3.the new arrival and intruder.―1
シオンの今回の任務はこのフロアの社員(敵対する者)の排除と地下に降りて少女を運ぶ手伝いをする事である。とりあえず、シオンは移動だ。問題にならない社員に対してはむしろ身を隠して対応しろと言われている。社員の中でも地下で行われている事を知らないモノもいるだろう。その区別をする、というのは案外難しい事ではない。殺し屋が侵入している事に相手が気付いているなれば、それなりの装備をした相手が出てくるだろうから。
(はぁ……、身を隠すったって、どうしろっての……)
シオンが歩く廊下は明るい。その中に全身黒づくめの装備であるシオン。目立たないはずがない。そう考えると自身もダクトなりに潜入して行動した方がいいのかとも思ったが、ダクトの中からずっと建物内を監視できるわけでもない。シオンは人間が出てこない事を祈って歩き続けた。
しばらく歩くが誰とも会う事なく、シオンは階段の前へと到達した。すぐ横にはエレベーターが三つ並んだ壁も見えるが、エレベーターは使いたくないと思った。そうして階段へと足を伸ばすが、一旦留まってすぐに引き返した。エレベーターを使われたくないと考えたのか。シオンはエレベーターの三つ全てがこの階に留まってない事を確認し、動いていない事も確認するとすぐ全てのボタンを押してエレベーターを呼んだ。右、左、真ん中と順番にエレベーターは到達する。シオンはその間に廊下に並んでいた観葉植物を二つ、消化器を一つと取ってきていて、開いたエレベーターの扉にそれぞれを挟んだ。すると、どのエレベーターも扉は開閉を繰り返すだけの機械となり、動こうにも動けない状態になってこの階で足止めを食らったのだ。これでも長い間は無理だが、しばらくの足止めには使えるだろう。
よし、と小さく呟いたシオンは改めて階段を下りる。階段は僅かにだが、建物内と雰囲気が違っていた。エレベーターをメインの移動手段としている事がハッキリと分かる雰囲気だった。だが、チリ一つ落ちていない程に綺麗で、手入れも行き届いている事もわかる。ちかい内に清掃員がくる可能性もある。急がなければ。
シオンは人気がほとんどない事を気にかけながら階段を下りた。その間にすれ違う人もいなかった。時折端に監視カメラを見つけたが、監視カメラは突入時にダミー映像に切り替えられているため、問題は最小限に抑えられている。ただの警備会社では気づくまでにどうしても時間を要してしまうはずだ。
階段を降りて降りて、一階にたどり着くまでは警戒していた事もあって相当な時間を要した。
そこで、シオンは一旦とまる。階段のある空間から一歩出ればそこは巨大なエントランスだ。受付もあり、常駐している者もいる。そして照明はその全域を照らし続けている。流石にそこに足を踏み出すわけにはいかなかった。
一応、と僅かに先を覗いてみると、エレベーター前と受付の前に人だかりが出来ている光景を見る事が出来た。シオンがエレベーターを止めたせいで足止めを食らった人々だろうか。そんな連中に階段を使えばいいのにな、と思いながらシオンは一度二階まで引き返した。
二階も前にいた階同様の廊下あり、その先に部屋ありといったフロアだが、廊下はそれほど長くなく、部屋の数も少ない。会議室が並べられた部屋だった。
(事前の情報では確か、二階のダクトから侵入……ってのが私のルートよね)
シオンは事前に言い渡された自身の行動ルートを思い出しながら廊下の天井を見回した。と、すぐに見つける事が出来た。
敵の襲撃はない。敵の襲撃どころか影もない。ならば少女を運ぶ手伝いをするか、とシオンはダクトへと跳んだ。
21
ダクトの中は暑く、狭い。シオンはこの暑さにうんざりし、装備を全部脱いでやりたい気持ちにもなったが、仕事、と我慢し、進んだ。時折直角に下りる場所もあったが、比較的の身体の柔らかい彼女には何の問題もない通路だった。暫くそうやって進んでいくと、目的の場所についた。
静まり返ったダクト内。耳を下につけて先から声が聞こえないかと伺うが、それよりも前に部隊長からの通信が入った。シオンに向けて、だ。
『目標を捕獲。シオン、合流しろ』
耳に響いたその声に「了解。三秒で到達」と返したシオンは先の事等気にしないでダクトの蓋を思いっきり外して蓋と同様に飛び降りた。
足に痺れの欠片も感じられない程に綺麗に着地したシオン。その先は薄気味悪い暗い部屋だった。無機質で湿っぽい印象を感じさせる黄ばんだ剥き出しのコンクリートが印象的な一○畳程の部屋だった。見えるのは事務机とそれに合わせた椅子、そして何か研究装置の様なモノが飾られた棚だけだった。
「早いな。シオン」
と、シオンに太い男の声がかけられた。振り返ると、小さな『黒髪が強い真っ白な女の子』の手を引いたナンバーのメンバーの一人の姿があった。
喋る事自体に抵抗はないが、女だと気づかれ、気を使われるという事を無意識の内に避けてシオンは無言で頷いた。マスク越しの柔らかな呼吸音のみが部屋に響いていた。
「よし、行こう。この子を連れたままではダクトを使えない。この地下の通路を使う事になる。出口は他のメンバーが確保してくれているから、そこまでの道、頼むぞ」
男はそう言うと、少女を巻き込む様にして無理矢理に踵を返した。少女の事等考えもしない行動のせいで、少女は僅かによろめきながら男に従う形になった。
その一瞬。本当に気づくか気づかない一瞬。少女と、シオンの目が合った。視線が重なった。意思が通じた。少なくとも、少女の意思はシオンに届いた。
シオンの目は赤外線ゴーグルを模したサングラスの様な何かによって隠されているが、それでも確かにシオンは少女と視線を重ねた。
助けて、という意思が流れ込んでくるようだった。
悲しげな目。自身がどうしてこんな事になっているのか分からないと言わんばかりの理不尽に耐え切れない弱々しい瞳。
(…………、)




