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3.the new arrival and intruder.―9


 皆呆然とした。殺し屋として生きてきた、という事を知っているのは龍二だけだが、春風があまり『体験』をしてきていない事を皆知っている。が、まさか花火一つみた事なかったとは、と思ったに違いない。

 一瞬の間に微妙な雰囲気になる四人だったが、礼二が取り戻す。

「なら良かったじゃん。今日、今から見れるんだし。きっと感動するぞー」

 と。そんな気の効いた事をすんなり言えてしまうところが礼二のよさなのかもしれない。

 そうだな、と龍二は便乗して、立ち上がる。片手には食べ終わった焼きそばの入れ物と箸が持たれていた。見れば、皆それぞれがそれぞれの食事を終えていた。移動する時間だ。

 全員が立ち上がり、近くに設置されていたゴミ箱にそれらを捨てて、商店街を抜けようと歩き出す。まだ、人混みは捌けそうにになかった。花火大会へと向けて移動を開始している人も少なくはないが、それでもまだ、祭りの雰囲気を楽しむ人間は多かった。

 雑踏を抜けるのには時間を要した。これだけの人混みだ、仕方がないだろう。

 祭りの会場である商店街を抜けてもまだ、人混みは消えなかった。夏祭りの会場へと向けて進んでいる人間もまた多い。そのためだろう。そんな人混みに流される様にして進むと、僅かに開けたところへと出た。ここが、花火大会のための会場だ。普段は少し大きな公園だが、この日ばかりは草原の様に広く解放されてた。

 既に多くの人がいて、普段は野球やサッカーをする少年達がたむろする広場にはブルーシートを敷いて場所を確保する人々の姿が見て取れる。広場には座る場所がないくらいに人が群がっていた。通路はマナーとして確保されているが、そこに腰を落ち着かせるわけにはいかないだろう。一応、と見える範囲のベンチを探してみるが、どこもカップルやら何やらの人によって支配されている。

「立ち見でもいいから良い場所はねぇかね」

 龍二が年寄りの様に呟いた。辺りは喧騒に包まれているが、四人にはしっかりとその声は届いたようで、その龍二の言葉に日和が反応した。

「そうだ。あそこあるじゃん」

 抽象的な言葉に龍二は首を傾げて返した。

「あそこ?」

 すると日和は僅かに頬を膨らませて、

「もう! 覚えてないの? まだ一緒にこのお祭りに来てた時の話だけどさ……」

「あぁ。あそこか」

 日和に指摘され、龍二はその『あそこ』を思い出したらしい。日和の言葉を遮りそう思い出した様に言って、礼二と春風の方を向いて説明を始める。

「まだ小学生くらいの時の話なんだけどさ、俺と日和でこの花火大会に来た時、偶然一緒に来てた仲間達とはぐれちまって、二人で適当に移動してたんだけど、気づかない内に結構遠くまで出ちゃっててさ。そこで偶然、花火が良く見える場所を見つけたんだよな」

「それって何処なんだ?」

 礼二が首を傾げる。それには日和が答えた。

「近くに大きな山があるでしょ? 学校の近くのさ。あそこの上」

「そんな所まで迷い込んだのかよ」

 礼二は呆れたような言葉を呆れたような仕草と共に吐き出した。

 早速向かいますか、と龍二が合図した事で四人は歩き出す。祭りの縦の人混みからも、花火会場の広い人混みからも抜けて、一同住宅街へと出た。先ほどまで喧騒の中、祭りの中にいたせいか、住宅街へと出ると妙に静かになった気がした。とは言っても、祭りの影響で住宅街の道中も普段よりは人が多い。

「その山までどれくらいなの?」 

 春風は問う。春風もここら辺の地理には強くなったが、まだ、詳細には把握していなかった。

「歩いて十分ちょいくらいかな? 上に上るのにまたそれくらいかかるかもだけど」

 日和が答える。語尾に、小学生の時の記憶だから、今はもうちょっと早いかもだけど、と付け加えて。

「そうだな。あの山もそんなに高い山じゃねぇし、道もそれなりに整備されてたしな」

 龍二が語尾に今はわからないけど、と付け加えて日和の言葉に便乗した。

 そんな会話から普段の会話を流しながら歩いていると、予想よりも早く四人は山の麓までたどり着いた。やはり、幼い頃に見た、感じたモノとは違った。この山はそう大きくない。距離もそう遠くはなかった。だが、ここら辺の建物で一番大きな建物である神崎高校よりは当然の如く大きいため、頂上まで到達すれば打ち上げられた花火はさぞ綺麗に見えるだろう。

 四人は早速足を斜面へと進める。道中は雑草が酷かった。龍二の記憶では整備された道があった、という事だが、どうやら今はその整備は放置されているらしい。過去に見た木材で作られた階段も朽ち果てて大した足場にはなっていなかった。

 足場が不安定なため、無駄に体力を使う事になったが、幼少の時の体力とはわけが違う。四人はあっという間に頂上にまで上り付いた。

 頂上は、僅かに開けた場所だった。ベンチも何もないが、座って喋る事くらいは出来そうな場所だった。一本だけ大きな木が立っている。やけに目立つ木だが、何の木か分からない程、何処にでもありそうな木で雰囲気は場所に似合わず不気味だった。

 そんな不気味な木の下に四人は集まる。日和と春風は浴衣が汚れないように、と立ったままだが、龍二は気にせず腰を下ろした。礼二は二人に気を使ってか立ったままでいた。春風に座っていいと言われるが、断って立ったままだった。

「もう少し時間ありそうだな」

 一人腰を下ろしていた龍二がポケットから携帯を取り出し、時刻を確認してそう言った。後数分ではあるが、まだ、時間があった。

「喋ってればすぐだろ」

 礼二の言葉に日和が反応する。

「そうだねー。何か話題を」

「話題とか言われてすぐ出てくるモンかね」

 龍二のツッコミに春風がクスクスと笑った。当然の如く、龍二が不満げに「何がおかしいんだよ」とわざとらしく眉を顰めた。

「いや、なんかいいなーって」

「良い?」

「うん。良い」

 何がどう『良い』のか、龍二はそこまで聞きやしなかった。そこは察して、口角を僅かに釣り上げて僅かに笑んだ。

 龍二は思う。春風にはもっともっと、まだまだ、もっとイロイロな経験をしてやりたい、と。今や金銭的な面で、龍二は春風の保護者のようなモノである。立場は、家族と変わらない。今まで一般の同年代が経験してきた事を経験できないでいたのだ。龍二が経験させてやるのが、一緒に生活する義務だろうと龍二は思っていた。

 正直な気持ち、龍二は遺品の事は二の次に考えていた。武器の劣化を止められないのは問題だ。だが、それよりも、常人として生きる、という選択肢を捨てきれていない龍二は、春風に極当たり前、当然の体験をさせる事が重要だと思っていた。自分のわがままかもしれない、とは思っている。だが、出来る事ならば、殺し屋とではなく、一般人として生きたい。その気持ちは捨てようと思ってはいなかった。それどころか、大事に懐にしまったある。

「そうだね、何か、いいね」

 日和が春風に便乗してそう呟いた。

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