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2.get back the taste.―15

 龍二の姿は既にそこにはなかった。

 春風は目を細める。そして、気だるそうに、また懸念する様に「あーあ」と適当に吐き捨てた。と、同時だった。玄関扉が締まる音。その音はやけに神代家の中に響き、春風を反応させた。

「ちょ、オイコラ! 離せこのガキッ!」

「そのガキに奇襲かけて失敗して捕まったのァどこのどいつですかねぇ!」

 愛嬌のある応酬が聞こえてきた。龍二は春風の予想よりも僅かに早く行動を起し、春風の予想より僅かに早く問題を片付けていたのだった。ほどなくして、ローブを引っペがされた男が龍二に引きずられる様にしてリビングへと登場し、春風へと顔を合わせる。

「どうも、ゆっくりしていってね」

 春風は哀れみの視線と共にそんな嘲た挨拶で彼を迎えた。

 龍二は男を無理やり食卓に座らせた。が、ただそうするだけでなく何処から持ってきたのかやたらと屈強そうな縄で男の体を椅子に縛り付け、首から下一切の動きを封じた。手馴れた動きに春風は僅かだが感動したのだった。

 男は二○代半ば程の若い男だった。明らかに龍二達よりは年上であるが、現在の関係上、上を名乗れるのは龍二達だった。

 龍二の指示もなかったが、春風は慣れた様にお茶菓子を三人分用意し、食卓に、男が拘束された目の前に並べた。何の気遣いか、男の目の前に置かれたアイスティーの入ったグラスにはストローが刺さっていた。両手が封じられている男への謎の気遣いだった。

 男の前に龍二が腰を下ろし、その隣に春風が座る。リビングの雰囲気は何処かおかしかった。希望の会社への面接を目の前にしたような空間と、何故なのか不思議な行動ばかりをこの短時間で見せる龍二達に男は困惑しているようだった。

 襲撃してきた相手を捕まえたのに殺さず、挙句お茶菓子までだす殺し屋がどこにいるというのだ。と男は必死に現状を理解しようと考えを巡らせるが、その考えは数時間経とうと答えにはたどり着けない。

「で、どこ所属?」

 龍二は素っ気なく聞いた。妙に慣れた感じが男を威圧していた。

「…………、」

 男は素直には答えない。強がりだな、と龍二は感じ取った。男は立場を分かっていながら理解していないように見えたからだ。殺し屋が感情に左右されるのは良くない事であるが、目の前のこの男は度々そんな風に気を上下させているのだろうな、と容易く予想出来た。

 まぁ答えないなら答えないで良いけど、と冷たく言い放った龍二は懐から一丁の拳銃を取り出して男のすぐ目の前に差し出す様に、机の上を滑らせた。当然、男の視線はその銃をなぞった。すぐに男は視線を戻し、正面の龍二を見る。何か? といった表情がまた、男の強がりな性格を無意識の内に強調していた。

「まぁ、飲めよ」

 龍二は意味深に目の前のアイスティーを進めた。

 殺す気があるなら龍二はいつでも目の前の男を殺せる。が、生かしている。こんな状況でわざわざ飲み物に毒を入れるはずがない。そう踏んだ男は緊張のせいで干上がっていた喉を潤すために、そこは素直になって状態を前のめりにし、ストローに口を伸ばした。飲み物を飲んでいる間も、男の視線は春風と龍二とを右往左往して警戒していた。今更警戒した所で、チャンスが来るはずなどないというのに。

 男が飲み物を飲んでいる間、龍二は「飲みながらでいいから」と言って質問を始めた。

「俺がターゲットの依頼だったのか?」

 飲み物を与えた礼のつもりか、今度は男は、暫く考えるような間を空けて、静かに喉を鳴らしながら頷いた。そこで、男はストローから口を離した。

 男は再び龍二と春風を一瞥して確認した後、静かに口を開いた。

「家まで完全に防御してあるなんてイカレやがる……」

 男は素直だった。今回ばかりは心中を素晴らしい程に吐露していた。玄関はC4爆弾でも傷一つつけられないし、完全に開く窓は(日和の出入り用の龍二の部屋以外)ない。壁は対衝撃センサーが張り巡らされていて、だがそれも牽制で室内には動体センサーと高性能マイク、高画質小型監視カメラも仕込まれていて、挙句、それらは潜入後即検査をしようとした相手から隠し、ジャミングや破壊を防ぐために検知してから一定の時間動かない様に設定されていたりする。そして窓の全ては高速スナイパー弾ですら弾くどこで手に入れたのだ、と問いたくなるようなモノで全て窓枠にはめられている。

 男が文句を言いたくもなるのも無理はなかった。

「俺がターゲットでいいんだな?」

 龍二は男の愚痴を敢えて無視して問い直した。男の愚痴に答えるにもこの質問に答えてもらわなければならない。龍二がターゲットであればある程度の情報を得ているはずだ。だが、そうでなければ情報があるとは限らない。わざわざ教えてやる義理もないだろう。

 男はここまでの数分でやっと立場をわきまえたか、静かに頷いて返した。

「そーだよ。分かってんだろ」

「確認しないといけないモンでしょ。殺し屋じゃなくても分かるわよ」

 男の態度に呆れたか、春風ははぁ、と嘆息しながらそう言った。それが気に触ったのか、男はギッと鋭利な視線を春風に突き立てたが、龍二が話掛けた事でそれはすぐに逸らされた。

「俺は殺し屋だが、元だ。最近現役になりつつあるがな。そんな生活してるせいか、俺の情報は無駄に漏れてるんだよ。本当の意味でゆっくり出来る場所なんてないが、それに一番近いのがこの家だ。より安心して休める様な改造くらいはしてある」

 龍二は得意げにそう言うと、アイスティーで喉を鳴らした。冷房の効いた室内とは言えど、この真夏の中の冷たい飲み物は格別だった。

「大体よぉ!」男は急に大音声で話出した。「学生生活送ってるなんて聴いたからだらけた運だけで偶然生き残ってきた殺し屋だろうって思うじゃんよ!?」

「思わねぇよ」

 男の言葉に龍二は心底呆れた。そして本当にこいつは殺し屋なのか、と疑ってしまいそうだった。

「殺し屋としての基礎も出来てねぇお前みたいなのが、何で派遣されたんだろうなぁ……」 

 龍二は呟く様にそう言って、考え始めた。

(正直、この男の実力は知れてる。一応にも俺は神代家の人間だ。それに丁度この前ウルフの連中を潰したばかり。目の前の男もそれを知らないはずがないだろう。協会が所属殺し屋団体に情報をバラまき、抑止力として使っているはずだしな。なのに、なんでだ?)

 一応の確認だ、と龍二は問い直す。

「で、所属は?」

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