの経歴が優先だ、と指示を出す。春風も気になっていたのか、それとも龍二の指示だからか、素直に頷いて調査を開始した。

「あ、忘れてた」

 皆がリビングで朝食を取っていたその時、トーストにかじりついた龍二は不意にそんな事を呟いた。

 ちなみに、四人分の席しかなかったテーブルセットには席が一つ追加されている。来客や、日和用となっているようだ。現に今、その席には日和が座って牛乳をすすっていた。

「何を?」

 不思議そうに春風が首を傾げる。

「前原だ。前原」

「前原君が何?」

「今週末家に来るんだよ。あと平とか他にも数人」

「あぁ、前に言ってたパーティとやらだね」

 春風は聞いた話を思い出してそう返した。そして、今のこの家の現状を見る。日和がいるため、大声で言えた事ではないが、シオンとミクをどう説明するのか、と春風は龍二に意味深な視線を送ったが、龍二は特別気にしていないようで大丈夫だ、と視線を返した。

「春風も日和も参加するとして……、で、お前らどうするよ?」

 と、龍二はシオンとミクへと視線を配る。と、首を傾げるミク。ミクは話に突いてこれていないようで、すぐに隣のシオンを見上げて困ったような表情で助けを求めた。一方でシオンはある程度の話は理解していたようで、シオンに笑顔を見せてから龍二へと視線をやって、答える。

「お邪魔なら、アトリエに隠れていますよ?」

「いや、邪魔なわけないだろ。俺が気にしてるのは知らない相手とわいわいするのが大丈夫か、って所だ」

「え、あ、あぁ……」

 龍二の言葉を予想できていなかったようで、シオンは面くらって間抜けな声を漏らした。

(ほ、ほんとうに分からないな。神代龍二は)

 まさかシオンは自身が疎まれないとは思わなかった。龍二の心は太すぎやしないだろうか、と不安にまでなってきそうだった。

 シオンはミクを見て、問う。

「わいわいしたい?」

「うん」

「じゃあ参加させてもらおうかな」

「おーけー」

 と、朝食を再開する五人。

 今日もまだまだ夏休みだ。学生の夏休みは時間が有り余っている。それにこの場にいる学生三人は受験勉強詰め、というわけでもない。龍二と春風ならなおさらだ。

「今日の予定は?」

 日和が訊く。日和も龍二の家に来てはいるが、特別用事があるわけではないようだ。

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