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3.the new arrival and intruder.―7


「ほう……。人手が足りないからな。助かった」

 ゼロは満足げに頷いた。と、いうのが、

「ライカンのメンバーが一人カメレオンに殺された件の話……、適当な嘘で神代家のせいにしてみましたが、まさかあんなに簡単に引っかかるとはね」

 クスクスと静かに笑いながら言うワン。

 この前、カメレオンが死ぬよりも前だ。龍二に襲撃を掛けたライカンの男がいた。その男は龍二に助けられ、ある話を持ちかけられたが、龍二殺害を企むカメレオンによって殺害された。その男が殺された情報がライカンへと回る前に、ワンが適当な情報操作をしてライカンの身内を殺された怒りを神代家に向けさせたのだ。これはシオンの一件があるよりも前からワンが企んでいた事であり、シオンの今回の一件もあった事で、ライカンとナンバーで協力し、シオンをかくまう龍二を始末する、という名目で神代家に攻めるという事になった。

「詳細は?」

「まだ。だが精鋭を寄越すと。場所も提供出来る分はすると言っています」

「やはり数で押すしかないのか」

 ワンは唸った。殺し屋として殺し屋――龍二を仕留める事になるのだが、相手が相手なだけに単純な兵量攻めでの作戦が立案されているのだ。当然、殺し屋として秘匿に、誰にも気づかれないように暗殺をするのが一番好ましいのだが、なにせ相手は一人で団体を一つ潰すような男だ。確実性を得るためにわざわざライカンとまで協力をして、数で押すという作戦に出ざるを得なかった。ナンバーはライカンよりも団員数を誇る殺し屋団体だ。当然全員を襲撃させる事はできないが、それでも数は多い。だが、ライカンと協力をするのだ。それ程念を押して、警戒しているという事だった。

「作戦はまた俺がライカンと話をしてきますよっと」

「頼んだ」

 ゼロの承諾を得たところで、ワンはケタケタと不気味に笑いながら踵を返し、背中越しにゼロに手を振ってこの無駄に広い会議室を出て行った。扉が自然と締まるが、その音は会議室にやけに響いていた。




    26




 喧騒が辺り一帯を支配していた。夜だというのに辺りがやたらと眩いのはここが夏祭りの会場だからである。普段は通学路として使う商店街もこの日ばかりは歩行者天国となり、露天が並び、年に一度の賑やかな雰囲気を生み出している。

「暑い……」

 うなだれる龍二の横には浴衣姿の春風と日和、そして龍二と変わらず私服の礼二がいた。シオンと少女は今は龍二宅で留守番中だ。

 年に一度のみのこの街での大きなイベントで、近隣の住民けでなく隣町からも多くの人間が訪れる。そのため、人混みがすごかった。夏の暑さにも冬の寒さにも弱い龍二には地獄のような場所だった。

 だが、春風に浴衣を着せる事が出来た事だけでも龍二は十分に満足していた。ピンク色の花柄の、どこにでもありそうで、誰かが着てそうなモノだが、とても似合っていると龍二は満足げに頷けた。

 が、不安もあった。

(またあの馬鹿不良共に絡まれなきゃいいけどな……)

 そうだ。日和も春風も、見てくれは良い。普通以上と誰もが言える程度には良い。そのため、彼女らを目的としたナンパ狙いの馬鹿が後を絶たない。そのため、龍二は警戒している……わけもなかった。龍二には彼女等を守るだけの力がある。来た者を追っ払う。龍二は相変わらずのそのスタンスで構えていた。

「いやー。それにしても春風さん可愛いね!」

「近寄らないでね。礼二君」

「…………、」

 と、そんなやりとりがありながら、四人は学生らしく界隈を突き進んで行く。露天もだが、この日はこの商店街に並ぶ店舗も活気を持つ。この夏祭りフェア、と大体のモノは適当な名がつけられ、押し売りされている。そのため、少し見上げて露天の向こうの店を見れば、その中で買い物をしたり、食事をしたりする人間とも目が合う事があった。どこを見ても誰かしらと目が合う。それほどの人混みが埋め尽くしていたのだ。

 これだけの人がいると、流石に知り合いとも会う。時折すれ違う同級生やら旧友やらと軽い挨拶を交わしながら商店街を進む四人。と、そこに、

「またか……」

 龍二は思わず頭を抱えた。なんと、この人混みの中、『あの不良共』とハチ合わせてしまったのだ。

 ギョッとする九人。お互いが気まずい中、龍二だけは呆れたような視線を不良共に突きつけていた。絡むな、素通りすれば何もしねぇからな、とその視線には意味が込められていた。

 周りの喧騒が聞こえなくなる程には気まずい雰囲気が九人の周りに流れた。一瞬だけだが、時が止まったような気までした。が、そんな一瞬はすぐに過ぎ去り、時は動き出す。

「で、でさー。あはは」

 そんな事を吐き出しながら、不良達は何事もなかったかの如く龍二達を無視して、そのまま彼らを素通りして龍二達が来た方向へと流れていった。行ってしまった。どうやら、龍二の視線の意味を理解してくれたらしい。

 不良共が過ぎ去った後、四人もまた先ほどまでのお祭りムードへと戻った。




「君たちはあの神代龍二の友人かい?」

 龍二の事をなんとか無視して商店街の入口にまでたどり着いた不良五人に声を掛ける男がいた。

「あ?」

 不良の一人が条件反射でそんなうめき声のような脅し文句を吐き出して振り返ると、そこには派手な金髪の男が立っていた。長い金髪で、いわゆるチャラ男のような雰囲気だった。だが、不良達に向けられた笑顔は何故なのか、恐ろしい表情にも見て取れる裏に何かを感じさせる表情で、不良達は思わず気圧されてしまった。不良達からすれば、この祭りだ、隣町等から力をはびこらせている不良が来たのか、という感じだろう。不良達はそれなりに悪い男として名が通っているが、素行が悪いだけで力があるわけではない。

 思わず、『ビビって』しまっていた。

「な、なんだよ?」

 不良の一人が勇気を振り絞り、強がった発言を吐く。だが、

「聞いてる事に答えてくれりゃあ、ただで済むんだけどなぁ」

 金髪の男のその脅しの混ざった一言に、不良達は完全に沈黙してしまった。最早、鋭い目すら失われただろう。不良達から見た金髪の男の笑顔は、鬼の表情の様に見えていた。

 こいつは何かヤバイ。不良達は言わずとも皆がそう思った。

「……友達なんかじゃねぇーよ」

 一人がおずおずと答える。声が僅かに震えていた。その機微な震えも、金髪の男は察知しているようで、付け込むようにして金髪は間髪いれずに再度問うた。

「で、どういう関係なの?」

 最早畏怖の対象にしかならなかった。作ったような笑顔のまま、何を訊くのかと問い返したくなるような質問を繰り返す目の前のその男は、五人を相手にしているというのに怯むようすもなく、ただただ、ひたすら質問を投げる。異常者を相手しているようだった。

「な、何って……あんたこそなんなんだよ!?」

 恐怖に耐えられなくなった不良の一人がついに大音声を上げた。

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